天国の本屋

アキノリ@pokkey11.1

ただ1つの気持ち

愛している

天国とこの世界を繋ぐ本屋

「なあなあ。知っているか?この町の近所に胡散臭い本屋があるらしいぞ。何でも願い事を叶える為に現れるらしい」


「ああ。知ってるぞそれ。天国に繋がっているとかの本屋だろ?」


「.....え?マジかよ。.....なら今度俺も行こうかな」


「馬鹿か。迷信だっつーの」


そんな会話を聞きながら誕生日で17歳になって高校2年生になった俺、真田スバル(さなだすばる)は眠気まなこもそこそこに起き上がる。

3月。

外では.....桜がまるで胸を張って誇っている様に咲いている。


昨日、ヤケクソ気味に勉強を深夜までしていたせいで眠気が全く取れない。

強迫観念だ。

大丈夫。理由は分かる。


「.....」


教室はそんな迷信に満ち満ちていた。

最近はそんな話題ばっかりである。

まあ高校生ってのはこんな感じだろうしな。


眠い目を擦りながら俺はその迷信の話に耳を傾ける。

実際俺も.....信じてない派にはなりたい。

だけど。


「.....」


そんな事をポツリと呟く。

俺はそれでもそんな迷信にも神に縋っても天国に縋ってでも.....会いたい人が居た。

それは.....横の席。

そこには優しげな花束が添えられているが.....この場所に居た病気で亡くなった幼馴染。


瀬島朋(せじまとも)。

17歳没。


彼女の頭の中は最後は腫瘍ばっかりだった。

そして遂に17歳の最近.....力尽きたのだ。

俺はあまりのショックで泣いていた。


だけど最近は全く泣いていない。

何故かと言えばもう泣き叫びすぎた。

あまりにもショックを受けすぎた。

枯れた。

涙が。

簡単に言えばこれ以上ないぐらいにもう.....疲れたのだ。


「.....」


その中で俺は朋に何としても会いたかった。

何故かと言えば伝えられなかったこの内なる想いを伝えたいから。

嫌われても良い。

何なら.....引かれても良い。


でも。

最後の言葉を君に、と思っていたのだ。

なのに根性無しの俺は伝える事すら出来ず.....結局彼女を見送ってしまった。


本当に一生の後悔だった。

俺は涙を浮かべる。

そして突っ伏してから幼馴染が教えてくれたライトノベルを見ながら神に祈る。

幼馴染の件もあり神を信じた事は無い。


だけど今はもう.....これ以上に縋るものはない。

神様以外に縋れるものなど。

この世界に無い、そう思っている.....。

そして俺は頭の中で念仏を唱えるかの様に愛しい人へ最後のメッセージを届ける。

天国に届く様に念じていた。


届け。

この想い。



それから2ヶ月が経った5月。

俺はいつもの様に学校から居ない朋の事を思いながら帰宅していると。

涙目の先に。


先程、つまり.....7時間前には無かった空き土地に.....何故か本屋があった。

朝には無かったのに.....何故か木製の本屋が出来ていた。

古びた書店だ。

あれ?道を間違えたか?


「.....?」


俺は涙を拭きながらドアを持ってみる。

そしてガラガラと横開きのドアを開けてみる。

何で俺はこんな事をしているのか。

でも新作のラノベでも売ってないか、と思ってから開けてしまった。

そして店内に入ると.....。


「いらっしゃいませ」


「.....え?あ.....失礼します」


そこに.....着物姿のお姉さんが居た。

丸メガネを掛けているまるで.....昭和の初期の女性の様な姿。

俺はビックリする。


何故ならこの女性の気配が声を掛けられるまで全くなかったから。

この女性は書店の主だろうか?

するとお姉さんは不思議な事を言い出した。


「この1日しか開店しない本屋を見つける貴方は幸運ですね」


「.....え?.....それはどういう意味ですか?この本屋って移動販売ですか?」


「いえ。移動販売ではございません。本当に必要な人には見える。.....本当に必要で無い人には見えない本屋です」


「.....???」


話が通じない。

というか意味が分からない感じだ。

俺はニコッと微笑むお姉さんを見ながら、ま、まあ良いです。.....えっと。ライトノベルって置いてありますか、と聞いてみる。

するとお姉さんは、はい。置いてありますよ。貴方の欲しい物は何でもあります、と答えた。

微妙に噛み合ってない気が。


「じゃ、じゃあライトノベルを購入させて下さい」


「はい。.....ではコーナーにご案内致しますね。あ。その前に」


「.....はい?」


「ライトノベルは貴方の大切な人の朋さんという方から教えてもらったもの。それは間違いないですね?」


「.....はい。まちが.....あれ?そんな事、俺.....貴方に話しましたっけ?」


「私は全てを見通す力があります。神様のお力を借りています」


全てを見通す力?神様?力?借りている?

俺はちょっと意味が分からない、と思いながら?を浮かべる。

そして考えていると。


お姉さんが、貴方は幼馴染さんに会いたいですか、と聞いてくる。

俺は???を浮かべながら、失礼ながら.....亡くなっています、と話した。

すると、私は全てを見通す力を持っています。.....ここでは本を通じてこの本屋を通じて。あの世とこの世を繋いでいます。貴方様が亡き人の本に強く願ったという事で貴方様の前にこの本屋は現れたのです、と言ってくる。


「.....えっと.....」


「.....私の名前は肝鎚イネ(きもずちいね)と申します」


「.....」


これはどう反応したら良いのだろうか。

どう.....えっと。

この人がつまり厨二病なのか?

俺は思いながら見ていると。

本は思い出を紡ぎます、と哲学的な事を言ってきた。


「.....本は全ての思い出を紡ぎます。.....貴方が本に強い願いを込めたお陰でこの本屋は貴方の前に現れたのです。さあ。貴方の願いは何ですか?」


「.....!.....まさか.....この本屋ってまさか.....」


「.....亡くなった人と繋がれる本屋です。.....ただしこの本屋内で1日だけですが」


「.....そうなん.....ですね。なら俺は.....」


幼馴染に会いたいです、と涙を流しながら言う。

そう願いを込めて肝鎚さんを見た。

すると肝鎚さんは、そうですね。そう言うのをずっと待っていました、と言いながらエプロンから短冊を取り出してくる。

俺は?を浮かべてその短冊を受け取る。

肝鎚さんは、この短冊に会いたい人の名前を書いて下さい。その願いを天国と繋ぎます、と笑顔になった。


「.....」


俺は力強く頷きながらそのまま朋に会いたいと名前などを書く。

それから短冊を受け取った肝鎚さんは黒電話?の様な変な形の電話で電話し始めた。

俺は、あれって動くんだ、と思いながら驚きながら見る。

そして待つ事.....10分。

いきなり後ろのドアが光り始めた。


「.....うわ!?」


そしてドアが開く。

それから.....そこに。

あり得ない。

朋が。

立っていた。


「.....と.....」


『.....会いたかったよ。スバル。久しぶりだね.....』


「.....夢じゃ無いんだよな.....?」


『.....天国は無いって言うじゃん?人って。.....でも現にあるんだよ。天国って。.....こうやって繋がる。人の心さえあれば』


「.....」


俺は膝から崩れ落ちる。

そして号泣し始めた。

それから.....朋を見る。

朋は、君がライトノベルを、私を祈ってくれたから会えたんだ、と俺の手を握る。


『.....どうやら時間が無いね。デートを急がないと』


「.....あ、ああ。そうだな。ってデートっておま」


『.....まあまあ。実はこの本屋には.....ベランダがあるの。.....そこでお茶出来るから』


「.....あ、ああ.....」


そして俺達は時間が過ぎる。 

過ぎまくる楽しい時間を潰す。

それでも俺は本当に楽しく過ごせた。

それから.....時間が約束の時間になってしまう。

夜の24時を迎えていたと思われる。


「.....そろそろ閉店です」


『.....あ。すいません。肝鎚さん』


「.....夜の.....24時か!?」


『.....あ。気にしないで良いよ。スバル。時間は.....巻き戻せるの。.....肝鎚さんが』


「.....え.....?」


俺は???を浮かべながら見ていると。

肝鎚さんが、恐れ入ります。約束の翌日になるので.....、と寂しそうな顔をする。

その姿を見ながら俺は、あ.....、と困惑する。

すると、ねえ。スバル、と.....朋が笑顔を浮かべた。


「.....な、何だ?」


『最後に。.....私ね。.....貴方が好き。貴方が必死に祈ってくれた気持ち。私.....忘れないよ』


「.....お.....お前.....」


『肝鎚さんがくれた奇跡だね。噛み締めないといけないね.....』


「.....俺は.....」


笑顔になる朋。

俺は真っ赤になって言葉に詰まる。

そしてまた話せなくなる。

詰まってしまった。


それから、じゃあそろそろ天国に帰らないと、と言い出す朋。

俺はその姿を見ながら何とか青ジミが出来そうなぐらいに膝を叩き立ち上がった。

そうしてから絶叫する。


「お前が好きだ!!!!!」


『.....え.....スバル?』


「俺は人生で永遠に独身で居ようと思う.....お前が.....お前が好きなんだ。マジに」


『.....スバル.....』


「俺が死ぬまで.....待っていてくれるか?」


『.....もう.....そんな事言わないでよ.....他の女子を見つけて.....』


「お前が好きだ。お前しか見えない」


そして俺は駆け寄ってから抱き締める。

すると朋は泣いていたのか。

泣き顔を俺に見せてきた。

俺は!と思いながら朋を見る。

こんな顔見せたく無かったのに、と赤くなりながら言いつつ。


『スバル。.....最後に』


「.....何だ.....え?」


そして俺の唇にキスをしてきた朋。

それからその瞬間、朋の身体がだんだんと足元から光の粒子になって消えた。

時間だね。.....スバル。有難うね。楽しかった。嬉しかった。愛してる、と消滅する。

俺はその光の粒子を見てから。

静かに背後を見る。


「.....このお代は.....」


「この経験にお金を支払うのは好きな金額で構いません。この.....本屋の名前は(天国のキセキ)という名の本屋です。皆様の愛の慈善事業で成り立っていますので」


「.....全財産置いてって良いですか」


「.....え?.....それは構いませんが.....大丈夫ですか?」


「.....俺には金に勝る力を見ました。.....明日から.....元気でやっていけそうですから。次の人にキセキを見せてあげて下さい」


「.....スバル様.....」


「お願いします。.....俺が.....納得しないので」


そして俺はお代の代わりとして一冊だけ机に置かれた本を持った。

それから笑顔で肝鎚さんを見る。

そうしてから俺は、有難う御座いました、と頭を下げて言う。

すると肝鎚さんは、本当に不思議な人ですね、と.....言った瞬間。


「.....え.....」


「24時を過ぎました。言ったでしょう?この本屋は1日だけの奇跡です。本で繋がれる奇跡なのです。.....だからそんな寂しい顔をしないで下さい。また会えます。貴方の持った本は.....貴方をこの先も救う筈です。また会いましょう。.....スバル様」


そして全てが光に包まれ.....。

とそこで俺は.....そのままベッドで目が覚めた。

俺はボリボリと頭を掻いて起き上がる。

変わらない部屋。

変わらない何もかも。

何だ夢か今のは。


「.....あーもう。下らない夢を.....」


そこまで言った時。

俺の右手に何か握られていた。

それは青色のグシャッとなった短冊だ。

そして、朋に会いたい、と書かれており。

机に.....本が置かれていた。


「.....夢じゃな.....かったのか!?」


俺は唖然とする。

そしてバッと見る。

天国の奇跡社と書かれたビニールと一緒に置かれていたのは本だった。


記念撮影をしてくれた写真と。

そしてその本。

そこには.....タイトルとして。


(貴方への祈り)


と書かれていた。

ライトノベルらしいが.....。

俺はそれをパラパラと恐れながら捲る。

そして読んでみる。


それはいかにも選択がアイツらしい、ライトノベル、という感じの.....本だった。



それから俺は直ぐに空き地に向かう。

でももうそこには本屋は無かった。

本当に1日だけの奇跡だった気がする。

だけど俺はその1日で。

全てにおいて。

生きていけそうな気がした。


fin

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