魔女リルフィアの本屋は繁盛している。
友斗さと
第1話 婚約破棄をめぐるとあるお話
ここは王都の一角にひっそりと存在する本屋。
魔女・リルフィアが営む本屋である。
「いやぁ今日も繁盛してますなあ!」
「ええ。おかげさまで」
有翼族の気の良い少年が元気よくそう話しかけてきた。リルフィアはにっこりと笑って頷く。
それもこれもとある本が原因であった。
どうやら巷では悪役令嬢やら婚約破棄やらが流行っているらしい。今日も今日とてまた一人。高貴な令嬢が件の本を手に取ってこちらに向かってくる。
「おっとそれじゃあ俺はこの辺で」
「ああ、待ってください。この手紙を子爵に届けてもらえますか?」
少年は首を傾げながら手紙を受け取った。そうして何かを察したように白い歯を見せて笑った。
「了解でっす」
「お願いしますね」
大きく羽を羽ばたかせて、少年は飛び立って行った。すると令嬢から「あの」と声をかけられた。
「すみません。これをください」
「ありがとうございます」
お目当てはやはり巷で噂の『婚約破棄』シリーズである。これの問題点は小説に感化された令嬢達が婚約破棄しているというところである。
「お言葉ですが、婚約破棄を考えておられるのですか?」
令嬢は表情を強張らせた。どうやら図星のようである。
「私……婚約者とあまり仲良くなくて……その……愛されていないのかな……て」
自分に自信がない様子の令嬢は俯いたまま話をしてくれた。
その時だった。
「そんなことはない!」
「子爵様!」
「君はとても素敵だ!その……素敵すぎて上手く言葉が出てこなくなるんだ!」
「そ、そんな」
「愛しているよ」
タイミングよく令嬢の婚約者である子爵が現れた。どうやらリルフィアが出した手紙を見た子爵が慌てて駆けつけてくれたようである。
子爵の気持ちを聞いた令嬢は頬を赤らめて再び俯いてしまった。そんな令嬢を子爵は愛おしそうに見つめている。
この本を令嬢が買うことはないだろう。リルフィアはそっと本を商品棚に戻したのだった。
魔女リルフィアの本屋は繁盛している。 友斗さと @tomotosato
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