光風

桃酢豚りんご

光風

 天気予報は快晴。スギ花粉が多いらしい。

 だけど明日の予定はなくなった。

 前髪を切り過ぎたから、丁度良かったのかも。

 

 日の光が毒になりそうで、分厚いカーテンは閉め切ったままのワンルーム。

 卒業式がどうだとか、梅の花が見ごろとか。とにかく何でもいいから、誰かの声が聞きたくて、朝からずっとテレビを睨みつけている。


「どうでもいいじゃん」

 って、台所のサボテンが言ったから。

「うるさいよ」

 って、投げやりに返した。 

    

 メンソールの煙でできた雲が、ひざ小僧に水滴を落とす。明日も雨だったら良かったのに。そうしたら、みんな不幸になったのに。

 

 携帯電話の画面は真っ暗だし、お急ぎ便は明日届かない。地方だから仕方ないって、それ誰が決めたんですか?

  

 二人掛けのソファに沈んでいく体を、引き上げてくれる人はいない。考えれば考えるほど、八畳の残像に溺れてしまいそうだった。

 

「カーテン開けなよ」

 って、ミニトマトが囁いたから。

「自分で開けてよ」

 って、クッションに顔を埋めた。


 食器、捨てようかな。捨てられるかな。

 煙草、やめようかな。やめられるかな。

 

 本当は、メンソールなんて吸いたくなかった。

 タトゥーだって入れたくなかったよ。


「お水ちょうだい」

 って、ルッコラが肩を叩くから。

「……わかったよ」

 って、顔を上げた。


 煙草の火はいつの間にか消えていて、絨毯に灰が散らばっていた。

 踏みつけないように立ち上がったら、サボテンが手招きする方に向かった。


 水に浸けたフライパンに、反射する顔。そばかすと、切り過ぎた前髪。ぱんぱんに腫れた目の主張が激しい。

 あまりにも不細工で、ちょっと笑った。


「元気になった?」


 ありがとう。心配かけたね。

 君たちもさみしくならないように、友達を増やそっか。

 

「ちゃんと育ててね」


 うん。育てかた、調べるよ。


 クリスマスに貰った香水をつけて。

 買ったばかりのスカートを履いて。

 

 そうだ、明日は本屋に行こう。 

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光風 桃酢豚りんご @ringo_high

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