お気に入りの鉛筆

栗亀夏月

お気に入りの鉛筆

小学3年生のコウタはカッコイイものが大好きだ。

小学生男子は仮面ライダーだとかヒーロー戦隊とかマーベル映画に憧れる。

しかし、学校にそういったおもちゃは持ち込めない。

だから文房具や持ち物の中でカッコイイものを身につける。


夏休み明け最初の登校日。

みんな日に焼けて真っ黒だ。宿題をやってない人や忘れた人、天気を書き忘れいてクラスの真面目な人から書き写させて貰っている人。色んな人がいる。

コウタは親友のシンヤとユウスケと夏休みの思い出を話していた。

「俺は家族で水族館に言ったぜ」

コウタはその時見たイルカショーやクラゲの話をした。

「俺は海で泳いだよ。3日間も、それに釣りもした」

ユウスケは母親の実家のある新潟の港町の話をした。

「俺は博物館に行ったな。そこでカッコイイ鉛筆を買ってきたよ」

シンヤはそう言うと、恐竜の柄の鉛筆を3本取り出した。

「これお土産だからやるよ」

シンヤはそれぞれに鉛筆を渡した。

「やった!これ、ティラノサウルスだよね」

コウタは喜んだ。

「うん。これが一番人気で売り切れそうだったんだよ」

シンヤは喜んでくれたことに対して嬉しそうだ。


コウタはその鉛筆を大切に使った。

特にテストの時に気合いを入れて使った。

なんとなく綺麗な字が書けるような気がしたし、漢字も計算もスラスラ解ける気がした。

もちろん気のせいだが、この鉛筆はそれだけコウタのやる気を引き上げをた。

鉛筆のおかげでやる気が出たコウタは、宿題の日記などもその鉛筆を使うようになった。

しかし、鉛筆の寿命もそう長くはなく、2ヶ月もしないうちに半分以下になってしまった。


「シンヤ。貰った鉛筆こんなにつかったぜ」

コウタはシンヤに見せた。

すると、ユウスケも現れた。

「俺はまだ、全然使ってない。ティラノサウルスが消えるのがもったいなくて」

言われて見ればそうだ。

コウタの鉛筆はティラノサウルスの身体がほとんど削られ、残りは頭だけになっていた。

「ちなみに、俺は家に飾ってある」

シンヤはそもそも使ってないらしい。自慢げにそう言った。

三者三様のの使い方をされているティラノサウルスの鉛筆だが、この後コウタを災難が襲う。


音楽の移動教室だろうか、理科の移動教室だろうか、詳しくは分からないがなんと鉛筆を無くしてしまったのだ。

その日は下校時間ギリキリまで大捜索をした。

色んな教室を周り、色んな生徒や先生を尋ねた。落し物ボックスも探し、念の為ゴミ箱まで探した。

翌日も大捜索は続いた。しかし、ついに鉛筆は見つからなかった。


コウタは家で泣いて悲しんだ。

それを見かねた両親は似たような動物や恐竜のイラストなどの柄の鉛筆を購入してきたが、コウタは満足しない。

コウタは自分の行動を呪い、消えた鉛筆のことを思いながら布団に潜った。

涙は流れ続けていた。


翌朝。コウタはなぜかぐったりしていた。

昨日の大捜索が疲れの原因だろうか、それとも泣き喚いた事が原因だろうか。

そして、何気なく顔を擦り鏡を見て驚いた。

なんと土がついているのだ。手のひらと顔に茶色の土がついていた。

急いで両親にそのことを伝えると、母はさらなる発見をした。

なんと、足の裏まで土まみれだった。

「コウタ。なにか外のものでも踏んだか、布団に泥でも着いてたか」

父親は心配している。しかし、コウタにも心当たりがない。

とりあえず、綺麗になると朝食を終えて学校の準備を始めた。

そして驚いた。

筆箱がパンパンで、その中はカッコイイ恐竜や新幹線などの柄の鉛筆が詰まっていたのだ。

「ありがとう!お母さん。お父さん。いってきます!」

コウタは喜び家を飛び出した。

大切な鉛筆は戻って来なかったが、自分が欲しいと思っていた、まさに思い描いた通りの鉛筆がたくさん貰えたのだ。

コウタは嬉しかった。


授業中。コウタは国語で文字を書こうとして、どの鉛筆を使うか迷った。

ひとつを取ると、担任の村井先生の指示した漢字を書こうとした。

しかし、上手く文字が書けない。かすれてしまう。

それに、なんだか重い気がする。

違う鉛筆に変えてみた。しかし、その鉛筆は直ぐに折れてしまう。

仕方ないので、筆箱の奥にあるいつもの鉛筆を使い授業を受けた。


次の数学の授業では、村井先生が生徒の机を見回っていた。

村井先生はコウタの前で止まった。

「コウタくん。筆箱の中ちょっと汚いかな。この後捨てておいで」

しかし、コウタには意味が分からない。

大切な鉛筆をなぜ捨てないと行けないのだろう。

「嫌です。どれも大切なんです」

「確かに、どれもコウタくんにとってはたからものかもしれないけど、これだと勉強しずらいでしょ」

「鉛筆が多くて何が行けないんですか!」

コウタが少し怒ったところで授業は終わった。


休み時間になり、シンヤとユウスケにもこの鉛筆画見せたくなり二人を読んだ。

「シンヤ、ユウスケ。これ買って貰ったんだ。どうかな」

するとふたりは筆箱を覗き込んで、それそれ目を合わせると、急に笑いだした。

「コウタ。何言ってんだよ。冗談きついな」

「それが鉛筆か、面白いね」

コウタはシンヤとユウスケの反応に戸惑った。



帰宅し、両親に鉛筆のお礼を言おうと思い、リビングに筆箱を持って行った。

「お父さん、お母さん。これくれたんだよね。ありがとう」

すると、母親の顔は驚きに変わり。父親は目を見開いた。

「コウタ。こんなの捨てなさい。もしかして学校に持っていったのか」

父親の剣幕は激しかった。

なぜ怒られるのか、コウタは逆に怯えた。

「とにかく、汚いわ。捨てましょう」

母親が言い、父親がコウタから筆箱を取り上げた。

「待ってよ。俺の鉛筆!捨てないで」

しかし、父親はゴミ箱ではなく真っ暗な外に筆箱の中身を分別して投げた。

残されたのは、普段使っている鉛筆だけだ。

それ以外は、コウタの家の裏の林に消えた。

コウタは泣いた。理不尽すぎる現実に涙を流した。

「とにかく、今週末。鉛筆を探しに行こう。いいなコウタ」

そう言うと、話は終わった。

コウタはこれ以上この場にいるのが嫌になって、走って部屋に逃げた。


その後、コウタはやる気を失い、ダラダラと明日の準備を終えた。やはり疲れている。布団に入ると瞼が閉じると同時に眠りがおとずれた。


翌朝。コウタは手足の僅かな痛みで起きた。

よく見ると、かすり傷がついている。さらに、手足はやはり土まみれだった。

コウタは怖くなり、両親の元に行った。

「コウタ。今週末鉛筆を買うのはやめよう」

父はそう言うと、「病院」だとか「むゆう」と言った単語を使って母親と会話をしていた。

「コウタ。学校へは行ける?」

母親の質問の意味が分からなかった。別に学校は関係ないような気がした。

「ちょっとだるいけど、大丈夫」

そして、またもやパンパンに膨らんだ筆箱を持って、学校へ向かった。


コウタは楽しみだった。

この筆箱を開ければきっとカッコイイ鉛筆がたくさんあると予想出来た。

案の定、筆箱の中はカッコイイ鉛筆で満たされていた。

仮面ライダーやレンジャー戦隊。車やゲームのキャラ。

昨日より内容が充実していた。


1時間目は国語だった。

今日は作文でたくさん文字を書く、新しい鉛筆を使うのが楽しみだった。

しかし、上手く書けない。

違う鉛筆は折れてしまう。

別の鉛筆は重たく冷たかった。

さらに持ち替えるが、黒鉛筆のハズなのに赤い太い線がかけた。

さらに、次の鉛筆は油っぽくベトベトした。

そして、筆箱の中を探っていると、指先に痛みが走った。

「いてっ!」

「どうしたのコウタくん」

ずくに村井先生が近づいてくる。

そして机の上を見て驚く。

「まだ捨ててなかったんですか」

そして、コウタの指先を見てまた驚いた。

「待って、血が出てるわ。保健室に誰が付き添って」

クラスの保健委員会の女子が立ち上がった。

「近くの席の人は気をつけて、コウタくんの筆箱の中の物を捨てましょう」

村井先生のその言葉はコウタには許せなかった。

「待ってください先生!捨てないで、大切な鉛筆なんです」

しかし、みんなは驚きながら鉛筆を片付け始めている。

「やめろ!捨てるな!」

しかし、コウタはもう一人の男子にも捕まえられて、保健室へと連れていかれる。


シンヤとユウスケはコウタの筆箱を見る。

そこにあったのは、木の枝や、クギ、歯ブラシ、化粧品、針金、お菓子など。

細長いものはなんでも詰められていた。

シンヤとユウスケは震え上がった。

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