笑い話で済ませましょう?

冴木さとし@低浮上

最終話 なんでもよかったの。

 僕はわざと軽くぶつかって、本屋から出ようとした女性を止めた。そのまま話しかける。


「あ、ごめんなさい。大丈夫ですか? あれれ? 北倉きたくらさんじゃないですか?」

「い、井波いなみ君?」

 答えたのは北倉沙也加きたくらさやかさん。僕と同じ高校に通っている真面目で成績も良くなんでもできる女の子。クラスの人気者だね!


「大丈夫です? ケガしてません?」

 たいして僕は井波慎吾いなみしんご。フツメンでその他大勢の男子高校生。ゲームで言うならモブだよね。自分で言っておいてダメージ受けちゃいそうだね! 


「うん。大丈夫。ちょっとぼーっとしてただけ」と北倉さんは笑っている。

「そうですか、よかったです。どうしたんですか? お店の中なんて見て。きょろきょろしてたら不審者だって思われちゃいますよ?」

「そ、そうだね。やぁね。ほんとそうよね」

 自分の顔を手でひらひらあおいでいる北倉さん。きょろきょろしてるのは相変わらずだ。


「おっと、鞄からタオルが落ちそうですよ? 何か慌ててたんです?」

「えっ。ほんと? ちょっと待ってね」と北倉さんは鞄をあける。失礼ながらその中の本を見て僕は声を上げる。


「えっ!? 北倉さん! こんなラノベ読むんですか!? 僕の中の北倉さんのイメージって純文学なんですけど」

 感想を思わず話してしまう僕。


 北倉さんは慌てて

「え? そうね。たまには違うジャンルも読みたくなるのよ!」と話す。

「そうですよね。たまには違うジャンルの本って読みたくなりますよね! 北倉さん何かあったんですか? 嫌なことでもありました?」

 といって僕は北倉さんの目を真剣に見つめて話す。


「今ならまだ間に合います。笑い話で済ませましょう?」


 北倉さんは僕の目を見つめ返す。そして長いような短いような何とも言えない時間が過ぎる。耐えきれなくなったのは北倉さんだ。


「ごめんなさい」


 と短く謝った。僕は北倉さんの鞄の中から万引きしたラノベを取り出し、元の場所にそっと戻した。 



 終

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