【闇憑き姉妹シリーズⅠ】古書古書噺

深川我無@「邪祓師の腹痛さん」書籍化!

古書古書噺

「ねえ輪廻ちゃん知ってる?」


「なあに車輪カルマちゃん?」


「深夜零時ぴったりにだけ開く、曰く付きの本屋さんがあるんだって。」


「それでそれで?」


「実はね…コショコショ…」


「凄い凄い!!それは素敵ね!!」


「ふふふ。そうでしょ。」


「さっそく行ってみましょうか…」



双子の姉妹は吸い寄せられるように、夜の町を徘徊する。


ところどころ赤錆に侵された、古い街灯を追い越して、二人は暗い方、暗い方へと進んでいく。


時計の針がカチリと音を立ててちょうど深夜零時が訪れた時だった。


ジー。ジージジ…


パチンパチン…


寂れた本屋に灯りが点った。


薄いガラス戸の向こうには虫食いだらけの黄ばんだ古書が所狭しと並んでいる。


「ここだね。」

「ここだね。」



二人は同時に指さすと顔を見合わせて妖しく笑う。


御免下さい。


声を合わせて引戸を開き、中に入れど店主はおらず。二人は両手を取り合った。


「とっても不気味ね輪廻ちゃん。」


「だけど素敵ね車輪ちゃん。」


二人の奇麗な横顔をジーと音を立てる蛍光灯の光が照らす。


「奥へ進んでみましょうか?」


「暗い方へ進んでみましょうか?」


二人は天井まで届きそうな本棚の隙間を進んでいった。


試しに本の一冊を手に取ると、崩れ落ちそうな背表紙には『ヒトの喰い方大全』と見て取れる。


「怖い本ね輪廻ちゃん。」


「だけど見たいわ。車輪ちゃん。」


二人でそっと表紙を開くとヒトの断面描いた不気味な挿絵。


それにそれに、とどこからともなく声がする。



ぐちゅる…ぐちゅる。


ちゅるるん臓物。


血抜きの加減が命取り…


冥府に臓腑。



二人は黄色い悲鳴をあげて、パタンと表紙を閉じてしまう。


「聞こえた輪廻ちゃん?」


「もちろん車輪ちゃん。」


二人は顔を見合わせる。


「もっと奥に進んでみましょうか」

「もっと奥に進んでみましょうか」


いつしか蛍光灯はぶら下げられた裸電球に姿を変えて、ざわざわあちらこちらから囁やき声が蠢きだす。


しっとんりゃうしゅく?


さが目にししりくぞいな…


にゃがらんで死は遠いか?


あちに、餓鬼の心ぜましとまうすか…


南無南無とな…


南無南無とな…



「とっても危険ね輪廻ちゃん…」

「とっても危険ね車輪ちゃん…」


二人は同時につぶやいた。


「だけど私達は闇憑姉妹」

「だけど私達は闇憑姉妹」


「今夜も暗い穴の底を覗く」

「今夜も暗い穴の底を覗く」


二人はキャッキャと笑って飛び跳ねた。



「餓鬼共!!俺の店でなぁあにしてるぅ?」


突然響いた男の声に、二人は慌てて飛び出した。猫みたいに軽やかに本屋の外まで飛び出した。


「あーあ。残念。一冊本が欲しかったのに」


輪廻がぼやくと車輪が笑う。


「これなーんだ?」


手には一冊の黒い本。


「いっけないんだー車輪ちゃん!お代はちゃんと払ったの?」


「払ったよ。だって店主のおじさんの命は盗らずに置いたから」


それもそうねと輪廻も笑い、二人はスキップしながら家路についた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【闇憑き姉妹シリーズⅠ】古書古書噺 深川我無@「邪祓師の腹痛さん」書籍化! @mumusha

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ