【雑居ビル兵どもの夢の跡】

「まきねぇからさっき連絡あったんだけどさ、

もうバーのオッケー出たらしいから、 

ゆえんちゃん明日から働いてね?」

「はい?」

「バーで」

いや、そこじゃないです。

あの後結局ルミネさんの勢いに押され

食事もそこそこにおじさん三人衆と別れ

真希さんが待っていて私の就職先候補の

バー&ライブハウスがあるという

九龍城を思わせるような雑居ビルの前に来ていた。


「うわっ…でっデカイですね」

「まぁね〜元々ショッピングモールが入る

予定だったらしいんだけど

があったじゃん?」

そう言うとルミネさんはトントンと、自分の

サングラスを軽く叩いた。

つまる所、ルミネさんの目のように

いきなり発症する場合もあるため

ゴタゴタの中で頓挫してしまったのだろう。

「バーはここの3階にあるから行こっか」

「はっはい…!」

「あっその前にちょっと手借りていい?

ここ前よりマシだけどガレキやゴミがまだ

あってさ この目そうゆうの見えずらいんだよね~」

ルミネさんは言いながら、さっきまで真紀さんがいたのもあって

使っていなかった白状をついて私の手を握る。

今思い返せば、屋台で食べていた時もゆっくりと移動していたし

見た目よりか匂いで判断していた気がする。

「あっどうぞどうぞっ!

と言うか、このビルって前ショッピングモールが入る予定だったんなら

エレベーターとかって?」

「うーん...果たして永遠に点検中のエレベーターは、あると言えるのかなぁ?」

「あー..」

その時点でなんとなく察しがついたがやはり、錆びついた

入口を抜けてルミネさんが、指を指した先には

  現在点検中となっております

  今日も明日も明後日も点検中となっております 

  この先もこれからもだよ間抜け〇〇〇(放送禁止用語)

と二つの黄色と黒の張り紙に最後には、締めくくるように

いたずら書きなのか

赤いスプレーで殴り書かれていた。どこか見覚えのある筆跡で


「あのスプレーって…」


「ハハッご明察 音々だよ。ここに初めて来たとき少し、彼女荒れてたせいなのか

それともこのビルの階段にイラついたのかここに大きく書いていってさ

まぁ消す理由もないし個人的に、面白いし残してるんだ」


「ですよねぇ~なんかすいません...」

「謝らなくていいよいいよ~!あの時は私も含め

その場でいた全員が最高でゲラゲラ笑ってたしさ

あっ今さどの辺?」


「今二階に到着する所ですね」

「オッケーありがと」

やっぱり身内の犯行だったと、私は少し恥ずかしさを感じながら

ルミネさんの手を取りあまり電気が通っていないのか

踊り場にある途切れ途切れの蛍光灯を頼りに

薄暗い階段を登ってきていた。

ルミネさんは、この眼は暗いと見えにくいらしく

定期的に今どの辺にいるかと今、目の前に何があるかなどを

説明して三階まで歩いて来ていた。

過去の工事の名残なのか、所々廃材らしきものが

壁に沿って積みあがっていた。

「ねぇゆえんちゃん 少し立ち止まって

そのまま壁のほうによって」

「はい?」

「目を閉じてみないようにしてね 絶対だよ」

ピタッと立ち止まってルミネさんは、さっきの調子とは打って変わって

少し深刻さを帯びた声色を発して私に言った。ちょうど三階に続く階段の

踊り場にいた事もありそのまま壁沿いにより目を閉じる。

(なんだろ...?っつ!!!)

その直後だった。ヒンヤリとした空気と一緒に何やら

人らしきものがペタペタと足音を立て

「ヒャァーはハハハ」と

不気味に笑い歩いていったのだ。その形容しがたい不気味さに

私の足は竦みルミネさんも、慣れているのだろうけれど

怖いのか私の腕をぎゅっと掴み体を強張らせるのを感じた。

「うんもう大丈夫 行こっか」

「さっさっきのって何なんですか!?」

ゆっくりと目を開けてその場を見てみると

三階からの明かりが差し込むばかりで何もなく

私はぞっと背筋が凍るのを感じながらも

ルミネさんに連れられ移動していく。

「うーん...なんだろ一言で言えば「幽霊」みたいな?

ここじゃ「ウシナビ」って呼ばれてる」

「ウシナビ…」

「そそっ幸せを失った事に気づけないある意味一番幸福な人々

それがウシナビだよ あっ今目の前に扉がない?

紫?みたいな」

そんな話をしている内に、私達は三階に到着し

目の前にはごつめの線で縁取られた分厚い紫いろの

扉が鎮座していた。中で音楽をかけているのか

かすかに漏れて聴こえてきていた。

「んじゃ扉を開けて」

私は、少し力がかかるのを感じ

不安要素しか今のところないけどと言う言葉を

呑み込みながらバーの扉のドアノブを捻ったのだった。

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管理区域で笑う私たち。 霧雨煙草 @kiresama

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