本屋から始まる異世界旅行
海胆の人
本に選ばれると行ける世界
今日も今日とて学校帰りに本屋に行く。
すっかり馴染みになった本屋の店長と話をし、面白い本がないか今日も探す。すると見慣れない背表紙があり、手を取って見ると、
「もしもーしきこえてますか?」
なぜか本から声が聞こえる。店長に聞いてみたが声をかけてはいないという。
「もっかい聞くわよ?聞こえてる?」
「なあ店長、本当に何も言っていないのか?」
「ああ?たまには買っていってくれって言ったかもな」
なんだそれ。まあ大体は立ち読み専門だったからな。たまには買うか。
「しょうがない。じゃあこの本買うよ」
「毎度あり!」
家に帰って本を開く。今日から夏休みなのでゆっくりと読書ができる。
「ねぇ!さっきから聞いてるでしょ!さっさと答えなさいよ!?」
「本当に本から声が聞こえるよ……。あーもし聞こえていたらどうだっていうんだ?」
「やっぱ聞こえてたんじゃん、じゃあ異世界ツアーにご招待~!」
そう言うや視界が真っ白になり、そして浮遊感に包まれる。
視界がひらけた頃にはみたこともない植物の生えた山に居た。
「ここはどこだ?」
「ここはエトラル。あなたの世界とは違う、そう異世界ってやつよ」
「ツアーって言ってたけど君が案内してくれるの?」
「わたしはアドリアーナ。この本の世界の案内人よ。あなたの名前は?」
「おれは葉山真也、普通の高校生さ」
「そう、よろしくね、シンヤ」
「よろしく、アドリアーナ」
ということでアドリアーナという案内役に手を引かれこの世界を移動する。
「ここはどういう世界なんだ?」
「のんびりした世界よ。いわゆる日常系ってやつ。ほらあそこに主人公が居て、あそこで農作業をするそうよ」
たしかに誰かが畑に居る。そして次の瞬間、地面がめくれ上がった。
「な、なんだ!?」
「あれは土魔法ね。彼は魔法チートをもらっていていろんな魔法が使えるの。でも前世で疲れていたみたいで英雄だとかには憧れがなくて、のんびりスローライフをしたいんだって」
「なるほどね。わわ、時間が進んだ」
しばらくするとざっと時間が進んで一気に人が増えた。
「な、なんだ?」
「ふふこの本の世界だから時間経過が飛ばされたの」
なるほど。気がつくとあの耕してた人の周りに男も女もたくさんいて、畑だったところが街になっている。
「戦争もあったけど、主人公は魔法使いとして最高レベルだったから、難なく追い返し今では彼の国になっちゃったの」
スローライフが一転、国政なんて多忙の極みだな。そうしているうちにどんどん時間は過ぎてその国王となった彼に子供が生まれ、それぞれに土地と能力が分け与えられた。最期は子供や孫、さらにはひ孫たちに囲まれ静かに一生を終えた。
「なああの彼の魂は次はどこに行くんだろうな」
「それはわからないわ。次回作を筆者がかいてくれさえすればあるんでしょうけども」
いきなりずいぶんメタいな。
「それじゃあ私の案内もこれでおしまいになるわ」
「そうか。また来て良いかな?」
「ええ、来たくなったらこの本を広げてね。そしたらいつでも来れるから」
「ありがとう。じゃあまたね」
「ええ、来てくれてありがとう」
気がつくといつもの勉強机。最後のページを読み終えたとこだった。時計を見ると日付が変わっていて忘れていた宿題を慌てて片付け夜が更ける。
もしかしたらあなたにも本の案内役が現れるかもしれない。
本屋から始まる異世界旅行 海胆の人 @wichita
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