六花とけて、君よ来い

長月瓦礫

六花とけて、君よ来い


太陽の光にさらされ続け、すっかりゆるくなった雪をぐちゃぐちゃと踏み潰す。

柔らかい光がまんべんなく降り注ぎ、春を告げる。

雪の間からふきのとうが顔をのぞかせている。


私はわくわくしながら、春一番のふきのとうを食べる。

雪解け水が流れる音を聞きながら食べるふきのとうは最高だ。

私はじっくりと苦みをかみしめ、体中を駆け巡る春の香りを楽しんだ。


春が遠い場所から戻ってくる。新しい世界が広がっていく。

言葉が伝わらなくとも分かる。


春よ、どれだけ待ち遠しく思ったか。

長く厳しい冬が去ることをどれだけ望んでいたか。

あなたには分かるまい。


平等に優しさをふりまくあなたに、冬の辛さは分かるまい。

暖かな毛布にくるまれて眠っているか、花びらを地上へ投げて遊んでいるあなたには分かるまい。天に咲く花々をを人間たちに分け与えるべく、空から千切っては投げているあなたには分かるまい。


天から投げた花びらが凍り付き、小さな粒子になっていることをあなたは知らないのだ。

寒さに揉まれ、粉々に砕かれた花びらはうずたかく積みあがり、壁になることさえ知らない。

それらが溶けて、ぐちゃぐちゃになることすら知らない。


積もりに積もった花びらが崩れ落ちた時の恐怖も知らないのだろう。

あなたは花びらが綺麗に舞うのを空想しながら、遊んでいるのだから。

理想ばかりを語り、現実をまるで見ようとしない。


花びらの壁が我等の生活に支障をきたすことを知らないで、花を千切っては投げる。

それを我等は憎らしく思う。


しかし、その時期も終わりを告げる。春が来る。

あなたはようやく目を覚ます。

遠い春が戻ってくる。我等は雪解け水が流れるのと同じように、歓声を上げた。


花々は笑顔を咲かせ、鳥は翼を広げ空を舞い、風は歓喜を踊る。

色なき春を我等は恐れている。芽吹きなき春を恐れている。


春よ来い。春が来る。春が来た。

我等は言葉なき喝采の声を上げる。


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六花とけて、君よ来い 長月瓦礫 @debrisbottle00

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