最終話

「カードが使えないってどういうことよ!」


 その日の朝、女社長はいつも馴染みにしているコーヒーショップに立ち寄ると、カードが使えませんと言われ、『そんなことある訳ないじゃない』、『私のこと誰だと思ってんのよ』、『ここの機械がおかしいんじゃないの』と悪態を吐いていた。私はその醜態をほくそ笑みながら見守っていた。


 しばらくするとクレジットカードでの会計を諦め、交通系ICを取り出し会計を済ませていた。あのカードにはいくら入金されているのだろうか?財布にもいくらか現金が入っているように見えた。今持っている財布の中にある分が、お前の全財産になっているとも知らずバカな女だ。


 詐欺罪には罰金刑はない。たとえ執行猶予がついたとしても、懲役刑の前科がついてしまう。面倒見てくれる男もいない。銀行からお金を借りて起業することも難しくなるだろう。

 今後あのケバ女がどうやって生活していくのか楽しみだ。一度贅沢を覚えた人間がどうやって生活していくのか楽しみだ。

 自分のバックに権力者がいるから何しても許されると思って、散々やりたい放題やってきやがって人生に悲観し生きていきやがれ。


 会社に到着すると迎えに出ていた秘書に捲し立てるように愚痴り始めた。秘書はその言葉を受け流し自分の話を切り出そうとするが、愚痴が止まらないので切り出せずにいる。


 いつまでも話しをやめない女社長に秘書は金切り声を上げた。驚いた表情を向け『何よその態度は』と言いながら睨みつけたが秘書は慄くことなく言い返す。


「警察から会社の口座は犯罪に使われている可能性が高いと言われ凍結されてしまっています。業務に支障が出ています。どうしたら良いですか?」


 敬語は混じっているがかなり強めの口調で秘書にそう言われ、びっくりしている女社長の表情に、笑いを堪えることができなかった。いつも自分に従順だった部下に反旗を翻され、さぞ驚いたことだろう。


 秘書はなんとなく女社長がしていたことを勘づいていたのかもしれない。でも流石にそこまではしないだろう、と思うようにしていたのかもしれない。そこへ警察が介入してきたので、女社長が何をしていたのか察したのだろう。堰を切ったように罵り出した。


 そこへ社員達が集まりだし女社長を責め立て始めた。業務実績は晩婚化の流れもありなかなか上手く上げられないでいたが、講習は好評だった。有意義だったと言われることが多かった。自分をスキルアップさせることができたと好評だった。

 しかし好評を利用しお客様にサクラ会員を紛れ込ませ、必要以上の講習を受けさせお金を巻き上げていたなんて。呆れて物も言えない。


 女社長が社員達に散々罵声を浴びせ続けられているところに、黒スーツの者が大人数で押しかけてきた。そして1人が近づき一枚の紙を突きつける。


「捜査、差押令状が出ておりますのでこれより執行させていただきます」

「ど、どういうことよ?」


「ちょっと、何なのあなた達」


 抵抗しても無駄だった。証拠は揃っているし社員達も捜査に協力的だ。時期に全てが暴かれることとなるだろう。捜査機関に圧力をかけてくれる人もいない。


 女社長は腰砕けになり虚空を見つめ放心状態となった、、。



「きゃははは。ほんとサイコーだったよ。ケバ女の絶望感に溢れたあの顔!」


「こっちもサイコーでしたよ。自分は殺人犯になってしまうのかって思っていたあの顔!」


「キャハハハハ、、」


「それでー、あのケバ女の個人資産どうする?」

 徐に華鈴が話し始めた。


「損害賠償は会社から出るから、個人資産は頂いちゃって良いと思うのよねー」


「資産っていくらくらいあったんだよ?」


「1億6千万」


「1億6千万!?」


「貯め込んでやがったなー、あのババア!」


「じゃあ、それは1人が4千万で他が3千万にするしかないんじゃないですか?」


「そうねー、可愛い天衣ちゃんにも手加減しないわよー」


「勝負は勝負ですから、恨みっこなしです」


「恨みっこなしって何するのよ?」


「じゃんけーん!」


「じゃんけん!?」


「どうせまた寄付しちゃうんでしょ」


「保乃さん何言ってるんですか?そんなの関係ないですよ。勝負することに意味があるんです」


「ああ、そうなの?」


「じゃんけーーん、、」



 じゃんけんは私が勝ってしまった。そんな大金貰っても特に何もやる事ないんだけど、、。


 取り敢えず私は梨名、天衣を連れずっと気になっていた、病院に運ばれた女性のもとを訪れることにした。


「なんか元気そうで良かったじゃん」


 知り合いでもなんでもないので、病室を訪ねて行くわけにはいかない。遠くから病室を望むと、母親と思われる女性がリンゴを剥いているのが見られた。その横のベットに横たわり、明るい表情を見せているようだ。


 幸い命に別症はなく、時期退院できるらしい。これからは何がっても前向きに生きて行って欲しいそう思った。私達の行動が彼女を含め、多くの人の心を前向きにさせることになったと祈っている。


 会長は無期懲役、女社長は懲役15年を求刑されていた。今後どういう裁判結果になるかは分からないが、代償は高くついたことは間違い無いだろう。

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悪徳権力者を始末しろ! 加藤 佑一 @itf39rs71ktce

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