第十一話

「あらー、天衣ちゃん、何その格好ー、スーツ姿も可愛いわねー」

「リーダー戻ってたんですかー?」


「すらっと伸びた手足にちっちゃい顔、着慣れていない感じがまた可愛いー!」

「ちょっと、お姉さんによく見せてみなさい」


「嫌ですよー、くっついて来ないで下さい」


 相変わらず天衣が大好きな飛奈はカメラを片手に追いかけまわし出した。


「そっちは順調なのかよ?」

 梨名はその様子に苦笑いを浮かべながら言った。


「順調、順調、もうバッチリよ。明日になったらカード使えなくなってるし、口座は残高0だし、その上に大量の借金ありって感じでもう絶望状態」


「それに加えて警察の家宅捜査が入って、今日あなた達が会長始末してくれれば、会長に助けを求めても助けてもらえない。アイツが絶望のどん底に落ちる姿が目に浮かぶわー。どうなるか楽しみー」



 向こうも裏工作は上手くいっているようだ。しばし情報交換した後、日が落ちるのを待って私達は行動を開始した。本社ビルに侵入し会長の帰宅を待つ。会長はゴルフを楽しんだ後、現在高級料亭にて食事を楽しんでいるとのことだ。最後の晩餐になるとは露知らず、呑気なものだ。


 食事を終えボディーガードと共にエレベーターで上がって来たところで、行動を開始した。エレベーターを停止させドアを封鎖する。そして非常階段から煙を上げた。

 梨名は相手の動向を探りながら、事前に下調べしておいた武器庫の方へ侵入して行く。煙が上がっても敵の奇襲だとはまず思わないと思うが、用心に越したことはない。

 天衣は非常階段付近で身を潜める。結構大きなフロアとなっているので、煙が充満するまで時間がかかるだろう。その前に敵が近づいて来たら排除する役割だ。

 まだビルの中には沢山の人が残っている。流石にこの人たちまで巻き込む訳にはいかない。本当に火をつける訳にはいかない。煙発生装置に異臭を混ぜ拡散させていく、、。


 しばらくすると『臭い』、『煙い』などの声が上がり出し、中が騒がしくなり出したところで通信手段を断った。今度はスマホが使えなくなったとの声が広がり出す。そして電源を落とした。フロア内は闇に覆われていく、、。


「天衣、3人向かってくるわよ」

「了解」


 真っ暗闇な上に煙が充満しているので、視界が悪い中を懐中電灯の光を頼りに3人が非常階段の方に向かってきた。他の出口は封鎖してある。逃げ道はここだけだ。煙が酷いとはいえここに向かってくるしかないだろう。壁伝いに煙で咽せながら、涙目になりながら進んでくる。

 その先に鬼神が潜んでいるとも知らずに、、。


 天衣は一旦3人をやり過ごすと、一番後方にいた人間の口を塞ぎ、壁に押し付け膝蹴りをみぞおちに入れた。焦点を失い意識がなくなったところで床に投げ捨てた。

 床に倒れたときの音が響き渡り、2人が振り返えろうとしたところに回し蹴りを後頭部に入れ、もう1人の顎に膝蹴りを入れる。声すらあげる間もない出来事だった。あっという間に3人は制圧されてしまった。そしてそのまま廊下にうつ伏せにさせ放置する。


 そこへ物音を聞きつけた何人かが走ってきて倒れている3人を発見すると、、『こっちは有毒ガスが充満してるぞ』と言って奥へ踵を返して行った。


 狙い通りだった。一応怪我が目立たないように倒したが、助け起こされてしまったら、誰かの仕業なんじゃないかと勘づかれてしまうかもしれない。ボディーガード間の人間関係は希薄のようで助かった。


 奥からどうするんだとか、何とかしろとか怒号が聞こえてきたが、しばらくすると怒号は止んで悲鳴が響き渡った。こんな時は雇い主も何も関係ないだろう。

 ボディーガードの連中が口うるさいだけの会長をボコボコにしたのだろう。散々甘い汁を吸わせてもらったというのに、最後の最後は裏切るか、醜い奴らだ。

 それと会長は子飼いにしていた連中に、最後の最後で裏切られて、情けない気持ちでいっぱいになっていることだろう。いい気味だ。お金だけの信頼関係など所詮そんなものだろう。


 そこで梨名が拳銃などの武器類を掌握したよと連絡してきた。煙を上げるのを止め、換気機能をオンにする。梨名はまだ全ての煙が消えないうちにゆっくりボディーガードの連中に近づき発砲した。


「こいつどうしよっか?」

 煙がだいぶ薄くなったところで会長を取り囲み睨みつける。


「な、なん、なんだ、君達は?」

「殺し屋だけど」


 会長は恐怖で引き攣った目をし、アザだらけの顔で命乞いをしてきた。


「金なら全て持って行っていいから、、命だけは、、」


「か弱い女性を食い物にしてきたからねー、どうしようか?」

「でもいいんじゃない。許してあげよっか」


 そう言って梨名は徐に持っていた拳銃を会長に握らせ何発か発砲させた。会長はしばらく放心状態になった後、梨名の思惑に気付き拳銃を投げ飛ばした。


「もう遅いって」


「金に目が眩んだボディーガード達が会長を殺して奪おうとしたが、拳銃で反撃し撃退したってとこかな」


「正当防衛認められるといいですね」

「日本じゃ拳銃の所持自体が違法だし、それを使っちゃったんだからダメでしょ」


「そっか、じゃあ、頑張ってねー」


 そう言って私達は痕跡を消し、その場を立ち去った。本社ビル前には多数のパトカーが集まりだす。今後会長はどうなるのだろうか?

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