第11話 エピローグ
黒狼の月 十四日
国の柱となるべき三人の人物が、一夜のうちに三人とも、この世からいなくなった。
なんともいえない心持ちである。
近衛隊長は、泥酔して転落死。
宰相は、自宅に入り込んだ毒蛇に噛まれたとか。
大司教は、急な心臓の病だそうだ。
いやはや、なんともかんとも。
一人くらいは生き残るかと思ったが、想像以上の上首尾だ。
さすがの腕前、といわざるを得ないだろう。
さてここに、お三方から届いた三冊の記録がある。
陛下にお読みいただきたいとの
とんでもないことだ。
この中には、馬鹿正直に私の名前まで書き記してあるではないか。
陛下はご多忙である。お心を煩わせてはならない。
これらはすべて破棄するとしよう。
将軍よ、あなたは偉大だった。
まじめなだけが取り柄の、温厚で人畜無害な男。
誰もが、私のことをそう思っていた。この三人も例外ではない。
だが、あなただけは違った。
私の本性と野心を正確に見抜いたのは、あなただけだった。
侍従長を遠ざけたほうがよい。
あなたが王にそう進言したと聞いたとき、私は恐怖したのですよ。
ついに、年貢の納めどきが来たかと。
しかし、王は手をこまねいた。
王には、せっかくのあなたの助言を受け入れ、決断するだけの度量がなかったのです。
そのことが、東の国へ情報を流す時間的余裕を私に与え、ひいてはあなたの命を縮める結果となったのです。
卑怯とお怒り
戦地に長くあったあなたは、ご存じなくても無理はない。
あの王の頭の中にあるのは、美酒と美姫のことが大半なのです。
現王の至らなさは若くて経験が浅いからではありません。凡庸だからなのです。
あなたがたはみな、賢明であった先王の再来を夢見ていただけなのです。
さて、いよいよ、私の時代が始まります。
新しい近衛隊長には、私の息子を
王には、わが孫娘を妃としてあてがいましょう。息子の嫁に似て、美しいこと以外は何の才能もない娘ですが、あの王はそれだけで充分満足でしょうから。
そして私は宰相として、王の外戚として、この国の頂点に立つのです。
それでは将軍、お別れです。互いに人を殺めた者同士、地獄で再びお会いいたしましょう。
わが事、ここに成れり。
快哉。
将軍の死 旗尾 鉄 @hatao_iron
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ペット妄想あれこれ/旗尾 鉄
★50 エッセイ・ノンフィクション 完結済 1話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます