第10話 同日同刻
黒狼の月 十三日
私は決めた。
今夜、宰相を暗殺する。
宰相は、態度を改めようとしなかった。周囲の意見に耳を貸そうとせず、この国のためと称して専横をつづけ、北の国との政略結婚を押し進めようとしている。
もはやこれまでだ。政治を私物化し、王をないがしろにする宰相をこれ以上、権力の座につかせておくことはできない。
君側の奸は、排除しなければならないのだ。
傭兵隊長が、南の国の
今日は十三日。将軍の命日である。将軍も見守ってくださるだろう。
万一に備え、この日記は侍従長に届けておこう。
国王陛下にお読みいただき、私の行動が私怨ではなく、国を憂い、陛下のためを思ってのことだと知っていただくのだ。
黒狼の月 十三日
決断の時がきた。
今宵、私は大司教を粛清する。
このような手段は、できれば用いたくなかった。大司教が自身の心得違いに気づき、言動を慎んでくれることを願っていたのだ。
だがそれは、むなしい願いだった。大司教はますます増長し、貧民対策や異教徒の取り締まりなどにまで、私見を述べるようになっている。
思い上がりも甚だしい。私は宰相として、聖職者の政治介入は断じて許さない。
もはや、粛清しか道はないのだ。
すでに、
今日は十三日、将軍の命日だ。彼は草葉の陰で悲しむだろうが、それでも、私の行動を理解してくれるだろう。
念のため、この備忘録は侍従長に預けることにしよう。
国王陛下にご覧になっていただき、私の決断が国家の将来を守るための苦渋の選択だったことをお分かりいただくのだ。
黒狼の月 十三日
なんと悲しい日でしょうか。
私は今夜、近衛隊長に神罰を与えなければなりません。
私の祈りは届きませんでした。近衛隊長は、異教徒の奸計にかかってしまったと考えるほかないでしょう。
彼は相変わらず、異教徒の傭兵を増員するよう強硬に主張しているようです。しかも恐ろしいことに、その増員した傭兵を含む大軍勢で東の国へ攻め込み、亡き将軍の復讐をしようというのです。
神の許に召された将軍も、ささやかな暮らしをいとなむ民衆も、そんなことは決して望んでいません。
復讐などという言葉を隠れ蓑にして殺戮を好む背教者は、神罰を受けるべきなのです。
教皇に派遣をお願いした
今日は十三日、将軍のご命日です。ああ、神よ許したまえ。私は今夜、信仰を守るための罪を犯します。
この日録は、侍従長殿に保管していただきましょう。
いつか私は、いわれなき非難を浴びるかもしれません。そのとき、私の行動が私利私欲のためではなかったことを、この日録が証明してくれるでしょう。
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