第9話 大司教の日録 3
紫狐の月 十日
たいへん悲しいことと言わなければなりません。
近衛隊長のことです。
国葬で見かけた日以降、それとなく彼のことを気にかけておりました。もともと教会を訪れることの少ない方でしたが、やはり信仰には関心を持っておられないようです。
王宮にお勤めの皆さまからもさりげなく話を伺いましたが、必ずしも良い評判ばかりとは限らないようです。武芸に優れているのは確かなようですが。
ここだけの話として、侍従長殿が教えてくれました。
近衛隊長が、傭兵隊の大幅拡大を主張しているというのです。
傭兵隊は、そのほとんどが南の国出身者で編成されています。
南の国出身者を大量に雇うことはつまり、わが国へ多くの異教徒を招じ入れることになるのです。
近衛隊長は、それがいかに大きな問題となるか、考えていらっしゃるのでしょうか。
南の異教徒たちは、めったなことでは改宗しません。同郷の者たちで集まり、特異な宗教儀式をおこなったりもします。
そのような者どもが増えれば、民衆は心穏やかではいられますまい。われらが神を信じる敬虔な心に暗い影が差し、悪徳が忍び寄るかもしれないのです。
異教はまさに、善良な者の心と精神を汚染するのです。
そうです。汚染です。
まさか、近衛隊長の心はすでにそうなっているのでは?
異教に身をゆだねてはいないにせよ、彼らに取り込まれ、利用されているのかもしれません。
異教徒の耳障り良い言葉に惑わされ、知らず知らずのうちに軍の機密を漏らしてしまったとしたらどうでしょう?
恐ろしい仮定ではありますが、そうだとすると将軍の死に関するあのうわさと辻褄が合います。
証拠のないことです。このようなこと、他人に軽々しく話すことは決してできません。
いまはただ、ひたすらに祈りましょう。
私が神の代行者として、神罰を下すような事態にならぬことを。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます