気持ち

(どどど、どうしましょう!?)


ホリーは偶然拾ってしまった紙を広げたまま固まっていた。


見間違いかもしれない。一度目をこすって、もう一度確認してみても、全く同じことが書かれていた。


(ええええええええ!?)


何度みても、自分の名前と、エドの名前が記入された婚姻届けが目の前に存在して、圧倒的存在感を放っていた。しかも、既にラズの署名まで済まされてある。


これはつまり・・・・・・エドが私と結婚したいってこと!?


ホリーは顔を真っ赤にして「はわわわ」と奇声をあげてうつ向いてしまう。

まさか、エドがそうな風におもっているなんて、想像もしていなかった。思考が追いつかず瞬間沸騰機のようにホリーの頭から湯気が吹き上がる。


「け、結婚って、私たちまだ手も繋いでないのに!」


まさか、看病していた相手が自分と結婚まで考えていたとは。異性とお付き合いをしたことないホリーはどう反応するのが正しいのか分からない。



そりゃ私だって乙女だ。

可愛くて、汚れを知らない白百合みたく可憐で可愛くて、可愛いすぎる聖女だ。

け、結婚とか、そういったことを一度も想像したことないと言えばウソになる。海辺の綺麗な砂浜で、ロマンチックな言葉と共にバラの花束を渡されて告白とか、何度想像したことか。でも、まさかこんなビックイベントが突然訪れるとは・・・・・・聞いてないんですけどぉ!?


と、ホリーは無限に溢れ出てくる独り言を脳内にまき散らして、婚姻届けを握りしめながら、悩ましく頭を振る。


ホリーが、婚姻届けを最初に見て感じたのは驚きだ。そして、その次に出てきたのは意外にも喜びだった。


ホリーにとって、エドはとても優しい男性だ。

自分が体調悪いにも関わらず、盗賊に放置された困っていた自分を助けてくれた心優しい人。


それからずっと一緒にいるが、性格の相性が良いのか、会話をするだけで楽しいと感じてしまう。今では、異性としては一番仲の良い友達だと思っている。

そんな相手に、恋心を抱かれるのは悪い気分ではない。

むしろ嬉しい。


15年生きてきて、ホリーが異性にこんな気持ちを抱くのは初めてのことだ。だから、これが恋心と言われたら、そうなのかもしれないと思ってしまう。


ホリーは単純な女だった。

エドが自分に好意があると知ると、なぜかエドへの好感度がどんどん急上昇してしまう。それはさながら、激流の滝を駆け上がる鯉のようであった。


ましてや、そんな相手と同じ屋根の下で暮らしているのだ。

次会った時にどんなをすれば良いのか全く分からない。


すると、ホリーの奇声を聞きつけたエドが、ドアを開けて部屋に入ってきた。

ホリーは咄嗟に婚姻届けをポケットにしまい、平静を装うのだった。




「えええええええええええええええ!?」



ええ!?


とんでもない叫び声が聞こえてきて、俺は急いでホリーのいる部屋へと向かう。


「どうしたぁ、大丈夫か!?」


部屋に駆け込むと顔をこれでもかと真っ赤にしたホリーが佇んでていた。


「叫び声で飛んできたんだが、なにかあったか?」


「べべべべべべ、別になんでもないしぃ?」


なんだ、そのどもり具合は!?

明らかに何かあったと言っているようにしか見えないが?


「ほんとうに、なにもないのか?」


「だ、大丈夫だからぁ、全然平気だからお気になさらずに」


そうは言うが、どうにもホリーの様子がおかしい。

確認のために俺が一歩ホリーに近づくと、ホリーは息を合わせたように一歩さがる。もう一度近づくと、またもやホリーが後ろに下がっていく。

あれ、なんでだろう? いつまでもホリーとの距離が縮まらないのだけれど。


「ど、どうして私に近づこうとしてくるの!? そういうのは、キチンと相手の許可をとってからじゃないとダメなんだよ!」


「はあ? なに言ってるんだ? 頭でも打ったのか?」


意味不明な挙動を示すホリーに、俺の頭がおかしくなったのかと混乱する。すこし目を離した隙に一体なにがおきたのだ?


「まあ、ホリーが大丈夫っていうならいいけどさ」


「う、うん」


その後、ホリーが落ち着くのを待って、俺はベッドに座った。

よくよく考えてみると、ホリーがおかしいのは今さらなのかもしれない。

聖女のくせに、吸血鬼の俺を看病して、一緒に暮らしている時点で間違いなくポンコツなのだから。


そんなことより、俺が今考えなくてはいきないのは、ホリーに対するアンデッドへの憎悪だ。これを解決して、彼女を恨みの連鎖から解き放ってあげなくては。


そのために、まずは対話が必要だ。

力や暴力で解決できないことも、会話でお互いの意識をすり合わせすることで解決への糸口は見つかるというもの。


「ホリー、すこし話をしたいんだけど・・・・・いいかな?」


「・・・・・い、嫌です」


「え」


なんで?

いやいや、今まで散々会話してきたのに、どうして急に!?


「あのー、大事な話なんだ。だから、聞いて欲しいんだけど」


「だ、大事な話!? もしかして、け、け、け・・・・・・」


け?

けってなんだ。どうして毛の話が大事になるんだよ。

それとも、ホリーが壊れておかしな笑い声をあげているだけ?


「大事な話をするなら、余計に嫌です! するならせめて、もっと景色が良い場所とか、特別なとこじゃなきゃ無理です! 自分の家だなんて絶対無理ぃ」


「えええ、なんでぇ!? いつもここで会話をしてるのに」


「と、とにかくそういう話なら、場所を変えてください!」


そういって、ホリーはプンプンと顔を真っ赤にしながら部屋から出て行ってしまった。


どうなってるの?

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顔色の悪い吸血鬼は病人と間違われて聖女に拾われる~1000年間国を守護してきた自分へのご褒美に旅にでたんだが、出会う女が全員聖女ってどういうこと!? 正体ばれたら絶対殺されるんだが~ 街風 @aseror-t

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