レオ
西しまこ
第1話
昨日の雨で、梅の花はあらかた散り、花びらが地面を彩っていた。
梅は花蕊だけ残り、白い花びらがなくなったため、その赤さが少し頼りなく見えた。
季節は春に向かっていて、コートが要らない日も増えた。桃の花が咲き始め、名前を知らない白い花も咲いている。
道路に落ちた花びらを踏まないように歩こうとして失敗する。
「レオ! ちょっと待って」
リードをぐいとひっぱられ、とにかく歩き出す。
レオはゴールデンリトリバーだ。まだまだ若い、元気な男の子。昨日雨が降っていたから、お散歩が出来なくて、今日はもう朝からうずうずしていた。だから、ぐんぐん歩いていく。
「レオ、いいお天気で嬉しいね!」
レオは黒い瞳を私に向け、しっぽを振る。レオの足取りが軽くて、あたしも思わず楽しくなる。仕事も疲れも、レオとのお散歩で癒される。身体を動かすっていいな。
今日はいいお天気。雲もほとんどない青空。梅は散ったけれど、これからどんどん花が咲く時季だ。あの家の木蓮、蕾が膨らんでいる。木蓮が咲くのが楽しみだな。
「あ、チョコちゃん!」
ご近所さんと行き会う。チョコちゃんは、犬の名前だ。茶色い、ぬいぐるみみたいなトイプードル。ふわふわしていて、すっごくかわいいの!
「レオくん、こんにちは!」
チョコちゃんの飼い主がレオに挨拶をする。レオは嬉しそうにしっぽを振る。それから、チョコちゃんにちょっと近づく。チョコちゃんはレオにすり寄るようにする。仲良しなんだ。
「チョコ、嬉しそう。レオくんに会えてよかったわね」
「レオも嬉しそうだよ。ありがと、チョコちゃん」
レオとチョコちゃんが何かお話をしているので、あたしたちも立ち話をする。
昨日の雨、すごかったわね、とか、新しく出来たパン屋さん、おいしいよ、とか。
ふと見ると、おじいちゃんのグレートピレニーズがゆっくりゆっくり歩いてきた。
みんなで、おじいちゃんを見守る。
白い、長く生きたそのおじいちゃんの犬はもう歩くのもつらそうで、飼い主さんが一生懸命寄り添って、お散歩をさせていた。
歩くのはつらそうなんだけど、でも、お外に出たいんだよね。
グレートピレニーズの白い毛が風に揺れた。
ふと目があって、あたしたちは頭を下げるだけの挨拶をした。
グレートピレニーズの飼い主さんは初老の男性で、きっといっしょに年をとってきたんだなあ、と思った。
あたしも、レオとずっといっしょだ。ね? レオ。
永遠なんてないけれど、でもずっといっしょだよって思っていたい。
「わん!」ってレオがあたしの気持ちに応えてくれた。
了
一話完結です。
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レオ 西しまこ @nishi-shima
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