エピローグ



 こんにちは、皆さん。

 今日は、最後のお話。

 『乳酸発酵』についてお話ししましょう。


 『乳酸発酵』とは『乳酸菌』が酸素を使い糖類を分解、乳酸を造り上げる事を言います。

 成作された乳酸は周りを酸性に変貌させる事ができ、コレにより乳酸菌から作られた発酵食品は腐りにくいと言う特徴を持っています。

 これは食中毒を起こす微生物は、この酸性の前では増殖できないからです。


 食品の礼を上げると、漬物、ヨーグルト、チーズ。

 そして、前に記した通り、味噌と醤油もこの『乳酸発酵』の分類に入るのです。

 味噌と醤油は更に、アルコール発酵も行う訳ですが。


 その種類は様々で、植物にでも動物の乳にも生息する菌となります。

 古くから保存の為に使われていた発酵方法です。



 ――さて、皆さま。もう長い話もうんざりだろうし。

 最後にコレをお伝えして、今回の発酵講座はおしまいにさせていただきます。

 その最後と言うのが、今回紹介させて頂いた。発酵の三つ。


 「アルコール発酵」「酢酸発酵」そして「乳酸発酵」


 これ等は三大発酵と呼ばれており。

 世界中で昔から親しまれていた発酵方法となります。

 殆どの発酵食品がこの三つのどれかに分類されると思います。


 興味ない?難しかった?構いません。

 皆様が普段食べている食品について、ほんの僅かでも興味を持ち、知って頂けたと言うのなら、私はソレで十分です。

 『発酵』と言うのは、古来より存在していた食品で、手間暇が掛かって、時間が掛かる物だと、それを知って頂けるだけで書いた甲斐があると言うモノでございます。


 私も今回殆ど感と記憶での挑戦でしたが、様々な発酵食品を造れて楽しかったですわ。

 最初は自身の健康の為だったのにね。


 いえ、せっかくの異世界。……ゲームの世界ですけど。

 コレからも私ジュリアンナ・フランソウワーズはこの世界で、もっと沢山の発酵食品を作っていこうと決意致しました。


 出来る事なら、最後は清酒。

 此方を造ってみたいわ。

 といっても、コレ、本当に難しいと言うレベルじゃないから、何十年かかるかしら。


 まあ、長くてもゆっくりと挑戦していきましょう。

 

 

 まずはそうね次の『発酵食品』は勿論、『味噌』造りよね!



 ◇



 暗い納屋の中、壺に敷き詰められた、茶色の物体を私は摘まみ上げる。

 茶色のその物体を、パクリと一口。

 

 みりんの様な甘み。微かに鼻に抜けるお酒の香り。

 ちょっと、今回は塩分が多すぎたけど、「うん」私は顔を上げる。


 「これは立派な味噌だわ!」


 2年もかけて、ようやく出来上がった、味噌に私は大きく頷くのだ。

 味噌の作り方は、前に記したからいいわよね。


 皆さまお久しぶりね。ジュリアンナです。

 え?久しぶりじゃないって?

 いえ、私からしたら久しぶりです。アレから2年がたったもの。

 

 え?時間が経ち過ぎている?

 仕方が無いじゃない、発酵とは時間が掛かる物よ。


 え?何時の間に味噌を造ったんだって?『麹』はどうしたんだって?

 味噌を本格的に造り始めたのは一年前よ。『麹』が安定して作れるようになったのも、その頃。


 麹の元となる『種麹』に関しては企業秘密よ?

 現代でも秘伝なのだから、私だって秘伝にさせていただくわ!

 言えることは、一年もの研究と実験を積み重ねて、漸く完成したと言う事。


 ^――て、私誰に話しかけているのかしらね。


 そんな事より、今は味噌が出来たことを喜ばなくては!

 私は味噌の入った、壺を抱きしめて完全に私の工房と化した、パーシバルパーシーの納屋を出る。

 汚物だとか馬鹿にした、あの生意気な助手君に見せつけてやって、ジョシュア皇子共々最初の試食の第一号にしてやるのだ。


 そうね、やっぱり味噌と言ったら味噌汁よね。

 味噌汁ぐらいなら今だって作れるわ。

 少なくともまだ、私に好意を寄せてくれている、ジョシュアなら臆せず食べてくれるでしょう。


 「ほら、見なさい。パーシー!」


 そう意気込み、私は畑で作業をしているパーシバルに壺を見せつける。

 ツボを見たとたん、彼は大きく呆れ顔をしたけど。いえ、絶対私の顔をみて呆れ顔を浮かべたわね、コイツ。

 最初の頃は、あんなに人が良かった好青年だったのに、いつの間にか本当にまるで偏屈になってしまって。

 なんで、そんなに困った人物を見るような視線を私に向けるのよ。


 「はいはい、お嬢。よかったな」

 「感動が薄いわ!もっと感動しなさい!貴方にも愛着が持てるように、面倒だって見させてやったでしょう」

 「いや、なんだっけ?天地返しとカビが付着して無いか確認しただけだよな?」

 「ジョシュアなんて、壺を丸々一つ持って行ったと言うのに!」

 「――あいつも中々に毒されたよな。この国『発酵』大国になるんじゃないか?」

 「いいじゃない。私の協力者が増えると言う事よね?」

 「……不憫だ」


 何時ものように彼と簡単な口論をして、時間が流れる。

 全く、今日は『酢』の発展の為に酢工房に行かなくちゃいけないと言うのに。

 村の人たちも『酢』に関してだけは協力的だと言うのに、なぜ彼は此処まで発酵について興味が無いのかしら?


 次の目標の一つに、「パーシバルに発酵の素晴らしさを教え込む」を組み込もうかしら?

 取り敢えず、今度からは味噌作りはパーシバルにもやらせてみよう。


 あと少ししたら、ジョシュアも姿を現すだろから。彼と一緒に対策を考えてやるわ。


 「あ、そうだ。パーシー」

 「なんだ?」


 今後の対策を考えながら、私は『発酵』とは別の一つの事を思い出しパーシバルに声を掛ける。

 今日彼は、隣国であるマリーローズ王国に初めて『ビネガー』を売り込むために、お父様と出かけるはずだ。


 「今日って、マリーローズ王国に行くのよね」

 「ああ、野菜と酢の輸出の為にな。お嬢のお父様から酢に関しての説明を丸々頼まれたんだよ」

 「仕方が無いわね。一応、パーシーが発案者的なポジションですもの」

 

 私の言葉を聞いてパーシバルが呆れ顔になったが。

 私は無視をする。


 「王妃様に直々にお会いするんでしょう?」

 「……良く知ってるな。どういう訳か、新しい王妃様が直々に話をしたいらしい」


 確認を取ってから、私は笑みを讃える。

 一年前、隣国で新しく王妃様産まれた。

 馬鹿皇子を夫としながら、賢女と言われるまで、のし上がった元男爵令嬢。


 彼女を想いながら、手に持つ壺を彼に手渡す。


 「だったら、この味噌と、それから納豆も持って行って頂戴!」

 「は?」


 突然の事で、パーシバルは驚いた事だろう。

 だけど構わない。だって、約束だったのだもの。

 二年も掛かってしまったけれど、人様に勧められる物が出来たのだ。

 漸く約束を果たせると言うものだわ。


 私は満面の笑みを浮かべ、パーシバルを見て。


 「それからユーリ王妃様に伝えて」

 胸を張って、心からの感謝と共に彼女への言伝を頼むのだ。



 「私、今とっても幸せよ。恋愛よりずっと、今が楽しいわ――てね!」




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溺愛悪役令嬢に転生しましたが、推しがいないので『発酵』の道に進ませて頂きます! 海鳴ねこ @uminari22

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