第6話 出よ、第一の刀
「……七瀬くん。彼女達は確か」
「はい。僕を襲った、張本人たちですね。まさか、こんなに早く」
会うとは思ってなかったな。そう思ったけど。
それは彼女たちも一緒だったみたいで、ちょっと驚いたような態度でいる。
「でも、驚いたな。結構深手を負わせたはず。生きてたにしたって1ヶ月は動けないはずだけど」
「……なんらか、神様の加護って奴を受けたんじゃない? それならこの異常なまでの回復に説明がつくはずだよ。ルカ」
でも、その驚きも長くは表に出すことなく、直ぐに冷静を装った表情になる。
流石、闇払いの一族を襲う「刺客」とでも言えようか。想定外の事態にも、どこか慣れているようにも見えるから。
「でも、好都合だよミカ姉。彼、今1人きりだ」
「本当だ。加護を授けた神がいたら厄介だったけど……、丁度良かったね」
……幸いと言うべきかなんというべきか。
彼女達にカミムスビ様は見えてないみたいだ。まぁこの人高名な神様らしいし、その気になれば俺たちみたいな闇払い絡みの人間にも見えないようにできるのかも、な。
「えぇ。彼女達も強大な力を有しているとはいえ所詮は人間。私くらいの神にもなればその姿を視界から隠すことも可能です。ふふっ、凄いでしょう?」
ええ、本当にその通りですね。助かりますよ。
そう心の中で呟くとある程度はその意図か通じたのかさらに得意気な顔になる。なんか可愛いな。
「とは言え、さすがに彼女たちには異能を使わずに……、とは言ってられませんね。よし、七瀬くん。思いっきり戦ってらっしゃい。とは言え、殺しは御法度ですよ?」
そんなカミムスビ様の言葉を聞いて、きゅ、と心が改めて引き締まる。
しょうがない。彼女達の恐ろしさは初対面の時に思い知ってる。急なことではあるけど思いっきり
そう思って、ぐ、と心臓部分に手を当てて、目を閉じる。よし、異能を引き出す準備は出来た。
「お、やる気? 加護をもらって少し強くなったからってそれ随分と思い上がってるよ、ボク。ルカ、ここは2人で――――、」
「ごめんミカ姉。先にやらせて。この前仕留めきれなかったのは、私でしょ。だから」
「……まぁ、小手調べにはいいか。でも、いざとなったら私もいくよ」
「そんなことするまでもないよ。だって――――」
俺が目を見開いたのと同時に、ルカ、と呼ばれた女性が俺の前に躍り出る。
手には闇を纏わせている。それが鋭利な刃の形となって、それで俺を貫かんと腕を振りかぶっていた。
「すぐ、殺すから」
そう言って闇の刃を俺の眼前に突き出そうとする。けど。
悪いな。こっちも応戦する準備は出来てんだ。
「
そう、俺は呟く。どうしてって、そうしろってカミムスビ様が言ったから。
こう呼びかける事によって、その意思に呼応して俺の異能は出てくる……らしい。その証拠に、ほら。
光が、辺りを包んでいく。
そして、具現化した異能――――、その刀で俺は。
彼女の闇を、流し飛ばした。
「――――っっ!!?」
半ば吹き飛ばされるように後ろへと飛んでいく彼女。でも流石だ。すぐに空中で体勢を立て直し着地する。
でも、流石に驚きは隠せてない。そりゃそうだ。だってこの刀からは。
溢れんばかりの
これが、俺の異能。7つあるうちの異能のその一つ。
そう、その名も、
「
そう、今名付けた。
直後、前方から殺気を感じ、改めて前へと向き直る。するともう1人の女性が、僕に向かって飛びかかってきていた。
彼女も僕を引き裂かんと刃を振り下ろすけれど、僕は彼女の一振りを下へと流し、体勢を崩させる。
身の危険を察知したのか目の前の彼女は軽く舌打ちし、
飛び退き僕から距離を取る。そしてもう1人と合流した。
「――――やっぱりあの時止め、刺しておくべきだった。ルカ、2人でいくよ。今度こそ……、確実に殺しきる」
「そうだね。やろうミカ姉。よりにもよって、私達の大っ嫌いな……光っ……!」
そう言うと、ぶわりと辺り一面が闇に包まれる。
よく見ると彼女達の身体から、濃い霧状の闇が漂っているのが見える。
その闇はあっという間に辺り一面を覆い、夕陽の光を遮った。
「成程、これ、閉じ込められた……のかな?」
「おそらくは……。気をつけてくださいね。光が当たらなくなった分、彼女達の中にある『闇』の力がさらに強大になってますから」
了解ですよ。そう目でカミムスビ様に伝えると、彼女は軽く微笑む。そして「じゃあ私はこの辺で」なんて囁いた後、上へと飛び上がった。邪魔にならないための措置だろう。
……さて、今の状況を整理しようか。
光が入ってこない分、少し薄暗い。そして相手は2人。
少し、骨が折れそうだ、なんて心の中でそう呟く。
「……やれるかなミカ姉。あの刀、凄く大きい力を感じるよ」
「ルカ、いつになく弱気だね。大丈夫だよ、だってここは闇の中」
「ふふ、そっか。そうだよね。だって闇の中は私達の――――」
そう、言い終わらないうちに彼女達は俺の前に躍り出る。そして、あっという間に僕を挟むように対峙する。
そして、呟くような声で囁いた。
『庭のようなものだから』
先ほどよりも速く、強く。闇の刃を僕の元へと迫らせる。
でも、対応できないほどじゃない。片方を受け止め、もう片方を躱し、抜け出す。成程、闇が濃くなればなるほど力が増す仕組みって事か――――!
僕が距離をとると、当然彼女達も追撃をしてくる。
きめ細やかに、息つく間もなく。精度の高い斬撃を繰り出してくる。
「ん、ぐぐぐっっ……!」
対応しきれなくはない。でもキッツイなコレぇ……!
練度の高いコンビネーション。そして何より攻撃一つ一つの重さとキレ。ゴーレムくんとの特訓がなきゃヤバかったかもしれないな。
ミカ、と名乗る女性の重い一撃を受け止め、後ずさった時。ふと、彼女達は呟くように口を開いた。
「へぇ、やっぱり君、随分動けるようになったよね。一週間前とは見違えるようだ。でも」
「実戦経験不足。動きが固すぎる……。まだまだ未熟だよね。本当であればじわじわ嬲って追い詰めてから殺してやりたいところだけど、そんな甘いことも言ってらんない」
「だから、一思いにやってあげる。苦しませないだけ感謝してよね?」
そしてそう言って、お互い構えを取り直す。もう、僕を殺せると確信してそうな目だ。
……言ってくれるなぁ。まだまだ僕は
「ふふっ、どうだかね。少なくとも僕はここで死ぬつもりは全くないよ。君達だって、今ここで引けば僕はこれ以上何かをするつもりはないけど?」
「……ふふ、あはははっ!! 虚勢張っちゃって可愛いよ。ボク。そんなハリボテの自信なんて、さ」
「私達が一瞬で、叩き潰してあげる。生意気な口なんて……、あぁ、死んでるからきけない、ね」
だから、僕は全力で彼女達に反抗して見せる……。虚勢だと思われてんのか。心外だなぁ。
そんなに舐めてくれるなら、この七光の能力を、しかと見せてやろうじゃないか。
彼女達が僕に向かって迫る――――のを見て。
僕は、語りかけるように声を発した。
「照らせ、七光よ――――」
すると、僕の声に応じるように刃が光り輝く。そして、この薄暗い辺り一面を眩しく、白く染めた。
「――――っ!!?」
彼女達は突然光った刃の光に幻惑したのか、立ち眩んだように体の動きを鈍らせる。けど、そのうち1人……、ミカさんだったかな。
彼女はそれでも僕を引き裂かんとその鋭利な切先を僕の眼前へと迫らせる。
少し動きが鈍ったとはいえ、相当なスピードだ。でも、
僕はそれを、軽く外へと切って流した。
そして、僕の七光に触れた彼女の闇は大きく掻き消え、深い闇に隠されていた細い腕が顕になった。
「な、私の、闇がっ……!?」
ふふ、してやったりだ。流石に予想外だろう。そう思うと少し笑みが溢れる。
そう、この刀、七光の能力。それは闇の力を光で掻き消し、鎮めること。
恨みや憎しみ、そんな「闇」によって生み出されるパワーを、この刀は打ち消し、鎮めていく。対「闇」に特化した刀なわけだ。
まぁカミムスビ様曰く、切れ味もそこらへんのものよりかは段違いにいいらしんだけど。それは今はあまり関係ないだろう。
さて、攻撃を流されて、あまつさえその力を弱められたミカさん。その姿は、僕にとっては隙だらけなわけで。
刃を彼女に向かって叩き下ろさんと、思い切って振りかぶる。
その時、七光の刃の大きさがグッと大きくなった――――ように見えるだけだ。光が大きな刃の形を成してるだけで、実際の大きさはそんなに変わらない。
でも、この集まった光の力は、とてつもなく大きい。
さぁ、今まで散々勝手してくれた分、まとめて返すよ。
『さぁ、闇を鎮めようか』
そう、心の中で呟く。すると光の力がさらに増した。
刀の刃の部分を上に向け、峰の部分を彼女に迫らせる。所謂峰打ちだ。
でも、それが纏うは大きな光の力。彼女達の「闇」には、大きな脅威。
そしてそれは、ミカさんの身体目掛けてぶち当たった。
闇を鎮めしは7つの刀 二郎マコト @ziromakoto
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。闇を鎮めしは7つの刀の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます