第14話 うた
かなしみは、いつだってある。
それは、世界の暗部に隠れて永久に左右に振れている柱時計の振り子のように思う。
自分の考え方次第で世界は変わると、大人たちはやたらと触れ回る。だけど、そんなに強くねえんだよ。自分の意思を信じられるほど、幸せを感じたことがねえんだよ。
あたしは、この世に、何を、求めているのか。
あたしの心って、まるで、周囲に何もない荒野にたった一本だけ生えている実も葉もつけていない裸で死にかけのやせ細った木のようだ。
「あんたは、世界が正しいと、思っているのか」
憎しみも煩悶も本当はなんでもないことだと、そう言えるのか。
世界は美しいなんて、いったい。
アストレイアは、片方の手を、テーブルに乗せた。その手の甲を、なんでもないように見ていた。
「間違っているのは人間たちなんです。世界は、伸びあがる草木のように、流れる川のように、ただ、静かに力動しているだけ。賢者にも愚者にも等しく、大地はあり太陽はある……」
それっきり、場は、黙った。
あたしは、両手で、空になったコーヒーカップを弄んでいた。もう、別れの時間なのかもしれない。でも、あたしはアストレイアから離れたくないと感じていたのだ。なんだよ、この感覚。
「あー、あしたガッコ行くか」
無理やり話題を出すように。
「行ってなかったの?」
「ビビられるのもつらいんだよ。保健室登校だからいいけどな」
「フフフフ……」
「え、笑うとこなの? 違うだろ」
やっぱ、ウゼエ、コイツ。
あたしは窓から外の街並みを見た。道ゆく人たちは、早足に、あるいはゆっくりと、歩いている。
オレンジの太陽が目を
その輝きは、誰かが所有しているものではないが、誰にでも与えられているものだ。
そのようにして、世界があるならば。
あしたガッコ帰りの図書館で何を借りよう。
〈ネコのうた 了〉
小説 ネコのうた アリサカ・ユキ @siomi
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