第50話『困った時はお互い様だって』
「よいしょっと」
「カナトは無理をしないでよー」
「おーう」
アケミから忠告されるも、俺はとりあえず崩れた木材を持ち上げて運び始めた。
俺達はあの戦いが終わった後、すぐに復興作業を始めている。
アルマとの感動の再会……という感じには一瞬だけなったが、あの目を見ればすぐにわかった。
いろいろなものを背負い、護る――本当の戦士になったってことを。
力強い良い目をしていた。
次期領主って、感じか。
率先して今も復興作業に参加している。
俺達と一緒に。
なんだかんだいろいろあったが、驚いたのは大きく二つ。
まず一つ目は、ボスモンスターを討伐した場合、その支配下になっているモンスターも一緒に消滅するということ。
俺は自分の目で確認したわけではないが、みんながアルマ達を護衛している際に戦っていたウルフが、攻撃もしていないのに消滅したと言う。
その後、合流してそんな話をされたもんだから俺はビックリ仰天。
そのまんなゲームのシステムと同じすぎる、ってのはアルマ達が居る手前言えなかったから、リアクションを大袈裟にするだけにとどめておいた。
「ほらよっと」
「えっ」
「おいおい、村を救った英雄様に働かせちゃあどっかの神様に怒られちまうぜ。あ、この場合はギルドの姉ちゃんとかか?」
「俺はまだ動け――」
「良いんだよ。少しぐらい休んでたって誰も文句なんて言わねえから」
「そうそう、休んじゃいなよ~」
「ここは大人が頑張る番だからね」
「……わかりました」
俺はあの三人に、何かしたのだろうか。
言われた通りにとりあえず、座れそうな岩に腰を下ろす。
そして二つ目は、あの時一緒に旅をした三人の冒険者。
彼らが帰りの護衛を務めたからこそ、アルマ達はかなりの時短をして村に帰れたようだ。
そして、彼らが少しでもウルフを倒し続けてくれたおかげで、村の人達が逃げる時間を確保できた、ともバルドさんから聞いた。
どっちが英雄様だっての。
ここからは復興をすぐに始められたところに繋がってくる。
あの数を前に、背水の陣で挑んだ彼らはほとんど死を覚悟して戦っていたと聞いた。
いくら冒険者としての経験や知識を活かしながら戦うとはいえ、あの数をたったの三人だけで最前線を抑えていたのだから無理もない。
そして波に飲まれてしまうと死を覚悟した時、ここまで共に走ってきた馬達が助けに乱入してきたんだと聞いた。
それはもう怒涛の足蹴りでウルフ達は、ドッカンドッカンと蹴り飛ばされて次々と消滅していったらしい。
つまりは、戦力が三人と三頭という構図になった。
そこからはとんでもない連携力で、危ない状況なんて訪れないどころか、逃げ遅れた人々を馬に乗せて運んだりしたんだとか。
だから最後の最後、アルマの指令により橋を落すはずだったのに、そのメンバーにバルドさんと馬車から解き放たれた馬達も加わり、橋を死守していたらしい。
いやいやいや、なんだよそれ。
なんでもありかよ、なんてツッコミは野暮だっていうのはわかっている。
馬達は、ギルドが所有し調教しているとのことだから、たぶん戦闘訓練も受けていたのだろう。
それはそれで凄い話だが。
ここまでの出来事を総合すると、本当にどっちが英雄様だよって話。
「こちら、お飲み物ですっ」
「ありがとうございます」
「カナト様のご活躍、本当に凄かったです! とてもかっこよかったです!」
「あ、ありがとうございます」
あの時、足を引きずっていたメイドさん。
彼女は足を引っ張ってしまっていたという自責の念に駆られていたが、俺の戦いを思い出して立ち直ってくれたようだ。
褒めてもらえて喜んでくれるのは嬉しいんだが……このやり取り、実は5回目。
顔を合わせる度にその話をされると、さすがにどう反応を返せば良いのか困ってしまう。
「それでは、ごゆっくり休憩していてください!」
初めて顔を合わせた時のどんよりと沈んだ表情はどこにいったのか。
今では眩しいぐらいに満面の笑みを浮かべている。
それはそれで良いか。
木製の容器に入れられたフルーツジュースを飲んでいると、前を通過していく人達から頭を下げられる。
俺もすぐに飲み辞め、会釈を返す。
そこから何かを話しかけられるわけではないが、これも何回か数えるのをやめてしまったほどには繰り返されている。
感謝されているのは十分に伝わっているのだが、こんな子供に大の大人達が頭を下げなくても、と思ってしまう。
謙遜しているわけではない。
単純に気恥ずかしいんだ。
神様とかみたいに崇められているわけではないが、こうなんていうかムズムズする。
あーもうダメだ。
居ても立っても居られず、俺はジュースを一気に飲み干し、器を地面に置いて立ち上がる。
「作業だ作業だ」
たぶんステータスがなかったら無理であろう木材を両手で持ち上げ、組み立て作業をしている人達のところへ駆け出す。
何度も道行く人達に感謝されているが、現場作業をしている大工の人達はほど良く雑に扱ってくれる。
普段だったら嫌な気分になっていたかもしれないが、今は逆にそれがありがたい。
「じゃんじゃん持ってきますよ」
ドンッと地面に優しく落とし、振り返って駆け出す。
こっちに来て、今日で10日間が過ぎたのか。
初めての経験が積み重なって、ありとあらゆるものがキラキラして、一日一日があっという間に過ぎ去っていった。
毎日が楽しい。
毎日が新しい。
毎日が冒険だ。
俺達が目標として掲げた最強の冒険者になるっていうのは、まだまだ先になりそうで途方もないかもしれないが、逆にそれが良い。
それに、この世界を遊び尽くすには、まだまだ沢山のやりたいことが残っている。
この村の復興を手伝いつつ、レベルアップをし、ダンジョン攻略もして……これからもっと忙しくなっていくな。
俺達の冒険はまだ始まったばかり。
今日も明日も頑張りますか――。
ゲーマーパーティ転移―ある日、仲間とパーティを組んでダンジョン攻略していたら異世界に飛ばされました。が、レベルアップもステータスもあるこの世界で俺達は余裕で生き残ります― 椿紅 颯 @Tsubai_Hayato
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