第46話 ヒーローよ、永遠に

 四年後 ーー


さくら園では元気な子どもたちが大きな声でいつものように騒いでいる。


「園長先生、またあつしくんが喧嘩してます!」


「あら大変!すぐ行きましょう」


佐和子が走り、喧嘩の仲裁に向かう。


「園長先生、お電話が……」


「後からかけ直すわ。どなたから?」


「第二の吉岡先生からです」


「わかりました」


「園長、お客さんです!」


「待ってもらって!」


「園長大忙しですね……。すみません。頼ってばかりで。

 ところで最近海斗先生は元気にしてます?」


「ええ。元気にやってるわよ」


 佐和子は、園長に復帰していた。




午前7時、目覚まし時計が鳴る。


「海斗、おきて!僕の可愛いおくさま!起きてー!ほらダーリン出勤するよ?」


「んーーあと少し……」


朝、布団から出てこない海斗を雄一郎は起こしに来る。


「ダメだって。遅刻しちゃうぞ!ほら」


 俺たちは結婚し今は一緒に東京に住んでいる。海斗34歳、雄一郎も43歳となった。

 だが俺たちの生活は相変わらず新婚夫婦状態だ。


「ゆう!キスして。キスしたら起きるから」


「またー?それでいつも二度寝してるじゃん」


 そんなことを言うが、しっかりと雄一郎は海斗にキスをする。


「これでいい?」


「まだー、足りないー」


「えー?仕方ないなぁ」


 再びキスをする。そして、そのまま雄一郎は海斗を抱き上げ、ダイニングチェアまで連れて行ってあげる。


「ほら、朝ごはん食べて。じゃそろそろ本当に俺は行くからね。海斗も早く出勤しろよ」


「うん。わかった。食べたら出勤する。いってらっしゃい」



 雄一郎は病院へと出勤する。立場はさらに上に上がり、今では創新会の副会長にまで昇ってきた。最近は大きな手術以外は、ほとんど診察に携わっていない。その代わり会議やら人付き合いなどはかなり増えた。


 雄一郎が出勤した後、俺は雄一郎が用意してくれた朝ごはんを食べて片付けし、洗濯を干すと仕事へ向かう。

 マンションから自転車で10分程でそこには到着する。


「おはようございます」

「あ!海斗先生だー!」

「海斗先生おはよう!」


小さな子供たちが出迎えてくれる。


「施設長おはようございます」


「吉岡先生おはようございます。変わりなかったですか?」


「それが中学校より電話がありまして。それで相談したくすみません落合園長に電話をしてしまいました。」


「構いませんよ。解決しました?」


「はい。おかげさまで」


「ならよかったです。すみません、僕のいない時間にいつも何か起こって。」


「いえいえ、そんな。お休みの時間はできるだけ連絡しないという施設長の方針、尊重してますので。ありがたいです。働く側もその方が」


「ちょっと退いてくれる?俺これからガッコ行くんだけど。」


「紀夫くんこれから行くのね?今日はみんなと仲良くするのよ!」


「うっせーな……そうだ落合、吉岡はお前のこと好きなんだぜ?つきあってやったらどうだ?」


「紀夫くん!なにバカなことを!」


「え?そうなの?知らなかったなぁ。けど残念だけど俺はもう結婚してんだよね。だから吉岡先生を俺は取らないから安心して学校行っておいで。」


「は?何言ってんだこのオッサン。意味わかんねー、吉岡は邪魔だから結婚して辞めさせろって俺は言ってるんだけど?もういい。いってきます」


「いってらっしゃい!」


「すみません、紀夫くんが変なことを言って」


「良いですよ。あんな風に言うってことはそれだけ甘えれてるっことですから。

 その調子でこれからもよろしくお願いします。それじゃ僕は本部へ行ってきますね」


 俺は一通り仕事をしてまた自転車に乗り出発する。

 行き先は、創新会グループの本部。高度救命救急センターの横にある建物だ。なかに入ると多くの職員が働いている。通路を超え、エレベーターに乗る。


 降りてもまたたくさんの人がいる。

 創新会は、病院事業だけでなく、薬局、介護関係、さらに施設まで。多岐にわたる事業を行っており、そのグループ全体をここで見守り支えている。言わば心臓部だ。

 俺の出勤をみて職員が声をかけてくる。


「おはようございます」

「おはようございます、落合さん。◯◯薬品よりアポ依頼が来てます。」

「そうですか、わかりました。すぐに確認して返事しときます。」

「落合さん、外科より今度の会議日程について相談があるそうです。是非とも副会長に参加してもらいたいそうなんですが……」

「わかりました。日程見て連絡してみます」

「落合さん!落合さーん……」


 人の波を超えた先にある大きな扉の前まで来た。


コンコンッ


 ノックをして中に入る。


「おはようございます」


 中に入り頭を下げる。目の前には、雄一郎が座っている。


「落合くん、施設に顔出すからとキミの出勤時間はゆっくりでいいとは言ってるが、いま何時だと思う?もう10時がくるよ。僕の秘書も兼務であるキミがこんなに遅いと僕も困るんだが?」


「すみません、誰かさんが昨日遅くまでヤってくれるので眠くて朝ごはんの後ちょっとだけ寝ちゃいました。

 ていうか、何度も言ってますが俺は施設部門担当であって、副会長秘書は兼務してませんけど?」


「辞令はなくても事実上それで俺がいいと言ってるんだから、しっかり務めてくれ。

 お前以外のやつからの命令を俺は聞く気がない」


「は?なに子どもみたいなこと言ってるんです?」


「お前が言ったんだろ?これからは俺が雄一郎さんを守るって」


ぐっとネクタイを引っ張られて、一気に雄一郎の顔前まで寄せられた。


「そんな意味じゃないことわかってるでしょ。

 まったくあなたって人は。ま、やりますからいいですけどね」


笑えてくる。俺は雄一郎にキスをして横にあるデスクに座った。


「そういえば来るのが遅れた分いいことありますよ?シーツ、洗ってきました。

 やぱ洗い立てのシーツは嬉しいですからね」


「それは今夜もと誘っているのか?」


「さぁ、今日の仕事次第ですね。何事もなく無事に終えてはやく帰れたら……というところですね。

 さ、早速仕事してください。僕も仕事します。

 昼からの合同会議までに資料よみおえたいので。」


「まったく。まぁいいさ、仕事しよう」


「はい」


 俺たちには目標ができた。雄一郎の父が目指した理想とする病院づくりというのを始めたのだった。もちろんそれには何年も何十年もかかるがいつか2人で完成させようと思っている。

 


 目をやればすぐそこに雄一郎がいる。

 昼も夜も俺たちはいつも一緒だ。それはこれからも何年先もずっと。

 お互い支え合い助け合い励まし合いながら、そう、それはまるでお互いがお互いのヒーローのように。

 俺たちは俺たちの道をそうやって生きていくと決めたのだった。


 

ここにまたひとつ

しあわせなやおい(Y)の花(FLOWER)が誕生したのでした。

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FLOWERs 〜オレのヒーロー編〜 兼本 実弥 @miya_san

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