第45話 俺のヒーロー 今度は俺が守る

 20分程歩いた住宅街のところで海斗は止まった。


「ここにいたんだよね……」


「あぁ。」


住宅しかない普通の道。


「海斗は、25年前ここにいた。

 ここでひとり、暗闇の中で泣いていた」


「ここに……」


周りを見渡すが新しい住宅が建ち並んでいて当時の面影はほぼない。


「俺は、こっちから走って来てお前に話しかけた」




『えーん……えーん……えーん……パパァ……ママァ……えーんえーんえーーん』

『どした?お前迷子か?』

『パパママがいないの……、おうちがどこにもないの……どこにいったらいいかわかんないの……

 えーんえーん……もうわかんない……

 うわーーん……』

『そうかそっか。よしよし大丈夫だよ。

 もう泣かなくて良いよ、俺がついてる。

 俺が守ってあげるから』

『ほんと?』

『あぁ、今から俺がおまえのヒーローだ!

 だからお前が無事に家に帰れるまで守ってやるよ。

 ずっとそばにいる。だからもう泣くな』



昔の記憶が蘇る。


「あの時の俺は、親が死んだことわかってた?」


「いや、分かってなかったんじゃないかな。

 お前は記憶が無いかもしれないけど、歩きながら話したんだ。


『名前は?』

『しいなかいと』

『何歳?』

手を一生懸命動かして4にしようとした。

『パパママはどうしたの?』

『わかんない。どこにもいないの。おきたときからいないの』


って言ってた。だから分かってなかったと思う。


 俺はお前の手を引いて交番に向かった」


雄一郎は立ち上がり、交番に向かって歩き始めた。

大きくなった俺の手を引きながら。


「あの時お前と歩きながら、俺は誓った。


 "一生この小さな手は俺が守る"って。

 "俺がこの子を守ってやるんだ"って。


 それから今までの約25年間、その誓いを忘れたことは一度もないよ。

 そしてそれはこれからもだ。

 俺のこの命がある限り、お前を全力で守っていく。何があってもお前だけは守っていくよ」



 歩き始めて10分ほどで交番に着いた。

 子どもの時はあんなにも遠くに感じた道のりが今ではすぐに到着出来る。


「あの時さ、俺を助けてくれた雄一郎さんのことが本当にヒーローに思えたんだ。

 俺を救ってくれた救世主、いつでもどんな時でも助けてくれる、俺だけのヒーローって!

 その後もずっと俺の心の支えになってた。

 本当にありがとう。

 もしあの時、雄一郎さんに出会ってなければ、もしかしたら俺はどこかで死んでたかもしれない。あの時雄一郎さんが俺を見つけてくれたこと、本当に奇跡のような出会いに感謝してる。

 んでね、最近思うんだ。

 そんな奇跡のような出会いは、もしかしたら雄一郎さんのお父さんや、椎名の親が導いてくれたから起きたんじゃないかって思うんだ。


 そう思うようになって今までのことを思い返してみたら、俺にはたくさんのヒーローが居たんだよな。


 命を張って俺を守ってくれた椎名の母。

 雄一郎さんから言われたとはいえ、俺をずっと見守って支援してくれていた成瀬会長。

 母の勝手な願いにも関わらず、自分の息子のことを隠しながら見守ってくれていた椎名の祖母。

 学生時代、友人がなかなか出来ないこんな俺の唯一の友になってそばにいてくれた京介。

 これからのさくら園をどうしたらいいかわからなくなった時、手紙を残してくれてたことで創新会に入れることが出来た落合の父。


 みんなみんなどの人も俺にとっては大事な、大切なヒーローだったんだ。

 彼らがいたから今がある。

 彼らがいたから今、雄一郎さんと一緒に居れている。

 本当に彼らには感謝しかない。


 だから俺はこれからの人生、彼らに感謝して出来る限りのことで恩返しをしていこうって思うんだ。

 それがこれからの俺の目標であり使命だと思う。


 そしてその恩返しをしたい、1番の相手は、ゆう、雄一郎さん、お前だよ。

 誰よりも何よりも大切にしたい。

 ゆうのそばで、一生、生きていきたい。

 今までの25年だけでなくこれから50年、100年でも一緒にいたいんだ。

 だから

 雄一郎さん、成瀬雄一郎さん!

 おれと結婚してください」


 俺はそう言いながら手を差し出した。

 ゆうは、うつむいた。

 地面にポタポタと雄一郎の涙が落ちて濡らしていく。



「海斗が言ったんだからな……

 わかってんのか?俺は独占欲ヤバいやつなんだよ?

 結婚したら離婚なんてことは絶対にありえないんだよ?

 何があっても離れられなくなるんだよ?

 いいのか?そんな俺で

 いいのか?俺が相手で本当に?」


「あぁ、わかってる。

 ゆうがヤバい奴だなんて再会したあの日からわかってるよ。

 でも仕方ないじゃん?

 そんなヤバい奴が俺は好きなんだからさ」



「海斗、海斗!あぁ、結婚しよう。

 結婚しよう!で、世界一幸せな夫婦になろうよ。世界一離れられない最高の夫婦になろうよ。

 海斗、好きだ。好きだ!海斗。

 てかなんで最後はお前からなんだよー!

 チックショー。

 あーもー好きだー!海斗!」




 何も特別綺麗なところでもない、小さな交番の前で俺たちは愛を語らい、プロポーズをし、抱き合いキスをした。


 幼い頃この交番に来てからまもなく26年という歳月が経過しようとするこの日、2人は将来を誓い合ったのでした。




 そして俺たちは、見守ってくれている多くの人たちに報告をしたのち、区役所のパートナーシップ制度を利用し晴れて夫婦となったのでした。

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