第44話 待たれる復帰、寂しい心
ピンポーン
家の呼び鈴が鳴った。
ドアを開けるとそこには京介がいた。
「よ!彼氏、東京に帰るって?」
「お前は地獄耳か?俺でさえ昨日聞いたのに何で知ってる?」
「今朝お前のお母さんがゴミ捨てで康太と会ったらしくてな。そこで聞いたんだよ。
これ、快気祝い。ずっと用意してたんだけど、なかなか渡せてなくて。ごめん」
「え?京介から?ありがとう。」
「お前にとって大事な人は、俺にとっても大事だから。
これから送っていくのか?」
「とりあえず今日は検診もあるから付き添って、そのまま月曜日までは東京に行ってくるよ」
「俺が東京に戻るからといって、お前に海斗は絶対に渡さん!」
雄一郎がやってきた。
「成瀬さんのその嫉妬心が、俺にもようやくわかってきましたよ。
安心してください。俺にも好きな人がいますから。海斗にちょっかいは出しませんよ」
「ゆう!京介はゆうの快気祝いを持ってきてくれたんだよ?だからそんな態度取らないの」
「いいよいいよ海斗。こんな態度じゃないと成瀬さんらしくないよ。いつも通りで安心した。
じゃ成瀬さん、お元気で。」
京介は帰って行った。
「さ、準備して病院へいこう」
俺の運転する車に乗り東京の病院へと向かう。
これでまた一緒の生活が終わると思うとやはり寂しい。
いっそこのままどこか遠くへ誰も知らない土地へと逃避行してしまおうかというよからぬ考えも浮かぶが、車はまっすぐ病院へと向かう。
診察も無事に終わり出てくると何人もの医師や看護師たちが雄一郎に会いにきていた。
「成瀬先生!お久しぶりです!いつから復帰ですか?」
「よ!ジュニア、しばらく会ってないのに何も変わってないじゃないか」
「雄一郎先生、仕事が溜まってますのでお早めに復帰して欲しいのですが……」
あっという間に取り囲まれたが、それらを静止し雄一郎は俺のところへ来て
「海斗、このあと少しだけでいいから会長室にも寄りたいんだけど……」
「もちろん報告しておいでよ。じゃ俺は下の喫茶店ででも待ってるよ」
雄一郎と別れ、病院の一階フロアを歩く。
ここ、創新会の高度救命救急センターは大きな病院だ。手術など大きな病気の方しか受け入れてないのだがそれでも大勢の人が毎日訪れる。
総合受付のあたりで何やら揉めているようだ。
「お願いします!先生に診てもらいたいんです。成瀬先生だったらうちの人を助けてくれるかも?と主治医から聞いてきたんです。けど先生は、今どこの患者も新規を診ていないと聞いて、直接お願いしようと東北からやってきたんです。
お願いします!先生へ取次をお願いします!いくらでも待ちますから、先生に是非とも!」
受付の2人は困り顔だ。
きっとこういう人は毎日のように訪れているのだろう。
その話を聞いていた後ろの人が話に入っていく。
「成瀬先生はもう復帰されたん?うちの人も成瀬先生に診てもらいたくてここに来てるけど先生が休養中と聞いたから他の先生に診てもらってるんやけど、復帰されたんなら是非とも……」
「え?先生は休養中?」
「すみません、成瀬外科部長のことをお尋ねですか?成瀬部長は現在休養中でして、復帰の予定は伺っておりません。
そのため、他病院からの紹介もお断りをしています。
お二人ともご理解ください。」
受付も大変だ。
きっとこのような人は毎日のようにここ1か月来ていたに違いない。多くの人が本当に雄一郎の復帰を望んで待っている。車の中での自分の浅はかな考えが申し訳なくなってくる。
「海斗!お待たせ」
サラサラの髪でスラッと背も高く、昔よりちょっとだけ大きくなった肩幅が大人の色気を纏ったようにみえる雄一郎が、笑顔で俺を迎えにきた。
「会長とはもういいの?」
「ああ。元気になったから来週から復帰するって話しをしにいっただけだから。もう大丈夫だよ。
さ、帰ろうぜ」
「じゃあさ、寄りたいところがあるんだけど。いいかな?」
「いいよ、行こう」
俺は車をマンションの駐車場においたらそのまま、外へ出た。
「どこいくの?」
「いいからいいから。一緒についてきて」
俺は歩く。
てくてくてくてく……迷いなく一つの場所を目指して歩く。
雄一郎は黙って俺に合わせて横を歩いてくれる。
何を聞くわけでもなく、話すわけでもなく無言で2人、てくてくてくてく歩く。
そして、一つの場所へと辿り着いた。
「海斗……」
雄一郎が小さな声で俺の名前を呼んだ。
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