第43話 幸せの家族(かたち)
雄一郎は静養をかねて、さくら園隣のマンションで俺たち親子との生活を開始した。
朝は俺に合わせてさくら園に出勤する。子どもたちと朝ごはんを食べて、子どもたちの登校を見送る。
その後は、園長室で俺の作業を手伝うでもなく、ゴロゴロとソファで過ごす。
子どもたちが帰ってくると、一緒に遊んだり勉強を教えたりしてくれていた。子ども達もすっかり雄一郎に慣れた。
夕方、一緒にマンションへと帰る。そして母と3人で食事をする。夜は俺の部屋で愛し合い眠る。
幸せな日々だった。
入院中は一緒にはいたが、生活をしているわけではなかったし、学生時代の雄一郎のマンションでの生活も、親とのことなど考えることが多すぎて、どこか落ち着かなかった。
今回は違う。自分の世界にずっと雄一郎が居てくれる、この感覚は今までにないほどの幸福感を得られていた。
家族……
これが幸せというものか……
いつまでも続くわけじゃないこの状態を心から楽しんでいた。
「お?Maxじゃん、いまから出勤?」
さくら園から帰ってきたマンションエレベーターのところで同級生のMaxとちょうど鉢合わせした。相変わらずMaxは胸元がガッツリ開いた全身黒づくめの服で登場だ。
「そう、これから。海斗は今帰り?
たまには海斗もさ、うちの店に遊びにこいよ!俺が招待するから」
「アッハッハ!俺はクラブなんて興味ないよ。それに……」
雄一郎がMaxを警戒して俺を囲うように抱きしめてくる。
「おやおや、俺の周りはどいつもこいつも嫉妬深いヤツばかりだな。
俺だって誰でもじゃないんだぜ?
えっとー、彼氏さん、単なる同級生なんで何も一切おこりませんからそんなに警戒要らないですよ。
まぁいいや。あー俺も恋したいなー。じゃいってくる」
「お前はその前に身辺整理しよろ!そしたら運命の相手にも出会えるさ。
じゃ頑張れよ!」
エレベーターに俺と雄一郎は乗る。扉が閉まる。と同時に雄一郎が背中越しにキスをしてきた。
「お前の同級生はなんであんななんだ?フェロモン撒き散らしすぎだろあいつ」
「Maxは昔からあーいう奴なんだよ。色気もヤバいくらいあるよなー。ハーフだからか、あの綺麗なホリの深い顔!マジえげつないほどのイケメンだよなー。
けどゆう、気にしなくていいよ。あいつも言ってたけど、あいつとどうにかなるなんて想像できない。絶対ないから。
俺にゆうがいるように、いつかあいつにも運命の人に出会って欲しいよ」
「海斗の俺は運命の相手?嬉しい」
俺たちは家に帰り、母と3人で囲んで夕飯を食べる。
幸せだ。
いつまでもこんなに穏やかで
幸せな生活ができたらいいのに。
「あのさ、明日検診で東京戻るんだけど、もうそのまま向こうに帰ろうと思う」
雄一郎からの突然の申し出だった。
「あら、もう大丈夫なんです?」
「ええ。十分休養させてもらえました。ありがとうございました」
「それは良かった。元気になられるのが何よりだわ。
雄一郎医師の帰りを待ってる患者さんは、多くいらっしゃるでしょうからね。
でもこれからもいつでもここに戻ってきてくださいよ。
この家はあなたの家なんだから」
「ありがとうございます」
「俺、東京に帰るなんて聞いてない」
「うん、だから今話してる。
海斗、明日の病院付き添ってくれないか?」
「もちろん、それは付き添うつもりだったから行くよ
けど、そんなに慌てて帰らなくても良くないか?」
どっと寂しさが押し寄せてきた。
「人生においてこんなにも休養したのは初めてだよ」
雄一郎の手が俺の頭を撫でてくる
「海斗、たくさん世話してくれてありがとうな」
この夜は珍しく海斗は早くから布団に入り、セックスもキスさえも拒否するかのように雄一郎側に背を向けて寝たふりをする。
その様子を小さなため息混じりで様子を見る雄一郎。またしても海斗の頭を撫でる。
そして無言で布団に入り眠りにつくのだった。
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