第42話 嫉妬の中で……
昼ごはんを済ませて、俺はまた雄一郎のベッドサイドに戻り話しはじめる。
「ゆう、もしおれがプロポーズをうけててさ、俺たちちゃんと結婚してたら、水曜に事故にあったゆうのことを、土曜まで知らないなんてこと、なかったんだよな……
そしたらゆうはこんなにも、1人で俺が迎えに来るのを待たなくてよかったんだよな……
寂しい思いをさせたよな。ごめん。
もしかして、それを怒ってて目を覚まさないのか?
それなら謝るからさ、いい加減起きてくれよ。
ゆう、起きてよ。
おれ、今度はプロポーズ受けるからさ。
もう一度、もう一度だけで良いから
起きてプロポーズしてくれよ。
ねぇ、ゆう。雄一郎さん」
雄一郎の、手を握る。
……が、やはり反応はない。
「成瀬さーん、身体を拭きますよ」
看護師が入ってきた。
「身体?」
「はい、今までは腕や足だけでしたけど、今日からは全身してみようってことになりました。
1日に一回、身体を拭いてあげましょうね」
「それは俺がやります!やらせてください!」
「しかし……そうですね、私がやるよりも、恋人の方がいいですよね?
じゃ私が指示しますので、その通りにやってください」
「はい!」
看護師が言うように、おれは雄一郎の身体を拭き始めた。
「昔、俺が大怪我をして入院してるとき、患者だった俺にゆうが毎日身体を拭いてくれてたんです」
「え?成瀬先生が?
あぁすみません。成瀬先生と一緒に働いてたことがあるんですけど、成瀬先生って、どこか必要以上には患者の身体を触らないタイプの人だったので、患者さんの体を拭くなんて想像が全くできませんよ。
ま、それは患者だけじゃなくてスタッフに対してもなんですけどね。必要以上にスキンシップや、交流…たとえば飲み会なんかも参加を絶対しなかったので、なんていうか、他の人とは距離を置いてるんだろうなって感じてました。
だから本当に恋人さんは先生にとって特別な方なんですね。
もしかして、患者でいらっしゃってからのお付き合いなんですか?」
「あはは、それは違います。
知り合ったのは俺が4歳の時で、かれこれ25年も前なんですよ」
「25年!それはすごい!
そっかぁ。成瀬先生はじゃずっとあなたのことがあるから他の人との接触をずっとしないように距離を置いてたのかしら。
恋人さんだけを大事にしてたんですね」
「ゆう、そうなの?俺だけが特別だった?
俺がいるから、他の人との交流を避けてたの?
まだまだ俺たちは話し足りないんだな。知らないことが、たくさんありそうだよ。ね?ゆう」
看護師は海斗と雄一郎を微笑ましく眺めながら清拭を終え部屋から出て行った。
「あ!そうだゆう、ちょっと電話してきていいかな?京介に。
ほら、沖縄行く前に話したろ?
京介の新しい恋の話。あいつのところに住み込みで働き始めた家政夫のことを京介は絶対気になってんだよな。もしかしたらもう進展してるかも?
それか、あいつのことだから何も出来ずにうじうじしてるかな。
どっちだと思う?
京介は自分の気持ちに疎いタイプだから、ちゃんとその人のことを好きだってことを自覚させないといけないと思うんだ。
そうなるように、俺からアドバイスとかをやってあげたいんだよ。
俺自身、後押しされたからさ。
あとお土産も届けず、何も言わずにこっちに来てるからもしかしたら俺のことを京介が心配してるかも?!
そうだよな!これは一刻も早く、俺から連絡しないと!
いや、待てよ!
今の状況を京介になんて話そう。
正直に言うのが良いよな。ゆうが意識不明で入院してるから無事になるまで帰らないって。俺の心も身体もめちゃくちゃしんどいけど、今にも俺が倒れそうだけど、離れるわけにはいかないんだーって伝えようかな。
そしたらきっと京介のことだから、俺のことを心配してここ北海道まで来るかもしれないよな。
だって俺のピンチだから。
あのさ、ゆうに言うと心配すると思って言わなかったけど、やぱ京介は俺のこと最近まで好きだったと思うんだよ。
そんな京介に、今の状況を伝えたら……せっかく、新たな恋が始まろうとしてるのにさー、京介は俺の方が心配になって家政夫をほっといてでも俺のもとまで駆けつけてくれるよな?
ま、そしたら、俺もやぱ人間だし?俺のことを大事に考えてくれる人が横に居てくれたら、頼るよな。京介に支えてもらうよな。やぱ人間弱ってる時に恋に落ちやすいって言うし?
いやーまさか……ね?でもありえるかな?なんて。
ゆう、とりあえず京介に電話だけしてくるよ!ちょっと待っててね」
俺は立ち上がりドアの方へ向かおうとした、その時である
グッ!!!!!!!!!
離そうとした俺の手を雄一郎から掴んできた
「カイト……」
か細い声が聞こえた。
「ゆう!!」
俺はゆうの顔を覗き込む
「ゆう!起きたの?聞こえる?俺が誰かわかる?」
「カイト……フッ……。わかってるよ、おまえだってことわかってる。俺にお前がわからないなんてことはないだろ……
はぁ……俺はどうしたんだ?」
「先生呼ぶ!」
涙が出てきた。ナースコールを押す
「先生!せんせい!!ゆうがおきたー!!せんせい!!」
医師や看護師など多くの人が一気に来た。
「うっ……うっ……ううっ……うっ……うっ……ううっ……」
涙が溢れる。部屋のドアのところで倒れ込むように座り嗚咽した。
「大丈夫ですか?ほら、せっかく成瀬先生が目を覚ましたんだからそばにいてあげないと。ね?」
若い看護師が俺を起こし支えながら雄一郎の横までつれていく。
「ありがとうございます。うれしくておれ……もう……もう……」
「さわるな……」
か細い声でゆうがいった。
「成瀬先生、どうしました?どこを触られたくないですか?どこか痛いですか?」
診察してくれている医師が聞くと
「海斗にさわるな」
というので、先生たちが一斉に俺の方を見た
「ゆう?あ……」
支えてくれていた看護師が手を放した。
「すみません、ありがとうございました。
全く……。ゆう!彼女は俺を支えに来てくれただけだろ?」
看護師にお辞儀をして、俺は雄一郎の手を握った。
「お前はおれのものだ……俺だけのものだ」
「そんなことを言えるようならどこもかしこも大丈夫そうですね、成瀬先生」
「内藤か?お前が俺を診てるのか?おい、お前で大丈夫か?ていうか俺はどうしたんだ?」
「あはは、僕に診てもらえてラッキーでしょ?ちなみに主治医は僕じゃありませんよ。英次郎先生です」
「英次郎?もっと心配じゃないか」
「ゆう!そんなこと言わないの!毎日色んな先生が本当に真剣に診てくれてたよ。
すみません、先生」
「いいんですよ。私たちの医師としての先生が成瀬先生なので、そう言われても当然だと思ってます。
僕らはいいですが成瀬先生、海斗くんは本当にずっとあなたを心配して離れなかったんですよ。感謝してあげてくださいね」
「海斗……」
「ゆうが目覚めてくれたらそれで俺は幸せだよ。よかった。本当に良かった。
ゆうが目覚めたこと、みんなに連絡してくるよ。
先生、大丈夫ですかね?」
「えぇもう心配いりませんよ。念の為にしばらくここで診察しますが、もう大丈夫そうですよ。
是非とも心配しているみなさんに連絡してきてあげてください」
「じゃ少しだけゆうをお願いします」
俺は携帯電話が、使えるエリアに急いでむかった。
「成瀬先生、本当に彼は可愛い人ですね。一生懸命看病してる姿は素敵でした。優しいし、頭もいい。気立てもいい。色気もある。本当に素敵な方ですね」
「内藤、殺されたくなければそれ以上言うな……クソッ、お前は絶対海斗のことタイプだと思ってたから、何があってもお前にだけは会わせたくなかったんだよな。
ま、いい。絶対に手放さないから。
それはそうと、早く病状説明しろ!」
それからも俺は、雄一郎に付き添い献身的に看病を続けた。かつて俺が入院時に雄一郎にしてもらったように、出来る限り付き添った。
そのおかげか2週間後、退院する日を迎えた。
「先生方、看護師のみなさん、スタッフのみなさま本当にお世話になりました。ありがとうございました」
俺がそんな風に挨拶をしても雄一郎は何も言わない。頭も下げない。
そんな態度に俺から雄一郎に頭を下げるように合図するも、無視してくる。
「いやいやいいんですよ、海斗くん。成瀬先生を助けられたなんてちょっとした自慢にもなって僕も嬉しかったです。
それに、君と出会えて僕は本当に嬉しかった。いつでもまた北海道に来てくださいね。今度は成瀬先生がいないときに」
「え?」
内藤医師は僕の手を取ろうとしたが、
「触んな、このナンパ野郎が!」
と雄一郎に一蹴された。
「ったく帰るぞ!」
雄一郎は先にタクシーに乗り込んだ。俺は再度みんなに、頭を下げてタクシーに乗る。
走り出した車内で雄一郎は
「はぁーもー……。
お前どんどんモテるようになってないか?前まではあの京介とかいう奴だけだったのに。
てか、あいつはまだお前のこと好きなのか?」
「なんで京介がおれのこと好きだって思うんだよ?」
「おまえ、言っただろ?海斗のことずっと京介は好きだったって。俺の枕元で」
「あ!あれ聞いてたんだ!」
「夢のような…現実のような変な感じで聞こえてたよ。
で、どうなんだよ?あいつは、まだお前のこと本当に好きなのか?」
あれは雄が嫉妬して目覚めるかもしれないと思ってわざと言った嘘だって言ったら怒るかな?
「おい!何笑ってるんだよ!
海斗、いいか?お前は俺のなんだぞ!他のやつに心奪われたりするなよ!わかったか?
それからあの内藤は、コッチの人間だ、タチだ……だからお前、本当に狙われるからな!気をつけろよ!」
「はいはい!」
おれは雄一郎に抱きつきキスをした
「誤魔化すなよ!」
「ゆうが、元気になってよかった!」
「もういい。いいから俺のそばにいろ」
雄一郎は、俺の手を握って恥ずかしそうに外を眺めた。
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