ヒヨドリ
西しまこ
第1話
ヒヨドリが木の枝にとまり、花を啄んでいた。ひと枝、ふた枝と枝を揺らしながら移動して、花をおいしそうに啄む。ヒヨドリが花を啄むたびに、枝を移動するたびに、花びらがひらひらと散った。
*
妹がヒヨドリを拾ってきたことがあった。
もうわたしも妹も大人だったが、お互いいろいろなことがあって、たまたま実家に帰ってきていて、実家暮らしをしているときの出来事だった。ヒヨドリは頬が赤くて、灰色の身体をしていて、「ピーヨピーヨ」と鳴いたので「ピヨちゃん」と呼んでかわいがった。
そのころ、妹は何でもかんでも拾ってきた。
ヒヨドリの前には仔猫を拾ってきたし、ヒヨドリの後には「売れ残りになっていてかわいそうだったの」と犬を連れ帰った。「なんだかたすけなきゃ! っていう気持ちになるのよね」という妹の言葉を聞いて、複雑な気持ちになった。
ほんとうにたすけて欲しかったのは、妹だと思う。
妹の結婚はうまくいっていなくて、妹は夫と娘を、同居していた義理の実家に置いたまま、ほとんど追い出される形で家を出た。詳しくは語らないので聞いていない。ただ、相当大変な目に遭ったのだと思う。
妹は、それは熱心にお世話をした。鳥も猫も犬も。母親一人が暮らしていた実家は、急ににぎやかになった。母も、なんだか楽しそうに見えた。
「これが陽菜」妹はあるとき、写真を見せてくれた。わたしは妹の娘にはほとんど会ったことがなかった。
「かわいいね」
「うん。でも、もうもっと大きくなっただろうな」
「いくつになったの?」
「小学校に入学したよ。……用意、わたしがしてあげたかったな」
スマホの画面を妹はじっと見つめた。
妹の傍らには猫と犬がいて、それから玄関ではヒヨドリが「ピーヨピーヨ」と鳴いていた。わたしは猫の背中を撫でた。
母も離婚してシングルマザーだ。妹も近いうちに離婚するだろう。わたしは?
わたしは自分のスマホを握り締めた。
母にも妹にも言っていなかったけれど、わたしにはつきあっている人がいて、いっしょに暮していた。ずっと仲良く暮らしていたけれど、最近、ちょっとしたことがあって、わたしは動揺してしまい、彼がいないときに部屋を出てきたのだ。
妹は娘の写真をじっと眺めていた。
子どもはかわいいのだろうか。……わたしにはよく分からなかった。
わたしは自分のお腹をそっとさすった。まだ、その存在すらよく分からないいのち。
不安だった。わたしに子どもが育てられるのだろうか。子どもは犬や猫や鳥とは違う。
ふいにスマホが震えて、わたしは電話に出た。「もしもし?」
*
しばらくして、ヒヨドリは、青い空へと自由に飛び立っていった。
「とり!」と娘が指をさした。
夫が「鳥だね」と娘の頭を撫でた。
了
一話完結です。
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ヒヨドリ 西しまこ @nishi-shima
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