二月と三月の会議 *家族会議篇

西しまこ

第1話

 二月上旬、家族会議が開かれた。


 次男の透の高校受験が二月中旬にあるのだけれど、何しろヤバイのである。成績は下降気味だし、いつかスイッチが入るだろうと期待していたスイッチも入る気配がなかった。


「どうするんだ、透」と厳しい顔をして夫が言うと、

「どうすんだって、言われてもさあ。やってるから!」と透はふてくされたように答えた。

「お前、あそこ落ちたら、俺、笑っちゃうよ~!」と卓が言って、

「ちょっとそういうこというのはやめなさい!」と私がたしなめる。


 そんな不吉なこと言って、ほんとうに落ちたらどうするの!

 今は少しでも、透が前向きに頑張るように話す場じゃないの⁉


「でもさあ、透の人生じゃん? 俺たちが受験するわけじゃないし、俺、高校受験も大学受験も、もう終わったし」

「だけど、ほら、卓の体験談とか……」

「オレ、兄貴と違うから!」

 透は大きな音を立てて席を立ち、自室へ行ってしまった。


「あーあ」卓は大げさに溜め息をついて、「何を言っても無駄だよ。自分がやる気にならないと」と分かったかのように言った。

「でも、卓はちゃんといいところ受かったけど、透は……」

「ほら、そういうのがいけないんだよ。なんで俺と比べるの?」

「でも」と言うと、夫も「そうだ。卓と透は違う。透は透でいいところがあるよ。それに、透なりに頑張っているんだよ」と言った。


 何よ、さっきはわたし側だったのに、今度は卓側について。

 透がちゃんとやっているわけないじゃないの。だから夫や卓からひと言いって欲しかったのに!

 わたしが黙っていると「もう終わり! 透を信じなよ」と卓は言い残し、自室に行った。

 ……全然信じられないから、こうしてみんなで集まってもらったのに……。


 三月上旬、家族会議が開かれた。


「それでさ、家族旅行はどこにする?」わたしはうきうきと言った。

 透の高校受験が無事終わったのだ。しかも第一志望に無事合格した。よかった。まあ、卓の学校には劣るけど、あの透にしては上出来だと思う。

 しかし、卓も当の透も微妙な顔をしている。夫までなんだか変な顔をしている。みんな、高校合格が嬉しくないのだろうか。


「あのさー、俺、春休みは彼女と出かける予定なんだよねえ。あとはバイト入れちゃった」と卓が言った。

「ちょっと、卓!」とわたしが言うと、透も「オレ、家族旅行は行きたくない。友だちと出かけるからいい」と言った。

「え、でも」

「……母さんさ、勝手なんだよ。だいたい、兄貴と同じ高校じゃないから、ほんとうは不満なんだろ? ともかく、行かないから」「じゃ、そゆことで」卓も透も自室に行ってしまった。

 夫がわたしのことを残念そうな顔で見ていた。



    了



一話完結です。

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