第41話 ふりじゃないから、そんなに強力な魔法を使われても困る


「はぁっ!」


 僕は地面を蹴り上げ、飛び跳ねるとちょっとした崖の上に着地する。辺りを見回すが、魔物の影は見当たらない。安全を確認した僕は崖下にいるフレアに向けて手を伸ばす。


「しっかりつかまってくれよ」


「分かっています」


 彼女の右腕を掴んでから思いっきり引き上げる。


「ふぅ。さっきからこんな地形ばかりですね」


「そりゃ火山だからな」


 僕もフレアもステータスが高く、魔力も多いためにこれくらいで疲れたりすることはない。暑さ対策もしているしな。


 だが、こうも険しい道が続くと精神的には疲れる。おまけに、フレアはまだグリマスから装備を貰っていないこともあって、ロングスカートをはいている。だからかなり動きにくそうだ。


 もちろん、フレアはなにも考えずにスカートで山登りをしているわけではない。スカートには特殊な魔法がいくつも付与されており、頑丈だからだ。


「少し休憩しないか?」


「賛成です」


 僕らは近くにあった窪地で休憩を始める。白骨化した魔物の亡骸なきがら以外にはなにもない空き地だ。


 フレアがマジックバッグからわら製のバスケットを取りだす。


「これは?」


「休憩ついでに昼食をと思いまして」


「確かにお腹も空いてきたな」


「ではどうぞ」


 バスケットからフレアが取りだしたのは、大量のバターが塗られたライ麦パンだった。ブッターブロットってやつだな。


「うん。美味い」


 僕はお腹が空いていることもあって夢中でかじりついていく。


「それは良かったです。ちなみにバターは私の手製です。パンの方は買ってきたものですけれど」


「そうだったのか。コクのある味わいで美味い。前から思っていたけど、フレアは料理系統のスキルでもないのに、料理が上手だよな。どこで習ったんだ?」


「特定の誰かから教えてもらったわけではありませんよ。ブルワースの実家で軟禁されていたころ、魔法の学習や実験の息抜きとしてやっていただけです」


「なら独学というわけか。それはすごい」


「このくらいなら大したことはないと思いますけど。まあ、称賛は素直に受け取っておきましょう」


 僕と同様にフレアもブッターブロットにかじりつく。


「話は変わりますが、この骨はなんの魔物なのでしょうかね。形状的には犬のように見えますが」


 彼女は近くにある白骨化した魔物を指さす。


「多分、火炎狐ファイアーフォックスなんじゃないかな。確かに犬には似ているけど、どちらかといえば妖狐系統の魔物の骨格だと思う」


「そうですか。狐系統の魔物の骨なんて初めて見ました。興味深いですね」


 フレアはブッターブロットを食べ終えると骨のある場所に近づく。


「いづれはこうした魔物の骨格を集めたり、生態を調査するのも面白そうですね。おや」


 彼女は骨の下にある地面を見る。


「どうした?」


「骨の下にある石が銀色に光っていたので見てみたのですが、これはミスリルですね」


 フレアが右手を掲げる。その手には確かに銀色に輝く石ころが握られている。


「なんだって!?」


 ミスリルは黒竜族の素材ほど貴重なものではないが、装備に使えばかなり性能の良いものができあがるし、売ればかなりの儲けになる。


「ミスリルの原石がそこにあるということは、ここにはミスリルの鉱脈があるということじゃないのか?」


「可能性はあります。せっかくですし、調べてみましょう」


 フレアが周囲の地面を掘り返していく。


 結果として、僕らのいる窪地にはミスリルの鉱脈があることが分かった。正確には窪地というより、周りの崖の部分にミスリルの鉱脈があるといった方が適切ではあるが。


「どうせなら少し回収していかないか?」


「ええ。悪くないですね」


 僕らはツルハシを持って崖の部分を削っていく。すると、削った先からミスリルの原石が転がり落ちてくるのでマジックバッグに詰め込んでいった。


「いちいち掘り返していくのも面倒ですね。崖を思い切って削りますか。ミスリルですし、威力を抑えればダメになることもないでしょう」


「崖を崩落させすぎないように気を付けてくれよな」


「分かっています。【分解】」


 崖の広範囲をフレアは【分解】によって削っていく。おそらく、ミスリルは分解されないように威力は調整しているのだろう。彼女ならそれくらい朝飯前だ。


 崖の表層が砂粒となって地面に積もっていく。確かに地面を掘り返すよりは楽だろうけど、砂粒をどかしながらミスリルを探すのは大変そうだな。


 ん? 待てよ?


「【束縛眼】!」


 僕は崖に向かって【束縛眼】を使用する。フレアの魔法によって緩やかに崩壊していた崖の表層は一時的に動きを止める。


 やっぱりな。【束縛眼】は生物だけでなく、物体の動きをも止めることができるのはバラード家の屋敷で行われた戦いで分かっている。


 なのでもしかしたら崖が崩れるのを一時的に止められるんじゃないかと思ったわけだが、正解だったようだ。


「フレア、今のうちにミスリルがどの辺にあるか確認しよう」


「なるほど。考えましたね」


 僕らは急いで時間の止まった崖を見て、どこにミスリルの原石があるのかを確認する。こうすることで、時間が再び動きだした後にミスリルがどの辺に埋まっているのか推測しやすくなるはずだ。


 9秒という限られた時間だが、僕らはミスリルが眠る場所を特定し、崖から少し離れる。再び崖の表面が崩れ、崖下には大きな砂山ができた。


 僕らはスコップで砂山からミスリルを掘りだし回収しようとする。その時だった。


 崩壊が止まったはずの崖から再び土くれが断続的に落下しだす。


「なんだ!?」


「おかしいですね。表面しか削っていないのに」


「「「「ぴぎゃぁぁぁぁぁぁああああ!!!」」」」


 鳴き声とともに、崖に複数の穴が開く。中から現れたのは、大柄で赤黒い身体をした複数の蟻だった。確か溶岩蟻ラバーアントという魔物だったかな?


 魔法を使った衝撃に驚いてでてきたのだろう。


「きゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!」


 鳴き声、ではなく悲鳴を上げたのはフレアだ。


「【氷隕石アイスメテオ】!!!!」


「おいフレア!!! なにやっているんだ!?」


 フレアが魔法を発動させ、巨大な氷の隕石が溶岩蟻ラバーアントたちをつぶしていく。だが――。


 隕石は蟻だけでなく、崖に思いっきり衝突する。


 ずががががががが!!!!!!!!


 大きな音を立てて隕石と崖は粉々になっていき、土砂となって僕らに襲いかかった。

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無能だからと実家を追いだされ底辺をさまよってる冒険者だったけど、ユニークスキル【魔眼】が覚醒したので無双してみる~え? 歓迎してやるから家に帰って来い? お断わりします~ 紫水肇 @diokuretianusu517

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