第3話停戦

戦争が始まってから一週間が経過した。

未だに両国で死者は出ていない。

どちらの国もほとんど攻撃をしないので当たり前だが、死者は出ない。


コーク国の物価はこの一週間上がり続けている。

せっせと、コーク国の商人が物資を買い占めている。



「では、ヤマト国王陛下、約束の一週間が経過しましたので明日からはこちらから攻撃してもよろしいですね」

将軍が俺に聞いてくる。

将軍は攻撃を行いたくて仕方なかったのだろう。


「将軍それはできないぞ。今日でこの戦争は終わりだからな。」

将軍が俺の言葉を聞いて驚いた。


「ヤマト国王陛下、どういうことでしょうか?」


「そのままの意味だ。今日停戦協定をコーク国と結ぶ。将軍、ついてこい。リサ、案内を頼むぞ」


「承知しました。ヤマト様。」


まだ理解が追いついていないのか将軍はひどく動揺している。

そんな将軍、リサ、護衛兵を連れて俺はコーク国と交渉する場所に向かった。


「ヤマト国王陛下、一週間戦っただけで、どちらにも損害はほぼない状態で停戦協定を結ぼうとすれば、結局始めから戦争せずに結んだほうがよかったのではないでしょうか?何のために戦争を起こしたのですか?これでは、相手の要求を下げることはできません」


「損害なく一週間戦争するのが目的だったんだよ。コーク国の要求は最初から受け入れる予定だった。お前も来ればわかる。早く、コーク軍との話し合いに行くぞ」


俺、将軍、リサはコーク軍と大和国の軍の中間地点に移動した。停戦交渉の意思を表す旗を上げながら待っていた。


コーク軍の方からも同じ旗をあげながら数十人で俺たちのところにきた。


ちなみに、相手国が停戦交渉の意思を表す旗を上げている場合、攻撃してはいけない。

攻撃した場合、この大陸に存在するありとあらゆる国が攻撃した国を袋叩きにする国際条約がある。

そのため、停戦交渉の意思を表す旗を上げているものを攻撃する軍はいない。



「では、停戦交渉を行いましょう。私はコーク国宰相のトーマスです」

コーク軍の宰相、トーマスが俺たちに言ってきた。


「ああ、俺は大和国、国王のヤマトだ。」

俺が名乗ると少しトーマスが驚いた。


「まさか、国王が戦場にいたとは、これは驚きました。」


「あいにく、知っての通り我が国は弱小なので優秀な人材が少ないんだよ。俺に仕事がけっこう回ってくるんだよ。勘弁してほしいぜ。」

本当に我が国には人材が不足している。

宰相なんて王城に残ってるからな。

ほんと、あいつは。


「はは、そうですか。では、停戦をする条件を言います。事前に渡してある文書に書いてある商品の関税の見直しが条件です。」


「ああ、貴国から渡されてあった文書に書いてあった商品に対する関税を10%に変更する。従来の40%から大幅に変更したのだ。これでいいだろう。」


文書には撤廃と書いてあったが、それは理想であってコーク国は関税が大幅に小さくなれば最初から停戦する予定だ。


これは我が国のスパイ機関『レディ』が得た、確かな情報だ。

トーマスはこれは受けるだろう。


「はい、大丈夫です。では1年間の停戦協定を結びましょう。では今、文書を作成します。」


俺はトーマスたちが停戦協定書ができるまで待った。


どうやら停戦協定書ができたようなので俺は目を通した。


「内容に問題はない。」

俺は協定書にサインをした。

サインした協定書をトーマスに渡す。

トーマスも協定書にサインをした。


これで1年間の停戦協定は結ばれた。


「では、これで失礼します。」

俺とトーマスは停戦協定書を持ち、自身の軍に戻った。



「ヤマト国王陛下、なぜ一週間だけ戦ったにですか?全くの無駄に終わりましたよ。今回は激しい戦いにならなかったからよかったですが、コーク国が本気で攻めてきたら我が国は相当な損害を受けたはずです。」

将軍は少し怒っている様子だ。


そりゃそうか、将軍から見れば、結局相手の要求を受けただけにしか見えないか。


「今回の戦争は死者は出ないように俺がコーク国と秘密交渉しておいた。

こちらが攻撃しない限り、コーク軍は死者を出すような激しい攻撃はしないという約束を俺が取り付けておいた。あと、戦争は一週間だけにしようと。まあ、戦争というよりは戦争もどきだがな。両国の戦死者が0人とは戦争とは言えないだろう。」

こんなのただの出来レースだ。

だが、俺が描いた出来レースだ。


「なっ、私は聞いておりませんぞ!!そのようなことをしていたことは!!」


「しょうがないだろ。この策が漏れたら終わりだから、俺と『レディ』の一部の人員しか知らない。」


「その策といったい何なのですか?」

将軍が聞いてくる。


「それはな、今回の戦争を裏で仕掛けた商人Aに損害を与えるためだよ。今回の戦争のせいでコーク国の物価はめちゃくちゃ上がっている。これはコーク政府が戦争のために買い占めたのではなく、コークの商人Aが物資の買い占めを行ったことが原因だ。コーク政府は戦争は一週間で終わることを知っているから買い占めをしていない。あと『レディ』にコークで戦争が激しいという噂を流させた」


今回の戦争の裏にいる商人は大量の物資を買い占めた。

見事に俺の罠にかかった。


「コークの商人は戦争が始まると思い、大量に物資を買い占めた。だが、戦争は両国はほぼ物資を消耗せずに停戦協定を結んだ。商人は大量の物資を誰に売れる?

そう、物資を買い取る奴なんていないのだ。商人は大量の不良在庫を抱えることになる。食料なら、すぐに腐ってしまうし、武器なら長期間を保管できる倉庫を借りないといけない。あの商人は俺たちが育てた産業に手を出す余裕なんてなくなる。」


そう俺の策のターゲットは最初から例の商人Aであった。

関税を撤廃したくなかったのも、例の商人が制作している商品が我が国に入ってくるのを防ぐためだ。


つまり、例の商人Aが商品を作ることさえなければ何も問題ない。



俺の策はコーク政府にとっても別に損がない取引なので乗ってきた。

『レディ』が得た情報ではむしろ、コーク政府にとって例の商人は力をつけすぎているから邪魔だった。


今回のコーク国の要求も商人Aの力が強すぎるためにコーク政府も商人Aの言うことを聞かなくてはいけなかった。

なので、俺の商人Aをはめる策に乗ってきた。


今回は割とうまくいったな。

これで誰も死ぬことなく、戦争を回避して、我が国の産業も守ることができた。

これで一件落着か。

はあ、めっちゃ疲れた。精神的にキツすぎるよな。

一歩間違えれば、商人Aが無傷のままうちの産業に乗り込んできたかもしれないしな。

はあ、弱小国はキツすぎるぜ。なんでこんな危険な策しか使えないんだよ。



俺の説明を聞いた将軍は終始驚いていた。

「ヤマト国王陛下、素晴らしい手腕でございます。私めは始めからヤマト国王陛下がなさることに間違いはないと思っておりました。」


こいつ……。手のひら返しがはやいな。

まあ、我が大和国の使える数少ない人材の一人だから許してやるけど。


俺は停戦協定を結んだことで役割を終えたのでリサと一緒に王城に戻った。




「おい!!!!、どういうことだ」

余裕をなくした商人Aが怒鳴り散らかす。


「あの、えっと、先ほどコーク国と大和国が停戦協定を結び、戦争が停戦しました。」

「だから、それがどういうことかと聞いているのだ!!!!!!」

商人Aは現実を受け止めることができない。

おかしいのだ。これはおかしいのだ。


「おい、今すぐ物資の買い占めをやめさせろ!!いいな、今すぐだ!!」


「はっ、はい!!!!」

部下は急いで部屋を出ていった。


「くそ、くそ、くそーー!!買い占めた物資はどうすればいいのだ?ああ、もうどうすれば!!」

商人Aは怒鳴り散らす。

「なぜだ、戦争は激しく、長期化しそうではなかったのか?」

商人Aは見誤った。戦争のいくすえを。

商人Aが手に入れた情報のほとんどは『レディ』から流された情報であった。


「くそーー!!これでは、あの国の産業を乗っ取る計画が水の泡ではないか!!資金が絶対に足りなくなる。くそーー!!買い占めによる損害が痛すぎる。」


商人Aのそれからの人生は今回の損害を補うだけの人生となった。





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弱小国の王様は生き延びたい 農民侍 @nomin70

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