第2話ヤマトは策を練る

「ヤマト様、コーク国の物価はほんの少しだけ上がっておりましたが、特に誰も買い占めをおこなってはいませんでした。」

リサが俺に報告してきた。


我が国は弱小だが、異様にスパイ機関は強い。

いや、弱小だからこそ他国の情報を知っておかないと、すぐに国が滅びてしまう。

なので、スパイ人材の育成には大和国は伝統的に力を入れてきた。

スパイ人材だけは一流なのだ。


そこまで物価が上がっていないのなら、コーク国の上層部と商人は戦争は起こらないと見ているのだろう。


戦争が起こると思えば、商人と軍は物資を買い占める。

その買い占めによって供給量が減り、物価がめっちゃ上がる。

ほんと信じられないくらい上がる。下手をしたら100倍以上になることがある。


そこまで物価が上がっていないのなら、コーク国の軍と商人による物資の買い占めが行われていないのだろう。


やっぱり、宣戦布告して我が国を脅して、戦争はせずに要求を飲ませる予定なのだろう。


めちゃくちゃ、我が国大和はコーク国に舐められているな。

お前の国は弱小だから戦争なんてできないだろう、俺たちの言うこと聞くしかないだろう、とコーク国の上層部と商人Aは思っているのだろう。


悔しいが我が国、大和国は弱小であることは事実であり、俺も関税を下げるもしくは撤廃して戦争を回避しようと考えている。

だって、戦っても勝てる見込みないし。


「ヤマト様、やはり今回の宣戦布告の裏にいるのは商人Aでした。商人Aは大和国が関税をかけている商品を作っております。この商品を大和国でも売りたいのでしょう」

やはり、商人Aが仕掛けてきたのか。


「はあ、ほんと最悪だな。わざわざ、国のお金まで突っ込んで産業を育ててきたのになぁー。関税を下げるか撤廃してしまうと、今回仕掛けてきた商人が我が国で荒稼ぎするのか〜」

どうにかできないのか?

産業は絶対につぶしたくないんだよな。


だが、何も思いつかない。くそー、本当に弱小国は辛いぜ。

搾取されるだけだ。


我が国の産業はつぶしたくないけど、戦争をして損害を受けたくない。

う~ん、どうしようかな?

あっ、そうか一つだけあるな。

我が国の産業をつぶさずに、戦争による損害を回避する方法が。


「リサ、紙を持ってきてくれ。外交用の紙だ」

「はっ」

リサから紙を受け取ると俺は急いで書き始める。


「よし、これでいいか。リサこの文書をコーク国の上層部に届けてくれ」

「はっ」


さて、どうなるかな?



リサに文書をコーク国の上層部に届けるように言ってから3日が経った。

「ヤマト様、コーク国の上層部は文書に書いてあることを受けると言っておりました。」


「よくやってくれた、リサ!!」

どうやら、俺の予想した通りだったらしいな。

これで俺の策はうまくいく。


「お褒めの言葉をいただきありがとうございます。」


「よし、宰相、将軍を会議室に集めろ。我が国の対応を伝える。」


「はっ、呼んで参ります」

リサは宰相と将軍を呼びに行った。



将軍と宰相が会議室にやってきた。


「今回の宣戦布告に対する対応を伝える」

宰相と将軍が少し緊張した顔になった。


「我が国、大和国はコーク国の要求を受けずに交戦することにした。ただし、こちらから攻撃をするな。はじめの一週間はただひたすら耐えるのだ、コーク国の兵士が疲弊するのを待つのだ。よいか、将軍決して攻撃をしないように兵士に伝えておけ。では、3日後のコーク国の侵攻に備えろ。よいな。」


「お、お待ちください!国王陛下!!交戦すれば我が軍は負ける可能性が高いです。どうか、どうか、ご再考ください!!」

将軍が焦った表情をしながら言ってきた。


「うるさいぞ、将軍。これはもう決まったことだ。お前は俺の言うことに大人しく従っておけ。」


「しかし、……」


「しつこい、もう会議は終わりだ。戦争に備えよ」


「わかりました……。戦争の準備をしておきます」

将軍は納得はしていないだろうが俺の命令ならば実行しなければいけない。

まあ、悪いな、将軍、宰相。

どこに他国の目があるか分からんからお前らには本当の策を教えられんわ。

すまんな。





「何!!、それは確かな情報なのか!!」

装飾品をこれでもかと着飾った小太りの男がそう言った。

この小太りの男こそ、今回の戦争を仕掛けた商人Aである。


「はい、大和国がコーク国と交戦するそうです」

「くっ、くっ、くっ。チャンスだ、これはチャンスだぞ!!!」


やはり、わしは運がいい。

この商会を一人で起こし、ここまで大きくできたのはもちろん自分の実力もあるがこの恵まれた運によるおかげでもある。


「おい、お前たち。今すぐコーク国内の食料、武器など戦争で使用されると考えられるものを買い占めろ」

「はっ、予算はどのくらいでしょうか?」

「予算は考えるな買えるだけ買い占めろ」

「はっ」


ほんとにわしはついておる。

大和国とコーク国が戦争をするとなると食料や武器が両国に多額で売れる。

わしは、大和国とコーク国、両国と取引をするつもりだ。


「大和国には物資を多めに売るか。そうすることであの弱小国の大和でもコーク国との戦争を長期化できるだろう。戦争が長期化されれば、物資を消耗した両国が物資をまた多額で買ってくれる。最高だのぅ。これでまた、わしの商会は大きくなるの。大和国の王が馬鹿で助かったわい。勝てもしない戦争をするとは。まあ、あの産業をつぶしたくない気持ちはわからんでもないがの。ガハハハッーー」


商人にとって戦争はただのビジネスである。





コーク国が侵攻してくる日になった。


コーク国の物価がめっちゃ上がっている。

大和国がコーク国と交戦することが決定したことがコーク国の商人Aが知ったようだ。

それを知った商人がコーク国内で物資を大量に慌てて買い占めたらしい。

商人Aはこの戦争で一儲けしようとしている。

はあ、ほんとに商人というものは戦争を一つのビジネスとしか考えてのか。

人の命がかかっているのになぁ。



俺と将軍は戦地になる予定のマルタ地方にいた。


コーク国の軍と大和国の軍が向かいあっている。


コーク国の軍の方から聞こえてきた。

「大和国は不当な関税を我が国の商品にかけている。関税を見直さなければ、このまま我が軍は貴国に侵攻する。返答は如何に?」


「大和国は不当な関税はかけておらず、関税は国家に認められた権利である。我が大和国に正義がある。我が国はコーク国の要求は受けない」

将軍がコーク軍に返答を返した。


「よかろう、では戦争でどちらが正義か決めようではないか。コーク国軍、攻撃を始めよ。」


戦争が始まった。

戦争に正義なんてない。利益があるから戦争をするだけだ。ただそれだけだ。


俺たちはマルタ砦に閉じこもる。


マルタ地方にコーク国が侵攻するにはこのマルタ砦を通るか山を登るしかない。

山は険しく、重い荷物を運ぶことが難しい。

そのため、コーク国はこのマルタ砦を通ろうとする。


我が軍はマルタ砦にこもり、コーク軍を退けさせるよう頑張る。


コーク国は激しくは攻めてこない。

マルタ砦は堅牢であり、持久戦になる。




〜〜〜戦争開始から3日目〜〜〜


まだ、我が国の軍には死者は出ていない。

コーク軍の攻撃が全く激しくなく、こっちの物資がなくなるのを待っているようだ。


また、コーク軍の死者も出ていない。

こちらは一切攻撃せずに防御しているだけだから、死者が出るはずはない。


「ヤマト国王陛下、コーク軍の攻撃はしょぼいです。こちらから攻めに行きませんか?今なら、コーク軍に損害を与えられます。」

将軍が俺に言ってくる。


「ならん、あらかじめ決めていたように一週間は攻撃をするな。誘いの隙かもしれんだろ、絶対に攻撃をするなよ」


「……、わかりました。しかし、一週間たったら攻撃に転じます。よろしいですか?」

「ああ、いいぞ、一週間たったらな」

将軍はこの好機を逃したくないのだろう。


ここで攻撃してしまうと俺の策が失敗してしまうので将軍には諦めてもらう。

すまんな。


リサの報告によると実際に戦争が始まったことでこの戦争の裏にいる商人Aがさらに物資を買い占めているらしく、コーク国の物価が上がり続けている。


本当によく深いよな、商人というやつは。

この商人だけは野放しにできないな。

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