弱小国の王様は生き延びたい
農民侍
第1話 宣戦布告
王城の会議室に中年男性の叫び声が響き渡る。
「はあ、はあ、大変です!大変ですーー!ヤマト国王陛下!!!!」
隣国のコーク国と接しているマルタ地方を任せているアルフレッド男爵が慌てた様子で国王である俺に言ってきた。
王城で大きい声出すなよ。
他国のスパイが潜り込んでいるかもしれないから、慎重にしゃべれよ。
「落ち着いてください。アルフレッド男爵、なにがあったのですか?」
俺の右腕である美しい黒髪をもつリサがアルフレッド男爵にそう尋ねた。
リサぐらいの落ち着きをこの男爵にも持ってもらいたいね。ほんとにね。
「はあ、はあ、隣国であるコーク国が、私に使者を送ってきました!!その使者から10日後に我が国、大和に侵攻すると書かれた文書を渡されました!!」
アルフレッド男爵が息を切らせながらそう言った。
ふーん・・・、まじか!!!
俺の周りにいる宰相や将軍など大和国のトップの人間が動揺を見せる。
隣国であるコーク国が我が国に対して宣戦布告をしたのだ。
ざわざわ、ざわざわ、ざわざわ。
「皆のもの静かにしろ。アルフレッド男爵、コーク国からの渡された文書を見せろ」
俺は内心では大変驚いたが、態度にはいっさい出さないでクールに、そうクールに言ってやった。
この国のトップになる人間にはこれぐらいの芸当できてくれよ。
俺とリサ以外の部屋にいる人間全員驚いた態度を前面に出しやがる。
これだからうちは弱小国なんだよ!!
「(ぼそっ)ヤマト様、声が上ずっておられますし動きが少しぎこちないです」
リサがそっと俺に耳打ちした。
俺もダメでしたwww。
よし、皆で頑張ろうな!切り替えていこう!
てか、そんなことよりリサのいい匂いが気になってしゃあないなぁ。リサが耳打ちしてきたときに香った。
今日はフローラル系なのね!!
最高ですね!!
「はい、ヤマト国王陛下、こちらがコーク国の使者から渡された文書でございます。ご確認お願い致します。」
アルフレッド男爵が俺に文書を渡してきた。
どれどれ、俺は文書に目を通した。
「うむ、たしかにコーク国が我が国に侵攻すると明言されているな。この文書の日付を確認したところあと8日後にコーク国が侵攻してくるな。」
ざわざわ、ざわざわ。
俺の言葉を聞いたものたちが落ち着きをなくし、動揺している。
はあ、お前ら国のトップが動揺するなよ、もしくは動揺したとしても態度に出すなよ。
「宣戦布告の理由は我が国がコーク国の商品に対してかけている関税が不当であるためとされているな。関税を撤廃するのならば戦争はしないと、なるほどなぁ。」
おそらく、コーク国の商人がコーク国のトップをそそのかしてこの宣戦布告が行われたのだろう。
我が国の情報機関(スパイ機関)『レディ』からコーク国のある商人がコーク国の王室や貴族に急接近しているという情報は既に入っている。
ちなみに、リサも情報機関『レディ』に所属している。
おそらくこの商人、商人Aとするか。
商人Aがこの戦争を引き起こそうとしているのだろうな。
大方、商人Aが金もしくは領土をちらつかせたのだろう。
まあ、女かもしれないが…………。
強欲な奴らだ。
あいつらはいくら手に入れようともその強欲は無くなることがない。
はあ、ほんと面倒だな。マジ、テン下げだわ。
さて、どうする。
関税をなくせば戦争は回避できそうだが、そのかわり我が国、大和の産業が育たない。
まあ、まず考えるのは戦争を回避することだな。
今回は防衛戦であり、勝っても領土が増えるわけではない。
つまり、戦争に勝利してもメリットがほとんどない。
戦争をしたら、戦争で死亡もしくは負傷した兵士の家族や本人に国王である俺が恨まれるし、商人は戦争中に儲けてさらに力をつける。
絶対に戦争したくねぇ。
だが、関税も撤廃したくない。
関税を撤廃すれば産業も育たないし、自国の職人に恨まれる。
てか、今回の産業は絶対につぶせない。
国の税金を突っ込んで作り上げ、今まさに成長中の産業だ。
戦争をした場合、負けても勝っても俺に旨味がないし、最悪の場合、俺は殺される。
「ヤマト国王陛下、いかがなさりますか?」
宰相が聞いてくる。
おいおいおい、お前は宰相ですよね?
国の政策とか考える重要な役職についてるよね?
宰相がまず案を出すべきだと思いま~す!
賛成の人ー、手上げてー。
とまあ、内心で思いながら俺からしゃべった。
「我が国とコーク国の国境線沿いに軍を展開しておけ。将軍、どれぐらいの日数でできる?」
「はっ、5日もあれば展開できます。」
「よし、コーク国が侵攻してくる前には軍を展開できるな。あとマルタ地方の民の避難をさせておけ。では今日の会議は終わりにする。質問があるものはいるか?」
誰も手を上げなかった。
誰も責任を取りたくないのだ。
「質問がないようだな。ならこれで今日の会議は終了する。」
会議室に集まっていた宰相、将軍、アルフレッド男爵は会議室を出た。
俺は隣で控えていたリサに命令した。
「リサ、コーク国の物価を今すぐ調べろ」
「了解しました」
リサはそういうとすぐに会議室から出て行った。
リサは奴隷として売られていたところを俺が購入した。
俺の専属の信用できる部下を持つために購入した。
決して顔が好みだったからではない。断じて違うよ。
リサは俺に購入されてからは、『レディ』の局長であるアンに鍛えてもらった。
アンに鍛えられたリサは、今では我が国のスパイ機関『レディ』の幹部だ。
『レディ』は女性だけで構成されたスパイ機関で俺の直属の部隊だ。
かわいい子しかいないけど、これはスパイ組織だから美人局的なことをするからだからね、俺がかわいい子で構成された直属の部隊が欲しいからじゃないよ。
勘違いしないでよね!
俺はリサに命令をして王城にある自室に戻った。
自室には俺以外誰もいない。
「くそー!!!!戦争なんて仕掛けて来んなよ!!!!
死にたくね〜〜〜!!!!」
俺は叫んだ。
俺の自室は防音加工がしてあるので外には俺の叫び声が届かない。
俺はこの大和国の王家の次男に転生した。
前世はただの日本のサラリーマンだった。
気づいたら、この世界に転生していた。
王家に生まれたが次男だったので、王位を継ぐ予定はなかった。
兄が初陣で死んでしまい、兄の死のショックで病気がちだった父の体調が悪くなり、兄の死後しばらくして父は病死した。
このため、俺に王位が転がり込んできた。
王位なんて継ぎたくない。
だって、他国が俺の首を取りにくるもん。
王位を継がずに適当な年金付きの名誉職貰って遊ぶという俺の人生設計がズタズタだ。
我が国、大和国は正直にいうと弱小国だ。
他国によく宣戦布告される。
大和国は戦争しても勝てないので相手国の要求を飲んで戦争を回避する。
まあ、相手国の要求を全面的に飲むわけではないが、我が国にメリットがない要求を飲まないといけない。
相手国も戦争をしたいわけではない。
戦争をすれば兵士や物資を消耗する。
国王は兵士や物資を消耗せずに利益を得られるのならば戦争はせずに和解することが多いが、商人が仕掛けた戦争は別だ。
商人は戦争で物資を消費してくれるから儲かる。
商人は戦争中の両国に買い占めた物資を高額な値段で売り払う。
戦争に負けたくない両国は商人の言い値で物資を買わざるを得ない。
そして、物資が両国の軍に供給され、軍が物資を得たことで長期間戦争できるようになり、さらに戦争が長引く。
そして、戦争が長引けば長引くほど商人は物資を売り続け、儲かる。
つまり、国王よりも商人の方が戦争を起こしたくて仕方ないし、戦争を長期間続けようと仕掛けてくる。
こわいよな、人間の欲望は。
「いやだ〜!関税を撤廃するしかないのか?でも、やっと最近になって我が国の産業が育ってきているところなのに。てか、産業が育ってきたのを見て宣戦布告してきたのか?くそ、今回の宣戦布告には絶対にコーク国の商人Aが関わっているだろ!」
コーク国との戦争は避けたい。
コーク国の軍は我が国の軍よりも強い。
基本的には守る側が有利である防衛戦であってもコーク国と我が軍の戦力の差は埋まらないだろう。
はあ、なんでこんな弱小国に転生してしまったのだ。
俺は絶対に死にたくない。
なんとしてでも生き残ってやる、この異世
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