「最期の罪と恋」
罪を犯した
この世ではとても重い罪
『人殺し』
男は投獄され、牢獄にて断罪の日を待つ
祈りはしない
救いも求めない
俺は神を信じてなどいない
溜息を吐く
牢獄の中は冷え切っており、白い息が空中を舞い、露散する
牢獄の中にある物は冷たい床に一枚の布が敷かれているだけ
それ以外には何もない
牢獄の扉の外から足音が複数聞こえる
その足音は俺の牢獄の前で止まる
扉の鍵を開ける音
そして開かれる扉
「入れ、ここが今日からお前の部屋だ」
俺は視線だけを向ける
部屋に入ってきたのはドレスを着た女
誰が見ても貴族だと気づくだろう
「同居人と仲良くするんだな」
「ええ、ありがとうございます」
ドレスの裾を持ち上げ、礼をする
その動作だけでも何千回と練習してきたのだろう
気品を感じられる
ガチャンと扉が閉められる
貴族の女は座り込んでいる俺の前に立つ
「
「挨拶はいらない、俺の事は放っておいてくれ」
「でも兵士さんが同居人とは仲良く...と」
「そんな言葉を一々鵜呑みにするな」
「貴方はどんな罪でここに居るのかしら?」
「放っておけと言ったはずだが」
「放っておけませんわ、私はそういう性格ですの」
「はぁ...人殺しだ」
「あら!奇遇ですわ、私も貴方と同じ人殺しですのよ」
「へぇ、貴族なのに珍しいな、何人殺したんだ?」
「...答えてもいいですが、まずは貴方から教えてくれませんか?」
「この国の兵士を二人だ」
「経緯をお聞きしても?」
「くだらない話だ、民を守る役目である者が民を脅し、犯し、殺していた
その主犯格をムカついたから殺した」
「そうでしたの...」
「驚いたか?」
「ええ、驚きましたわ、とても」
「だって......」
「私も同じ理由でムカついたからこの国に戦争を仕掛けて
三千人殺したんですの」
「...はぁ?嘘だろ?」
「本当ですわ、この国に戦争を仕掛けて、戦って、負けて、捕まって
ここに投獄された、私こそ生きた証人ですわ」
「あんたとんでもねぇ奴だな、俺がちっぽけに見えてくるよ」
「いいえ!貴方は素晴らしいですわ、悪人を二人も殺したのですから」
「...あんた相当狂ってるな?」
「お褒めの言葉ありがとうございます」
「いや褒めてないんだが...」
「私、貴方にますます興味が沸いてきましたわ!」
「俺はあんたから逃げたい気持ちで一杯だ」
言葉を交わす時が止まり
お互いの視線が交差する
笑いが二つ、狭い部屋に響き渡る
「まぁこれから仲良くやろうじゃねぇか、【お姫様】」
「ええ、よろしくお願いしますわ、【王子様】」
握手を交わす
それから何日も何日も言葉を紡いだ
お互いの生きたこれまでを
喧嘩もした、慰めあいもした
話せば話すほど俺(私)は惹かれていった
だがそんな時間にも終わりは来る
どんなものにも永遠は無いように、【最期】は平等に与えられる
それが【罪人】でも―――
月の光が牢獄の窓から差し込み、一段と冷える夜
足音が一つ、とある牢獄の前で止まる
「明日、国家に仇なした大罪人であるお前を処刑する、今日が最後の夜だ」
終わりを告げられる
「ええ、分かりましたわ、わざわざこんな夜更けにありがとうございます」
足音が遠ざく
「...怖くないのか?」
「怖いですわ...貴方とこうしてお話をするのも終わりだと思うと」
「それは光栄なことだが、俺が聞きたいのは処刑され死ぬ事だ」
「いえ全く怖くないですわ、強がりではないですわよ?」
「なんで怖くないんだ?正直言うなら俺は怖い」
「...いつしか人は死ぬ、それだけですわ、それが未来であろうと今であろうと
変わりませんわ」
「それに貴方も後から来てくれるでしょう?」
「あの世でもあんたの相手を?勘弁してくれよ、あの世でくらい一人にしてくれ」
「初めて会ったとき私は言いましたわ...放っておけない性格ですの、と」
「...ははっ、そうだったな、あんたはそういう奴だったな」
「ふふっ、そうですわよ、ようやく理解したんですのね」
「ならそうだな...あいにく酒はないが...」
男は最低限の水が入っている器を手に持つ
「乾杯しよう、あんたの最後に」
女も同じく器を持つ
「ええ、私もいつか来る貴方の最後に」
「「乾杯!」」
最後と分かっていようとも、二人は相も変わらず話し続ける
夜が明け、朝日が昇る
牢獄の扉が開かれる
「時間だ、来い」
「あら?もうそんな時間なのね、最後の晩餐は無いのかしら?」
「お前のような大罪人にあるわけがないだろう、早くしろ!」
「そう...じゃあお別れね」
「あぁ、またな、あの世で会おう」
「ええ、先に待ってるわ」
女は立ち上がり、裾を持ち上げ、最期の別れの礼をする
こんな別れでいいのか?
男は己に問う
最後...最後の【恋】なんだ
それを告げるくらい、いいじゃないか
男は立ち上がり
「......なぁ、待ってくれ」
連れて行こうとする兵士たちに声を掛ける
「なんだ?時間がないと言っているのだ、それ以上喋るなら次にお前を処刑するぞ!」
「それでいいよ、だから待ってくれ...」
「同居人との別れだもの、少しくらい、良いでしょう?」
「...ちっ、早くしろ」
「ありがとう」
最後にする事はもう決まっている
【王子】は【姫】の前まで近づき、屈む
手を持ち、甲に口づけをする
「行ってらっしゃいませ、我が【愛しき】姫君よ」
「ふふっ...随分様になってるけどまだまだね、でも...」
姫は王子に口づけをする
「最高に格好良かったわ」
二人の最期の恋物語はこれにて閉幕
夜を行く者よ 炒飯麻婆 @FriedRice_Mapo
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