夜を行く者よ
炒飯麻婆
「婚礼」
男は夜の街で商売をしていた
夜の商売とは?と
疑問に思うだろう
売春? 違う
宿屋? それも違う
酒屋? 全く違う
ならその男の商売はなんだ?
「アクセサリー屋」だ
男は退屈していた
誰も客が来ないからだ
大きく口を開けあくびをする
「このままじゃ大赤字だ」
そう呟く
夜更けも深まり時刻は
丑三つ時
そろそろ店を閉じようと思って
男は立ち上がる
その時、入店を知らせる
小さな鐘の音が店内に響く
「ごめんください」
綺麗で澄み切った声が店内に木霊する
その声の主は女性だった
「いらっしゃい、と言いたいところなんだけどね
もう店を閉じるところなんだ、悪いけど帰ってくれるかな?」
さっきまで退屈していて文句を垂れていた時とは完全に矛盾していた
「あら?そうなのね、残念...」
とその女性は悲しげな顔をする
「そういう顔をされると困ってしまうなぁ、まぁ仕方ない
今回は特別だ、どんなのをお探しで?」
「本当!嬉しい、私この時間ぐらいしか自由な時間が無いから
普通のお店は大体閉まっちゃって入れないの」
「へぇそうなんですか。それじゃ随分と珍しいお方ですね」
「それで...ここは何を売っているのかしら?」
「なんでも...と言いたいところですが、残念ながらうちは
しがないアクセサリー屋でさぁ」
「アクセサリー屋...こんな夜に?」
「ははっ、そうですよ、こんな夜だからこそいいんですよ」
「変わっているのね、普通の客は来ないでしょ?」
「ええ、来ませんね」
「商売にならないでしょ?」
「ええ、なりませんね」
「ふふっ...面白いわね貴方」
「そうですかね?」
「ええ、とてもとても可笑しくて笑ってしまうほどにはね」
「まぁこれでも成り立つときは成り立つんですよ」
「へぇ...私以外はどんな人が来るのかしら?」
「それは...商品を買ってくれれば教えて差し上げますよ
こっちも商売人ですから」
「そうね確かに、貴方の言うとおりだわ、それで...私に似合うアクセサリーはあるかしら?」
「ええきっとありますよ、ですが私からはおすすめなどは致しません」
「なぜなのか聞いていいかしら?」
「その人が一番似合うと思うものは人から勧められて着けるものではありません」
「その着ける本人がこれが良いと思ったものこそ最高の物になるのです」
「ですから私はこの事をこう呼んでいます」
「婚礼の儀式、と」
「婚礼...」
「ええそうです、そのアクセサリーを気に入る、ということはつまり【恋】」
「そしてそれを身に着けるということは【結婚】ということ」
「なるほど...」
「そしてそのアクセサリーに飽きて、別の物を身に着けるようになるかもしれません、それはつまり【浮気】」
「そして外した物はいずれ失くしたり、売り払ったり、あるいは誰かに盗まれたりします」
「これはつまり【離婚】、あるいは【別離】ともいいます」
「ね?これはだから婚礼の儀式なのですよ」
「結婚相手を知らない誰かがいきなり連れてきて納得しますか?」
「しないわね」
「そうでしょ?自分が真に好きになった人と結婚したい
それが本来の在り方なのです」
「つまりこれはアクセサリーにも同じことが言えるという訳です」
「...凄いわね、そう思うと確かに自分で選んだ方が良い気がするわ」
「お分かり頂けてなによりです、では...良き【フィアンセ】が見つかるよう祈っております」
「ええ!私に似合う最高の【王子様】を【私】が見つけるわ」
「ではごゆっくりどうぞ、まだ夜明けにはお時間がありますので」
「こんな月夜だからこそ、運命の相手を見つけるにはピッタリなのですよ」
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