第5話 あなただけを見つめてる
「私さ、やっぱりアイドル好きなんだ。お金の心配なくなったからさ、本業に集中できるかなって。お姉さん、ありがとう!」
この子の本心が聞けた気がした。
屈託のない笑顔が間近で見れて、さっきからずっとドキドキしっぱなしだ。
「お金支援してもらっているからさ。今から、サービスで一曲披露するよ」
立ち上がろうとするので、やめてもらうように制した。
「近所迷惑とかあるから、ちょっとそれはやめて欲しい」
「ん? そしたら風呂場とかならいいか?」
お風呂という単語で、昨日のことを思い出して少しドキッとした。
「いや、そういうのじゃなくて」
「何赤くなってんの? そういうの興味あるなら言ってくれれば答えるのに」
彼女は、いそいそと靴下を脱ぎ始めた。
「ダメ! そういうのじゃない! アイドルして!」
予想通りの反応が返ってきたと、いたずらっぽく彼女は笑った。
「そういえばさ、お姉さんの名前覚えてないや。 自己紹介してよ。まずは私から。私の名前はヒマリ」
「あれ、名前違くない?」
「こっちが本名。全部さらけ出して、裸の付き合いってやつだよ。……お姉さん、また赤くなって。今日もする?」
「何を」
「わかっているでしょ」
そんな他愛もないやりとりをしながら、ビールを飲んで互いに腹を割って話をした。
◇
「私が稼ぎ始めたらさ、スミレさん買うからね。それで、私の言いなりにするから」
酔った勢いでヒマリは語り始めた。
「大変そうな仕事なんてやめさせて、人間関係のしがらみも取って。ずっと私のそばに置いておくから」
女同士なのに、さっきからずっとドキドキさせられてる。
この子は何を言い出してるんだろう。
「女同士でも、そういう家庭もあるし。スミレさんが専業主婦ね。私は兼業主婦で」
「ちょっと、バカなこと言ってないで」
「それまではいうこと開くから。好きにしていいって言われたし」
「そういうことじゃな――」
急に唇を塞がれた。
暖かい唇。
冷たいビールを飲んでいたはずなのに。
冷えた心が温まるのを感じた。
今までの話が冗談じゃないっていうのが、触れた唇から伝わってきた。
ゆっくりと唇が離されていく。
それでも、暖かい温もりはそのまま私の唇に残っていた。
「私が、ずっとそばにいるよ」
ヒマリはそう言うと、屈託のない笑顔をこちらに向けてきた。
ライブ会場で見る笑顔がそこにあった。
「これからも、よろしくお願いします!」
あなただけを見つめてる 米太郎 @tahoshi
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