ごめんね、私、寝取られちゃった……。

青猫

ごめんね、私、寝取られちゃった……。

私は駆ける。兎に角駆ける。

昔、メロスは衝撃波を発生させているとか本で読んだが、私はその何十倍も速く走ったと思う。

目的地に着くと、私は息を整えた。


私は焦る気持ちを抑えつつ、病院へと入る。



蓮の病室に入ると、蓮の家族がベッドの周りで蓮を見つめていた。

私も蓮の元に駆け寄る。

蓮は白雪姫のように安らかに眠っていた。


「頭を打ったようですが、幸い、命に別状はありません。このまま、しばらくすれば、目が覚めるでしょう」


そうお医者さんは告げる。


「蓮……」


蓮のお母さんはじっと蓮を見つめている。

すると、


「うん……?」


と、蓮はゆっくりと目を開けた。


「蓮!?大丈夫!?」


私は蓮のすぐそばに行って手を握った。

他の皆も、じっと蓮の事を見ている。

やがて、蓮は口を開いた。


「ウェイ?花じゃん!いったいどうしたの?」


……はい?




——蓮とはずっと昔から一緒に育ってきた幼馴染だ。

はじめて友達になったのも蓮だし、学校もずっと一緒、習い事もまぁ、大体は一緒だったし、なんなら初めての恋人も蓮だ。


『……僕が、花ちゃんを守るからね』


幼稚園の頃、そう、弱弱しく宣言した蓮。

でも、蓮はあまり自己主張の強い人間じゃなかった。

だから、小学校とかでもいじめの標的になったりして、そのたびに私が守ってきた。


『もう!!蓮に手を出すやつは、私が許さないから!』


そのたびに蓮は申し訳なさそうに、でも少し笑って『ありがとう』と言ってくれるのだ。

その笑顔が、何よりうれしかったし、この笑顔を守るために、私が頑張らなきゃと思った。


高校に入ってからも、蓮はあまり友達を作れず、昼は一人で食べるか、私と食べるかだ。


「いつもごめんね、花ちゃん」

「いいよ、気にしないで」


私は、容姿がいい方らしく、蓮がいるのに私に告白してきたりする人たちもいた。

まぁ、そんな輩は全く持って願い下げなんだけど。


いつも自信無さげで、おどおどしているけど、私はそんな蓮の事が好きだったんだ。


なのに……。




「検査では、何の問題も出ていません。おそらくは一時的な物でしょう」

「そんな、本当に異常はないんですか!?」

「母さん、そんなこと言うなんて、ひどいなぁ~!」


少なくとも、蓮はこんなノリの軽い性格ではなかった。

どう考えても頭を打っておかしくなったに違いない、皆そう思っていた。

そんな風に困り果ててる私たちに、お医者さんは冷酷に告げた。


「まぁ、記憶等にも支障はなく、こちらとしてはもうできる処置が無いので、晴れて退院ですね」

「え、俺、退院するの!?やった~!花、デートしよ!」

「……」



一時的な物だってお医者さんは言ってたし、そのうち、元の蓮に戻ってくれるはず。

そう思って、我慢することにした。





——そして、数日が経過した。

蓮は変わってしまった。


私と蓮の家は隣同士なので学校に行くタイミングが一緒なのだが、その時にいつも何かしら私の事をほめてくる。


「え?花、髪型変えた?可愛いね~!」

「あ、そのアクセサリー、俺が前にあげたやつじゃん!使ってくれてるの!?うれし~!」

「花、かわいいね、好きだよ~!」


……前の蓮は、そんな事、一言も言ってくれなかった。

正直お世辞だと思ってる。

だから私はそんな蓮の事をスルーして学校に向かう。


そして、学校。

蓮は、頭を打ってからの学校初日で、あっという間にクラスの皆と仲良くなってしまった。

なんていうか、会話の始点を見つけるのが上手で、会話を一気に膨らませるらしい。

……私は、蓮とそこまで会話をしなくなった。

何というか、受け入れられなかったからだ。


「ねぇ、花、今日も可愛いね」とか、「花、一緒にご飯食べよ~」とか、

向こうが一方的に話しかけてくるだけ。

今の私と蓮の関係はそんなものだ。



今の蓮は、正直、チャラくなったと思う。

何というか、軽い。

たまに聞こえてくる会話には「可愛いね~!」とか「いいじゃん、似合ってるよ~!」とか、そんな風なものも聞こえる。


……結局、私以外にもそうやって話しているんだ、と思う。

今の蓮は、どうしても受け入れられない。

でも、周りのクラスメイトたちは、今の蓮の周りに集まって、皆でわいわいやっていて……。

なんか、元の蓮が否定されたみたいで少し嫌な気持ちになる。



私は、ここ最近、夢を見るようになった。

頭を打つ前の蓮と、一緒に過ごす夢だ。


『花ちゃん、大丈夫?元気がないように見えるけど……』

『うん、大丈夫。ちょっとね……』

『……そうなんだ』


そう言って、優しい笑顔を浮かべる蓮。

蓮は、私の手をつなごうとして、それでもおっかなびっくりとして、やめようとする。

私は、その手を掴み、手をつなぐ。


『好きだよ、蓮』

『うん、僕も』


そう言う私に、にっこりと笑う蓮。

そこで、目が覚めるのだ。


そして、朝、蓮が元に戻ってないかを期待し、「花、おっはよ~!今日も可愛いね、愛してる~!」という軽い声にがっかりとしてため息をついてしまうのだ。


早く、蓮がもとに戻ってほしい。

私は切実にそう願った……。




——それからさらに数日。

今日は、退院時、蓮が言っていた、デートの日である。

正直、今の蓮と一緒に歩きたくは無かったが、でも、蓮はしつこく「デートしよー!」と言ってくるので、仕方なくデートをすることにした。



朝。もしかしたら、元に戻ってるかもしれないと期待を込めて、気合を入れてメイクをする。

家は隣同士だったが、待ち合わせをすることにしていた。

これは、私が準備に時間がかかるからというのもあるが、待ち合わせることによって、少しは一緒にいれる時間を短くできるんじゃないかと考えた、私の苦肉の策でもある。


しかし、待ち合わせ時間、私は時間丁度に到着したが、蓮はまだ来ない。

メールを確認すると、『ゴメン!寝坊しちゃった!すぐに行くから待ってて!』と来ている。


私は正直、ふざけるな!と思った。

確かに蓮は、デートの時、いつも寝坊してきたが、それが許せたのは前の蓮だったからだ。

……デートに遅刻するなんて、ひどいやつだ、なんて思ってしまう。




——もうそろそろで蓮が来るだろうと思った時、声を掛けられた。


「ねぇ、お姉ちゃん、一人で暇してるの?」

「よかったらさ、俺たちと一緒に遊ばない?」


……ナンパだ。

私はきっぱりと断る。


「結構です。私、待ち合わせをしてるんで」


……あぁ、待ち合わせ相手が、前の蓮だったら良かったのにな。


「はぁ?冗談はよしてくれよ。お前、三十分もここにいたぞ?どうせ、嘘だろ?」


そう言って、男は私の手を取る。

——つい物思いにふけってしまい、反応が遅れた。

しかし、後悔しても遅かった。


「ほら、俺たちとカラオケに行こうぜ?ちょっとだけ、ちょっとだけ、な?」

「ほんとホント、何もしないからさ~」

「や、やめてください!」


そうは言うものの男の力は強く、このままでは、本当に連れていかれてしまう。

——誰か、助けて!


心の中で、そう叫んだ瞬間、男の腕を誰かがつかんだ。


「おい、花に何しようとしてんだ?」

「い、痛ぁ!?何すんだ!?テメェ……!?」

「花は俺の彼女だ。さっさと行け」

「ひぃっ」


蓮はギロリと男たちを睨む。

男たちは私の手を離すと、すぐさまどこかに行ってしまった。


「花、大丈夫?……ごめんな、俺が遅れたばっかりに……」

「う、うん、いや、別に助けてくれたからいいし……」


私は返答に困ってしまった。

……今の状況、前の蓮だったらどうしてただろうか?

蓮が、私を助けられるだろうか?


「それじゃ、行こうか」


それから、デートは蓮が主導だった。

いつもは私が蓮をあちこちに付き合わせる形なのに。


蓮は私の行きたいところが分かっているかのように動いてくれる。

ちょっと休憩したいと思った時に休憩をはさんでくれるし、

前のデートでは、私が遠慮していけなかったような場所に連れて行ってくれる

凄く楽しい。


ちょっとしたショッピングもした。

服を選ぶとき、前の蓮は尋ねると、いつも、「どっちでも似合うよ」って言ってよくお茶を濁したのに、今の蓮は少し考えた後に「こっちが似合うんじゃない?」って言ってくれる。

……私がいいな、と思った方に。


……正直、楽しかった。

そしてその後は、何事もなく解散した。

なんか、今の蓮は何か事情を付けて、私に手を出してくるかな、とか思ったのに。

そうなったら、引っ叩いてやろう。

そんな風に思っていたのに。


いつもとは、全く違うデートだった。

でも、凄く楽しかった。

……もうちょっと、今の蓮と向き合ってみてもいいんじゃないか。

そう思うようなデートだった。


私はその日、前の蓮とデートする夢を見た。

夢の中で、笑ってついてくる蓮。

……何かが、物足りなかった。



——それから、またしばらくが経過した。

改めて、今の蓮を見ると、色々と気づくことがあった。


まずは、良く気づくことだ。

私が、ちょっと変えるだけで、すぐに気づいて褒めてくれる。

可愛いね、とか似合ってるよ、とか。

だんだんと、そうやって褒められることがうれしくなってきた。


そして、きちんと言葉に出して表現してくれる。

私に、一日一回は、「好きだ!」と言ってくる。



この前、私に告白してきた人たちが蓮に絡んできたことが有った。

なんか、「お前に花はふさわしくない」だとか、「花と別れろ」だとか。

丁度、私が通りがかった時に絡まれていたので、飛び出して、蓮を守らないとって思ったら。

蓮ははっきりと、「花は、俺の彼女だから。お前らにとやかく言われたって、別れる気はない」と言い切っていた。

そう言われるとは思ってなかったのか、その人たちも驚いているうちに、蓮は去ってしまっていた。


——私は少し、複雑な気持ちになった

そう言った直接的な表現は、前の蓮はしてくれなかったからだ。

それに、前の蓮はこんな時、絶対に委縮するか、笑ってやり過ごすかしかしなかった。

それだけに、きちんと「自分の彼女だ」と主張してくれたのは嬉しい……。

——いけない。

私は頬を叩いて、気を引き締める。


私は、前の蓮が好きなのだ。

だから、今の蓮から早く元に戻ってほしい。

そう思っているはずだ。

そのはずだ。

そう自分に言い聞かせる。



最近もまだ、昔の蓮の夢を見る。

でも、私は、どこか、物足りなさを感じていた。


『ねぇ、蓮?私の事好き?』

『うん』


そう言って、笑顔を浮かべる蓮。

——頭にちらつくのは、『好きだ!』と言ってくる今の蓮の笑顔。


そこで目が覚める。


そして私は、いつも頬を思いっきり叩く。

自分の気持ちを見失わないように。





そんな時、事件は再び起こってしまった。

蓮が、また頭を打ったのだ。


私は急いで病院に向かう。

そこには、あの時と全く同じ光景が広がっていた。

私は、蓮の元に駆け寄り、手を握る。


「蓮!」


皆が見守る中、蓮は目を開けた。


「あれ、皆?僕は一体……?」


——僕。

ついに蓮は前の蓮に戻ってしまった。

——戻ってしまった?


私は、自分の血の気が一気に引くのを感じ、蓮の手を放してしまった。


「……花ちゃん?」


まだ、意識がはっきりしていないのか、ぼんやりとした目で私を見る蓮。


「……ごめん」

「花ちゃん……花!?」


私は病室を飛び出した。

そこから、どれくらい走ったのだろうか。

私は、どこかの公園のブランコに、一人座っていた。


——いつからだろうか?

今の蓮を好ましく思うようになっていたのは。

前の蓮の事を、魅力的に思わなくなってしまったのは。

……あの、直情的な『好きだ!』がうれしく感じるようになってしまったのは。

あの時、病室で自分がもとに戻った蓮にショックを受けていることに気づいた。


——あぁ、私はなんて薄情者なんだろう。

私は、蓮に「別れよう」と送って、ぐすぐす泣いた。

こんな気持ちを持って今のまま付き合っていたら、元に戻った蓮に申し訳ない。



——それから、何時間が経っただろう。

日もすっかり傾いてきた。そろそろ帰らないと、皆が心配する。

でも、どんな顔をして、蓮に会えばいいのだろう。


決心もつかないまま、うだうだとしていると、「花ちゃーん!」と呼ぶ声が聞こえた。


「蓮……?」


そうつぶやいたとき、息も荒く駆け寄る音が聞こえた。

見ると、蓮が息も絶え絶えになりながら、そこに立っていた。


「蓮、どうしてここに……?」

「だって、別れるってメールで……、だから急がないとって……。」


そう言いながら、息を整える蓮。

やがて息が整うと、深呼吸をして蓮は問いかけた


「……僕のどこがダメ?ちゃんとなおすから!」


そう言ってくれる蓮。

でも、もう遅いの。


「勝手にごめん……。本当にひどいでしょ……。私、蓮が蓮じゃなかった時の蓮が好きになっちゃったの……。だから、本当にごめん……!こんな気持ちのまま、蓮とは付き合っていられないよ……」


私は正直にそう言う。

しかし、それに対する蓮の返答は思いもよらないものだった。


「待ってよ、それは僕が悪いんだ!本当にごめん!」


……?


「……どういうこと……?」


そう言うと、蓮は至極申し訳なさそうに答える。


「なんか、皆僕、いや俺の事がおかしくなったって言ってたけど、別におかしくなってはいなかったんだ……」

「……え?」




——どうやら、蓮はこの一か月、本で読んだような陽キャになりたくて、そうふるまっていたらしい。


「じゃあ、『俺』って言ってた蓮も、別におかしくなったわけじゃないってこと?」

「……そう。頭打ったって聞いたとき、『これはチャンスだ!』って思って……」

「それで、あんな風になったと?」

「……ちょっと、最初に振り切り過ぎたせいで、完全にやってしまったとは思ったよ!?

でも、今更『冗談でした』なんて言えなくて……」

「じゃあ、さっきのは……?」

「さっきは、目が覚めたときも意識が朦朧としてて……素に戻っちゃったっていうか……」

「そうなんだ……でも、なんで?」


私が疑問に思ったのはそこだ。

蓮にそこまでして自分を変えようと思わせた原因。

人が変わろうとするときには他人からの影響が一番強いらしい。

もしかしたら、好きな人ができたのかもしれない。

そう思うと、いろんな感情で、胸の中がぐちゃぐちゃになる。

蓮に、好きではないと言ってしまった罪悪感。

蓮の好きな人への嫉妬。

でも、私にもう蓮を好きでいる資格はないんじゃないかという意識。


私は蓮の返答を恐る恐る待つ。


「……花ちゃんを守れるような人間になりたかったんだ!」

「……え?」

「花ちゃんはいつも僕を守ってくれたのに、僕は花ちゃんに『好き』の二文字もきちんと言えてなかった。でも、本の中のキャラクターは真っ直ぐに自分の思いを相手に伝えて……。そういう人間になったら、花ちゃんを守れるし、もっと自分に自信が持てると思ったんだ!」


……そうなんだ。

私は、ポロポロと涙を流す。

嬉しいし、申し訳ない。涙が止まらない。


「は、花ちゃん?大丈夫?」


蓮は、私にすっと近づいて、涙をぬぐってくれる。


「……こんな私でいいの?最低だよ、私。蓮じゃない蓮を好きになっちゃったんだよ?」

「俺に、でしょ?なら全然かまわないよ。だって、花ちゃんの事大好きだし!」


そう言って、ぎゅっと抱き寄せてくる蓮。


「これからは、僕も、ちゃんと自信を持って、花ちゃんを愛することを誓うよ。

……それに、ヘタレている気弱な男の子は、好きな女の子を盗られちゃうのが世の常だよ!花ちゃんは、そんな気弱な僕から僕が寝取ってやったのさ!」


そう言って、笑顔になる蓮。


「だから、さぁ、帰ろう?」


蓮は、力強く私の手を握り、そして、歩き始めた。




——そして一か月。

蓮は、自分の事を「僕」という元の口調に戻った。

でも、「俺」の時の性格のまま、自信のある人間になった。


私は、そんな蓮との距離感がつかめず、一か月間、蓮に翻弄されっぱなしだった。

私が罪悪感から近づけずにいると、蓮はすっと寄ってきて、「大丈夫だよ」って耳元で囁いたり、「好きだよ」って言って、どうしていいか分からない私にそっと口づけを落としてきたり。

私が、絡まれた時は、「僕の彼女だ」なんて言って、私の事を守ってくれるようになった。


この一か月、私は自分が本当に蓮に相応しいのかを自問自答し続けた。

そんな私にずっと「好きだ」と言ってくれる蓮。

私は蓮にその「好き」を返せずにいた。

蓮は、私の気持ちがきちんと整理できるまで私の返答を待つと言ってくれている。

「花ちゃんが、自分を許せるようになってからでいいよ。でも、できれば早く『好き』って言ってくれたらいいなぁ……」


——きっと、蓮は全く気にしていないのだろう。

私がこうやって罪の意識に苛まれても、ただただ蓮が悲しむだけかもしれない。

数年後も、数十年後も、二人で一緒にこうやって過ごしたい。

私だって、そう思っている。

でも、心が移り変わったのは事実で、でも、その相手は同じ、蓮で。



私は、心に整理がつかないまま、蓮に尋ねた。


「……ねぇ。蓮は、本当に私でいいの?今の蓮なら、もっといい人がいるんじゃない?」


その言葉に嘘はない。蓮はこの性格になってから、女子にモテるようになった。

本当に私じゃなくてもいいんじゃない……?

そう言うと、蓮は困ったような顔をして言った。


「……僕は、花ちゃんのために、頑張ったんだよ?好きな人の為に努力をしたのに、それで別の人と付き合っちゃあ、あんまり意味がないんじゃない?」

「でも、私……」

「僕が好きなのは、花ちゃん。花ちゃんが好きなのは、僕。それでいいんじゃない?複雑なことは考えずにさ!」

「……いいの?」


蓮は、コクリと頷く。


「……じゃあ、私は、ずっと蓮を好きで居続けるよ。きっとそれが、私にできることだから」

「うん、僕だって、ずっと花ちゃんを好きで居続けるよ。花ちゃんと同じようにね」


私は、いつぶりだろう。

自分から、蓮にくっついた。

昔だったら、私がしないと、蓮は絶対にくっついてくれなかった。

でも今はそっと優しく、私をさらに引き寄せてくれる。


「……好き」

「僕もだよ」


優しい言葉に、心が温かくなるのを感じる。


——いつか、きっと、この時の話を私は蓮に笑って言える時が来たらいいな。

そう思った。

今はまだ、難しいけど、いつかきっと。

昔の事を思い出して、笑って蓮にこう言うことができたら。


『ごめんね、私、寝取られちゃった……』


って。

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