最終話 そのメイド『完結』
とても懐かしく、なんとも言えない感情がこみ上げてくる。英国貴族らしい
「お父様……お母様……」
驚きから感動へと変わったヴィアトリカの目から、大粒の涙がこぼれ落ちる。もう二度と会えないと思っていた、最愛の家族との再会に喜びを爆発させたヴィアトリカは駆け寄ると、両親に抱きついた。
よかったね、ヴィアトリカ。命の次に大切で、最愛の家族と再会出来て。
三人で抱き合い、涙を流して再会を喜び合うビンセント家の姿を微笑ましく見届けたミカコはそう、心の中でヴィアトリカに語りかけたのだった。
両親の真ん中で佇み、喜びと希望を胸に、元気いっぱいに手を振るヴィアトリカと別れの挨拶を済ませたミカコは、残るルシウス、ラグの二人とも別れの挨拶をして森を後にした。
ミカコが悪魔を封印し、ヴィアトリカが自身の霊力で以て
日本国内にある広大な森から、トランクを片手に脱出したミカコは家路を急ぐ。実際は半日程度しか時間は経過していないだろうが、数日もの間、臨時のハウスメイドとしてヴィアトリカの屋敷で働いていたので早く自宅に帰りたくてしかたがないのだ。
「……っ!」
不意に悪魔の気配を感じ、急ぎ足でアスファルトの道路を進んでいたミカコは立ち止まった。
短く切り揃えた黒髪に、冷ややかな雰囲気漂う青い目、加えて踝ほど丈が長い黒マントを羽織り、きな臭い雰囲気を漂わせている、二十代くらいの長身の男。その名も魔王幹部の
「お待ちしておりましたよ、
ロビンがそう、気取った口調でミカコに話かける。
「魔王様の命令により、強力な敵であるあなたを
そう、冷めた笑みを浮かべて冷酷に告げたロビンが従えている一匹の黒豹がゆっくりと前に出た。体長二メートルほどはあろうか。肉食獣らしくがっちりとした体格だった。
「行きなさい」
静かに下したロビンの命令を受け、一声吠えて応えた黒豹が大きく飛び上がり、ミカコめがけ突進する。にも関わらず、凜然たる雰囲気を漂わせて黒豹を睨めつけるミカコは、そこから動かなかった。何故なら、ミカコには逃げるという選択肢がないからだ。
ロビンは、この場にいるのがミカコ一人だけだと思い込んでいる。そう、ここにはミカコの他にもう三人、ミカコを助け、護ってくれる強力な仲間達がいるのだ。
どこからともなく二発の銃声がした。何者かが発射した銃弾が、ミカコに襲いかかった黒豹に命中し、動けなくする。
「
素っ気ないが、気取った男の人の台詞が、ミカコのすぐ目と鼻の先で聞こえた。濃紺のコートを着た若き退治屋の
「よく、ここが分かりましたね」
「事前に、俺が背にしているミカコからメールをもらっていたからな。まぁ、事前にミカコからメールをもらっていたのは、俺だけじゃないみたいだが……」
不意に、にやりとした柴崎氏。すると、どこからともなく、マントを羽織る二人の
「シュオンくん!ティオ!」
「ミカコ、無事で本当に良かった」
「お前からメールをもらった時は焦ったぜ。まさか本当に、半日経っても自宅に戻って来ないなんてな……」
頼もしい神仕い仲間の登場に歓喜するミカコに、安堵の表情をしたシュオンとティオが交互に声を掛ける。
今からおよそ半日前の午前中。ロザンナから手紙を受け取り、広大な森へと足を踏み入れる前にミカコはスマホから『今から、日本国内に広がる森へと行って来ます。半日経っても私が戻って来なかったら迎えに来てください。森の場所は下記の通りです』と書き記したメールをシュオン、ティオ、柴崎氏の三人に送っていたのだ。
ミカコがこの三人にメールを送ったのは、森から脱出後、強力な悪魔と遭遇する率が高いと予想したためである。
そして、半日が経ってもミカコが帰宅しなかったため、ミカコの両親を心配させないように配慮したシュオンとティオの二人は、ミカコを捜しに森へ向かう途中でこの事態に遭遇したのだった。おそらく、柴崎氏も二人と同じ理由でここにいるのだろう。結果、シュオン、ティオ、柴崎氏の三人は、待ち伏せていたロビンからミカコを
「ならば仕方がありませんね。神仕いを仕留める前にまずは、私が強力な
「望むところだ」
かくして、突如として出現したミカコの助っ人
賢いメイドと女主人が住む幻影の世界 碧居満月 @BlueMoon1016
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