第6話 駆け落ちした二人のその後

 私が首を括ったと思った者は挙手したまえ。私はそのような行為をしないし、ロープは縛りの練習であり趣味の一環に過ぎない。


 私は古の超帝国にその名を轟かせた魔術師トリニティ。数億年の歳月を生きる永遠の旅人である。一時の困窮に負けて命を絶つなどあり得ないのだ。


 先に紙幣の複製は困難であると話した。あのような複雑な物であればそれも頷けるであろう。しかし、単純な物であればどうかな。


 純金やプラチナなどの貴金属。ダイヤモンドなどの宝石類。ウランやプルトニウムなどの放射性物質。そのような物であれば無から生成できるのだ。紙幣よりよほど簡単である。


 では何故そのような事を成さなかったのか。

 答えは単純だ。そんな事をしても面白くないからである。


 さて、あの二名が駆け落ちしてから一月が経過したその頃、我が家に国際便が到着した。差出人は中東の知り合いだった。


 拝啓 トリニティ殿

 貴殿の使い魔のような紙幣を発見したので捕まえておいた。

 お主も遊んでおるな。

 儂のテリトリーで悪さをされると迷惑千万。故に送り返す。送料は儂が負担してやるから有難く受け取れ。

 

 敬具 バスタード・クラッシス


 こやつは私の後輩であり非常に生意気だが大金持ちだ。荷物には大して金にならない紫水晶の原石と500gほどの純金が入っていた。そして一万円札の霜川君と五千円札のセミラミスも一緒だ。


 うむ。この二人の言い訳は後程ゆっくりと聞くとしよう。

 私の魔術の完璧な効果に自分自身で唖然としてしまうのだ。そう、二枚の紙幣……ほんの一万五千円が約350万円の純金を引っ張ってきたのだから。

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札男 暗黒星雲 @darknebula

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