天に立つ、お嬢様
「お嬢様、何をしておられるのです?」
私は、目の前の光景が信じられずにいた。
いや、本当の事を言えば信じられてはいる。似たような事を日常の延長でこなすお嬢様なら簡単だろう、と理解はできる。
でも、だからといって。
「何って、見て分かるでしょう。四肢の力だけで天井に張り付いているのよ」
羽虫のように天井にぶら下がる主人を見せられて、どういう気持ちになればいいのだろう。
「えぇ、それは承知しております。私が伺いたいのは、『なぜ』天井に張り付いていらっしゃるのか、そして『どうやって』張り付いていらっしゃるのかでございます」
何食わぬ顔でお嬢様の真下にあるベッドに近づき、シーツを取り替える。その様子をじっと天井から見つめるお嬢様は、フッと鼻を鳴らして自慢げに仰った。
「馬鹿ね。天井に張り付いている理由なんて一つしか無いでしょう。筋トレよ」
「そうでしょうね」
「そしてどうやって張り付いているか、と問われれば」
そして、お嬢様が身じろぎをなさるとずるりとその身体が降下し、シーツを取り替えたばかりのベッドにまふんと着地。
そして天井、先ほど張り付いておられた箇所をびしっ、と指を指した。『天井を見ろ』の指示に従い、私は指の先を見る。そこには、
「直接指をブッ刺してたに決まってるじゃない」
「お嬢様、天井の修繕費はタダではございません」
手足の指、計20本分の穴が空いていた。
短編集 梨間キツツキ @tk407tk
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