ゲーム実況者、内心冷や冷やです?

 久道は鈴香との一件があってから自宅に帰った後、本垢――つまるところ『ザク』のアカウントでFPSの練習に励んでいた。


 『ザク』のアカウントで練習する理由は単純。


 自信も配信者大会にでることになったため、本垢で練習する口実ができているからだ。


【練習してて可愛い♡】


 なんて煽るコメントが普段なら本垢で練習すれば何件も寄せられてしまうだろうが、今は『配信者大会』という口実ができている。


 そのため、本垢で練習しても—―――。

【練習してて可愛い♡】

 と、いったコメントやSNSのメッセージに対して『配信者大会があるからで~す』と煽り返すことができるのだ。


 日頃、視聴者に煽られたり弄られてしまっている分、ザクは視聴者に対してやり返したいという気持ちがあったのだろう。


「……いくらでも、味方で視聴者あたってくれていいからな。こいこい」


 なんて、自室で溢しながら練習に励むこと三試合。

 一時間ほどゲームを続け、『それ』は四試合目にさしかかった時のことだった。


「ん? VCできるかって連絡がきているな。相手は配信中か」

 と、そのタイミングでVCできるか尋ねる旨がメッセージで送られたのだ。

 配信中か、と流しそうになった久道であるが……。


(……は、配信中!?)

 配信中ということは向こうは配信者なのだろうか。

 いや、そうに違いないだろう。

 久道は一瞬、目を見開いたが向こうのIDについては特に見覚えがあるわけでもなかった。


 そのため、そこまで有名な配信者ではない、と勝手に判断して久道はVCをつける。

 おおよそ、自分のファンか視聴者のどちらかだと解釈して。


 だが、久道はここでVCをオンに起動させてしまったことを後悔することになるのだ。


『突然すみません』

『いや全然そんなことないです、やってきましょうか』

『…………えっと、いつもの宣言なくてもいいんですか?』


 気のせいだろうか。

 どことなく声質に聞き覚えがある感じがするのは……。

 違和感を持った久道であるが、求められたら仕方がないというもの。

 久道は一度、咳払いをしてから声高に宣言してみせた。


『じゃあ、今回は優勝目指すからな……見とけよ』

『…………』

『そこ沈黙怖いからやめてくださいよ……』

『ごめんなさい。改めて初めまして、私は桜ヤミです。改めて配信中ですけどよろしかったですか?』

『ああ、全然大丈夫ですよ』

 と、久道は頷いたのだが、そこでSNSアカウントに複数のメッセージが寄せられているのを確認した。

 通知内容を見れば、明らかにコラボが云々とのこと。

 この反応からするに並みの配信者でないことは明らかであった。

 久道は震える声を抑えながら、『桜ヤミ』ですぐさま検索をかけた。

 すると、画面には『桜ヤミ、登録者41・5万人』の表記がなされていた。

 久道はすぐさま向こうの配信を確認する。

 同接は3000人を超えており、思わず背筋が凍り付いた。


『……どうされました?』

 しばらく無言になったのを気にしてか、桜ヤミはそうザクに声をかける。

 ザクは平静を装いながら、『大丈夫だ』と頷いた。


 しかし、である。

 向こうに視聴者が沢山いる以上コラボ相手として話題は膨らませなければ示しがつかない。

 久道はない頭をひねりだして、FPSをプレイしながらヤミに尋ねるのだ。


『……最近良いこととかってありました?』

『あ~ありましたよ。それがこちらの視聴者には伝えたんですけど~』


 と、ヤミはご機嫌良く笑ったのだが、向こうのコメント欄はザクを弄るコメントばかりが確認される。


【お見合いやんw】

【話題作り下手で草】

【ザクまじで可愛い(笑)】

 などといったものだ。

 ヤミはそのコメントを確認してムッと頬を膨らませる。

 このムッと頬を含ませた表情をする時はたいてい、視聴者に注意orお説教をする時の合図なのだ。

 それが分かっているからか、視聴者は【ごめんなさい】の意見で埋め尽くされる。


『まったく。ごめんなさい、こちらの視聴者が』

『いえまあ慣れてるので』

『そうですか。それでえっと何の話題でしたっけ?』

『最近良かったことあったか、です』

『それだと――――』


 と、ヤミはそこで河川敷の話をしだした。

 昔友達だと思ってた人達と再会したこと。

 そこから助けに入ってくれた同性の人がいたことなど。

 正直に言ってしまえばそのどれもこれもが身に覚えのある話。

 久道は思わずヤミの話に聞き入ってしまう……。


『すごい、偶然ですね』

『どうされたんですか?』

『自分も似た様なことがあったので』

『へ~どんなことです?』

『河川敷でトラブルにあってる知り合いがいて助けに入ったんですけど』

『私と立場が逆ってことですね……たしかにすごい偶然です』

『ですね』

 と、久道とヤミはお互いの話題を共有できて笑みを浮かべるのだが……。

 お互いがお互いに実際、リアルで交流していることにこの時は気づけなかった。




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

あとがき



『最凶の悪役貴族に転生したけど、なぜか美人令嬢達が次々と甘やかしてくる件について』


https://kakuyomu.jp/works/16817330652056427406


 こちらの新作も書いておりますので、よろしければお願いいたします。


 

 

 

 

 

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ゲーム実況者、切り抜きにより大バズりした結果、多くの美少女配信者にネタにされ始める 脇岡こなつ(旧)ダブリューオーシー @djmghbvt

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