第42話 パーティー解散

 迷宮をクリアして三ヶ月が経った。

 俺の目論見通り、亡くなったダークエルフをエルフとして復活させることに成功し、人間社会に上手く溶け込んでいる。

 最初からエルフだったことにして蘇らせたので、歴史や日常が変わってしまったわけだが、いまのところ大きな問題はない。


 もともとダークエルフだったやつらは、どうやら殲滅クエストではなく、流行病で一斉に亡くなったことになっているようだ。

 改変された歴史も、都合の良いものになってくれて助かった。


 願いを叶える玉は、効力を失って消滅した。

 これでもう、迷宮に挑んで命を落とす冒険者は現れないだろう。

 長い長い俺の苦悩も、ついに報われたわけだ。


「セント様、セント様」


 ある日の午後、実家の牧場で牛の世話をしていた俺に、サウムが近づいてきた。


「どうした」


「ウェスタさんとスーノさんからお手紙ですわ」


「あとで読むよ。まだブラッシングが終わってない。敷地拡大の手続きもしなきゃだし。ていうかサウム、部屋で寝ていろよ」


 サウムがお腹をさすった。


「ちょっとくらい動いたって平気ですわ。悪魔ですもの」


 まさか人間と悪魔の間に子供ができるなんて思わなかったな。

 迷宮攻略後、俺はパーティーを解散した。

 各々好きなように生きていくためだ。


 とはいえ、サウムは行く先がないので、こうして俺と共に暮らしている。

 籍は入れていないが、まぁ、なんというか、妻になった。


「わたくしもお仕事手伝いますわ」


「いいよ。そのためにお手伝いさんたち雇ってんだから。ほら、動きたいなら母さんと晩飯の仕込みでもしていてくれ」


「あ〜ん♡ 命令口調でも優しいセント様、素敵ですわ〜♡♡」


 その後、俺は一日の仕事を終え、寝室でサウムと一緒に手紙を読んだ。

 スーノはいま、ウェスタの実家で一緒にパン屋を切り盛りしている。


 仲間たちが蘇っても、スーノは共にエルフの森で暮らそうとはしなかった。

 姉を失って寂しそうなウェスタを放っておけないから、らしい。

 たしかに、ウェスタだけが、結局望みを叶えることができなかった。


 たった一人、なにも成し遂げられなかったのだ。


 そんなウェスタを見捨てられなかったのだろう。

 よっぽど、あいつのことが好きみたいだ。


「さて、なになに……」


 手紙には、最近の出来事が事細かに書かれていた。この几帳面さ、書いたのは十中八九スーノだろう。

 しかしどうしてか、ところどころ文字がぶれている。筆圧も濃いし、怒りで手が震えていたのか?

 嫌なことでもあったのだろうか。


「仲良く生活しているみたいで、安心ですわね」


「本当はさ、玉を手にしたとき、ウェスタを気絶させておこうかと思ってたんだ」


「な、何故ですの!?」


「玉を奪って、姉を蘇らせて! とか言い出すかと」


「そんな卑怯なことしませんわよウェスタさんは!!」


 ちなみに、イステは同じ竜人族の女の子と結婚した。

 ダブのメンバーだった子だ。どうやらあの戦いのとき一目惚れしたらしく、実家から莫大な大金を借りて、その金で釈放させたのだとか。

 結婚後は子育てのために街を離れ、竜人族の山に移住してしまった。

 そういえば、竜人族の中でもイステは特別お喋りだった、みたいな謎はなんだったのだろう。

 どうでもいいけど。


「ところでセント様、手紙の最後に書かれている『まだ騙していたんですね』ってどういう意味ですの?」


「さあ? もう嘘はついていないはずだぜ」


 心当たりがまったくない。

 被害妄想か?


 気にせず手紙を引き出しにしまうと、寝室の外から母さんが呼んできた。


「セント〜、サウムちゃ〜ん、お客さんよ〜」


「こんな時間に? 誰だよ」


「アップちゃんのお父さんだって〜。なんか、アップちゃんまた家出したらしいのよ」


「えぇ……」


 ふふっと、サウムが微笑んだ。


「アップちゃん捜索クエストですわね。ウェスタさんとスーノさんも呼びますの?」


「呼ばねーよ」


「え〜、わたくしの妊娠報告の手紙に書ききれなかったこと、たくさん話したかったですのに」


「また今度な」


 ウェスタ、スーノ、サウム。

 こいつらとパーティーを組むのはこりごりだ。


 それでも、俺にとってかけがえなのない仲間であることは、認めてやっても良い。















「ウェスタさんとスーノさんの間に産まれる子、きっと素敵な子供に違いないですわね」


「なんだよいきなり。だいたい女同士なんだから子供はできないだろ? そういう魔法があれば……できるのかな?」


「え? スーノさんは男ですよね?」


 ……あ。

 そうだったあああああ!!!! サウムとスーノ、互いに男だと勘違いさせてるの忘れてたあああああああッッ!!!!

 ま、待てよ。確か数日前、俺があいつらに手紙を出したとき、サウムの妊娠の報告をしていた。

 もしかして手紙の最後に書かれてた『騙していたんですね』って、スーノやつ、気づいたのか。

 サウムが妊娠した事実を知って、気づいてしまったのか。


 サ、サウムの表情が無になった。


「どういうことですの、セント様」


「ま、待て、落ち着けサウム!! 口が滑っただけだ!!」


「やっぱりスーノさんは女の子だったんですわね!! いくら華奢な体をしているからって、同じ女なら見ればわかります!! セント様の言うことだからと信じていましたのに……。こんなの裏切りですわっ!!」


「あ、いや……俺が愛してるのはお前だ!! サウム!!」


「もしかして、陰でこっそりスーノさんとイチャイチャしていたんじゃないんですの? 実は『女の子』だったスーノさんと」


「してない!! 断じて!!」


「じゃあなんでそんな嘘を!? もし浮気をしていたのなら、わたくしは、スーノさんを……」


「だからあ!!」


 あー、こいつらマジで、めんどくさい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

パーティー存続にめちゃくちゃ気をつかうんだがッ! 〜完璧すぎるパーティーを維持するために俺、神経すり減らします〜 いくかいおう @ikuiku-kaiou

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ