第41話 ウェスタとスーノ

「なに言ってるんですか? ウェスタさんはここにいます」


 スーノが猫を抱き寄せる。


「じゃあここにいるのは誰だ」


 ウェスタを指差すと、スーノは黙った。

 大好きな親友と仇を同義とみなしたくない願望が、スーノの思考を止めている。


「はっきり言うぜスーノ。もう復讐はやめろ」


「は?」


「わかっただろ。お前は、殲滅クエストに参加したやつを殺せるほど強くない。お前が殺されるか、逮捕されるかだけだ」


「だからなんですか。関係ないです」


 これ以上話すことはない。そう態度で示すように、スーノが背を向ける。

 そこに、


「スーノ」


 ウェスタが声をかけた。

 スーノの体が固まる。


「……ごめん」


「……」


「私が言えた立場じゃないけど、これだけは言わせてほしい。こんなことしたって、スーノが苦しむだけよ」


「うるさい!! 無駄なんかじゃない。クエストにいた人を皆殺しにして、願いを叶える玉で一族をみんな蘇らせる。それのなにが無駄なんですか!!」


「それは……」


 言葉をつまらせたウェスタに代わり、俺が答える。


「その後は? 殲滅クエストは国の命令。その参加者を殺して、ダークエルフが蘇らせても、人間との確執は埋まらない。同じことの繰り返し、いや、むしろ前より悪くなる」


「なら人間と戦うだけです。まずは」


 スーノがウェスタに杖を向けた。


「私の前から消えろ!! 亡霊!!」


 杖の先から攻撃魔法が発射される。

 放たれた光弾は、ウェスタの頬を掠めるだけに終わった。

 舌打ちをして、スーノは光弾を連射する。

 しかし、そのどれもが、ウェスタに直撃することはなかった。


「ど、どうして……」


 ウェスタがスーノに近づいていく。


「おいウェスタ」


「いいの」


 そしてウェスタは、スーノを抱きしめた。


「私をどうしてもいい。スーノのためなら何でもする。だからお願い、これ以上復讐するのはやめて。殺すのは、私で最後にして」


「……なんで」


「え?」


「なんでウェスタさんなんですか」


 スーノの手から杖と猫が落ちる。

 溢れる涙が、ウェスタの胸元を濡らす。


「なんでウェスタさんが、クエストに……」


「私にも、取り戻したいものがあったの」


「ウェスタさんが、ウェスタさんが参加してなければ、こんなことには!!」


「うん」


「私はいったい、どうすればいいんですか……」


 いまの実力じゃあ、どうやったって復讐は果たせない。

 殲滅クエストに参加できるのは優れた冒険者のみだから。

 ダークエルフの仲間を復活させたって、迫害は終わらない。


 かといって、何もしないのは、嫌だ。


 ウェスタが俺を見やった。

 わかってるよ。俺が解決してやる。


「スーノ、さっきはあぁ言ったが、一つだけ方法がある。物事を、少しだけ良い方向にする手段が」


「え?」


「願いを叶える玉で殺されたダークエルフを蘇らせる。でも、エルフとしてだ。最初からエルフだったことにして蘇らせる」


 歴史すら覆す力技。

 ダークエルフという種族が根絶やしにされたままなことには変わらないが、それでも幾分かマシなはずだ。

 スーノの父親も、友達も、みんなみんな生き返るのだから。


「すべてがお前の望み通りにはならない。それでも、この案を受け入れてくれないか?」


「本当に、そんなことできるんですか……」


「俺はお前たちに嘘ばっかりついてきた。だけど、今度だけは信じてほしい。絶対に上手くいく。俺たちが力を合わせれば」


 スーノがまたウェスタの胸に顔を埋めた。

 強く強く抱きしめて、離さない。


「まだウェスタさんが許せない。許せないけど、もっと友達でいたいんです」


「私もだよ、スーノ」


「また、大好きになりたい」


 一段落ついたな。

 けど大変なのはこれからだ。

 スーノの心を救うには、迷宮をクリアしなくちゃいけない。


 ふっ、いまさらなにを不安に思うことがある。

 必ず攻略して、願いを叶えられるさ。


 俺の自慢の、完璧なパーティーなんだから。

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