LINE

西しまこ

第1話


 ――春になるし、もう暖かくなるから別れませんか?


 いきなりそんなLINEが彼女から届いて、僕は思わず歩くのを止めた。

 栞?

 出先から会社に戻ろうとしていて、たまたま私用スマホを見ていたら、そんなLINEが届き、思わずすぐに返信した。――ここのところ、なかなかLINEの返信も出来ていなかったら、とても珍しく、すぐに。


 ――どういうこと?

 ――まちがい きにしないで


 栞からすぐに返信が来た。全部ひらがなだったから、そうとう焦っていることが分かった。栞のLINEはいつも正しい日本語が使われていたから。

 ――今日会ったときにちゃんと話そう

 栞からの返信はなかった。既読にはなったけれど。少し待って、返信がこないので会社に戻ることにした。


 しまった。うっかり「今日」と打ってしまったけれど、今日会えるわけがない。何しろ、これから仕事が山積みだから。ライターさんから上がって来た文章を添削して、前の原稿の添削をして、それから企画書を出して。とにかく、やることが山のようにある。


「高山くん、取材同行お疲れ。いいの、出来そう?」

「清水さん」

 会社に戻って荷物を置いたら、清水さんに声をかけられた。

「はい、差し入れ」

 清水さんは笑って、缶コーヒーを僕にくれた。

「ありがとうございます」

「さ、今日も残業だね! いっしょに頑張ろう!」

「はい!」


 清水さんは僕の教育担当だ。明るくて頭がよくて、おもしろい記事を作ることが出来て、ほんとうに尊敬している。しかも、美人でスタイルもいい。

「今日さ、仕事終わったら、飲みに行かない?」

「はい!」

「たまにはいいよね!」

 清水さんはそう言って、仕事に戻った。


 あ、そう言えば。

 僕はさっき栞に送ったLINEの内容を思い出していた。

 ああ、まずいな。今日はやっぱりだめだ。そもそも、仕事あったし。清水さんと飲むのは仕事の延長だし。

 ――栞、ごめん。今日はやっぱり無理だった

 しばらく待ったが、今度は既読すらつかなかった。

 ……週末にまた来るだろう。そのときでいいや。

 僕は仕事にとりかかり、栞のことはすぐに脳裏から消え去った。



     了



☆この話は「誤送信」の彼氏サイドのお話です。https://kakuyomu.jp/works/16817330653248978758/episodes/16817330653249006687

綴さんに、受け取った側のストーリー見えているのですねとコメント頂き、うふふふと作ってしまいました。

綴さん、ありがとうございました!


☆☆☆いままでのショートショートはこちら☆☆☆

https://kakuyomu.jp/users/nishi-shima/collections/16817330650143716000


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