虹の向こう側

西しまこ

第1話

 虹だ! 虹が出てる! 

 ぼくは嬉しくなった。ずっとずっと、虹が出るのを待っていたんだ。

『くんちゃんとにじ』で、くんちゃんは、虹の根元を探す旅に出かけた。だからぼくも、虹の根元を探す旅に出かけるんだ。


 ぼくはミニオンのリュックに麦茶の入った水筒を入れた。キットカットとじゃがりこも持って行こう。それから、タオルともしものときのお着替えと。プラレールのはやぶさと、この間作った、強い剣も持って行かなくちゃ。手裏剣もいる。……入らなくなっちゃったので、僕はお着替えを出した。うん、これでよし!

 僕は玄関で靴をはいた。かかとをこんこんってやってからはくんだよ。お母さんに教えてもらったんだ。玄関をがちゃりと開け、外に出る。


 あ、アリさん。ぼくは座って、アリさんに話しかけた。

「ねえねえ、虹の根元ってどこにあるの?」

「ずっとずっと向こうの方じゃない?」

 ぼくは「分かった!」と言って歩き始めた。


 あ、はとさん。

「ねえねえ、はとさん。虹の根元ってどこにあるの?」

「あっちの方だと思うよ」

 はとはすぐに飛び立ってしまった。


 あ、ねこちゃん!

「ねえねえ、ねこちゃん。虹の根元ってどこにあるの?」

「……」

「ねこちゃん、ぼく、虹の根元に行かなくちゃいけないんだ」

「どうして?」

「お母さんが待っているから」

「……そうかあ。じゃあ、あたしもいっしょに行く!」

「いっしょに行ってくれるの?」

「うん。あたしもお母さんに会いたいから」

 ぼくはねこちゃんといっしょに歩き始めた。


「虹に追いつくの、難しいねえ」

「うん、そうだねえ」

「歩いても歩いても、なかなか近づかないねえ」

「うん、そうだねえ」

「……ぼく、なんだか疲れちゃった」

「そこの公園で休憩したら?」

 ぼくはねこちゃんといっしょに公園に入った。


 あ。この公園、前にお母さんといっしょに来たことのある公園だ。

 ぼくはブランコに乗って、ブランコをこいだ。

 きぃーい、きぃ。きぃーい、きぃ。金属の音がして、高くなったり低くなったりする。高くなったとき、虹に届きそうな気がした。

「ねこちゃん、このまま、えいってとんだら、虹の向こう側に行けるかな?」

 なんだか、行けそうな気がした。

 きぃーい、きぃ。きぃーーーい、きぃ。きぃーーーい、きぃ。おかあさん!


「さとるっ」

 えいってとぼうとしたら、お父さんの声がした。

「悟、心配したぞ。少し目を離したすきにいなくなって」

 お父さんがぼくをぎゅってした。

「あのね、ぼく、お母さんを探しに来たんだよ。お父さんもいっしょに行こうよ」

「……うん、行こう。行こうね」

 お父さんは泣きながらぼくを抱きしめた。

 猫が足元でにゃーんと鳴いた。



    了



お題「虹の向こう側」クロノヒョウさんより(ありがとうございます!)


☆☆☆いままでのショートショートはこちら☆☆☆

https://kakuyomu.jp/users/nishi-shima/collections/16817330650143716000


☆追記☆

『くんちゃんとにじ』は素敵な絵本です。

くんちゃんシリーズ、大好き!

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虹の向こう側 西しまこ @nishi-shima

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