第3話 現実
「あの…… これは一体…… どういうことなんでしょうか?」
声を震わせビクつきながら、女の顔をまじまじと見つめる。
そして俺が喋ってから四秒の間が発生した後、ついに女が口を開いた。
「どういうこともなにも、この状況で逃げ出そうとでも?」
そう言って女は握っていた刀を少し回転させ俺の首を僅かに抉った。
「ヒッ!?」
女の行動に対して反射的に情けない声をあげてしまう。
抉られた微かな痛みがジーンと体中を巡る中で、この場を乗りきる方法を必死に考えていた。
「あはははぁ、バレちゃいましたか。どうしよう困ったなぁ……。 あそうだ! 貴方も一緒に他の車両に移動しましょうよ! そうすればなんとかこのヤバい状況を乗りきれますよ!」
普段滅多に見せない作り笑顔を見せながら女の表情を探る。
するとそんな作り笑顔が効いたのか、女の口角が若干上がった。
「ふっ、よくここでそんな表情が出来るな。君も見だのだろう? 目の前で人が死ぬところを。なのにそんな体験した直後に笑えるとは、流石逃げるなんてことを思いつく太々しい奴だ」
女の苦笑した表情を見て言葉に詰まってしまった。
確かに俺はこの目でしっかりと見た。いや見てしまったのだ。
四人が化け物に殺されるところを。
だから尚更今、ヘラヘラと笑えるわけないじゃないか。
俺は今お前に刀を突きつけられいるから、この状況を抜け出す為にしたくもない笑顔をわざわざ作っているんだ。
この表情はお前が原因なんだぞ。それをこうして俺がヤバい奴みたいな扱いをしやがって、なんて女なんだ。
心の内で女に対する愚痴を漏らしながらも、表では「あははは」と苦笑しながらごまし続ける。
「それに私は今刀を持っている。もしこの状況で他の車両に人がいたらどうする? 確実に私が人を殺したと認識されて即刻通報だ。それとも何か? 私が刀を持っているところを見た奴ら全員斬れと、そう言うのかな?」
そう言いながら女は再び刀を回転させる。
女が刀を回転させる度に俺の首元から垂れる血の量が増えていき、痛みも増していた。
女の意思表示に恐怖を覚え怖気付きながら、俺は女の言葉を聞いて即座に理解する。
——こいつはヤバい。
小さく整った顔立ち。
澄んだ白髪。
デカイ胸。
エロい身体。
見てくれは完璧美少女なのに、頭のネジがぶっ飛んでいる。
普通そんな発想には至らないだろ。この車両に飛び込んで来て化け物を斬った時点で察していたが、この女、とんでもない奴だった。
だがここで文句を言ってみろ、女の逆鱗に触れてたちまち俺の首がぶっ飛んでしまう。
ここは我慢だ。上手く対応するしかない!
「じゃあ刀を外に捨てたらどうですか? そしたらバレずに済むのでは?」
「成る程。確かにそれは良い方法だ。だが今の警察を舐めてはいけない。刀が見つかり指紋鑑定をされてしまったら、私の存在がバレるのも時間の問題だろう。それとも何か? 私がそんなことを考える知能がないとでも思って馬鹿にしたのかな?」
なんなんだよこの人ぉぉぉ!
俺が提案したら毎回毎回難癖つけて否定しやがって。
確かに言っていることは一理あるけど、そこまでハッキリと否定しなくて良いじゃないか。
もう知らん! 本心を全部ぶちまけてやる!!
「いいですか! 俺はいち早くこの場から逃げ出したいんですよ!! もうすぐ終点に着きます。この場に残ってたらホームの客に悲鳴をあげられ、駅員に捕まり、警察署へ連行されて、貴方が言った通り殺人容疑で即刻お縄なんですよ!! 実際に殺してなくても、こんな状況見られたら誰しもが俺達を殺人犯だと断定するでしょう! 俺はまだここで人生を終わらせたくない! 大体さっきからなんなんですか!! 俺の提案を毎度の如く屁理屈で否定して。俺を馬鹿にしているんですか! それとも貴方が俺の代わりに全責任を取ってくれるんですか!!!」
俺は彼女に指差しながら、心の内にしまっていた声を全て曝け出した。
大きな声を出したせいで呼吸は荒くなり、その乱れた呼吸を正すために体が軽く上下する。
疲れがどっと押し寄せてきたのと同時に、後悔の念が俺に襲いかかってきた。
——やってしまったぁ……。
時間と心の余裕が無いせいで思っていたことを洗いざらい言ってしまった。
今こうして女を睨んでいるが、女の冷たい視線が辛い。
それに無我夢中になっていたせいで完全に忘れていたが、今俺は絶賛刀を突きつけられているんだったぁぁぁぁ!
今のこの人の塵を見るような目なら俺の首を今すぐにでも刎ねかねないぞ。
てかなんか今現在、刀をゆっくり横に動かして俺の首を刎ねる準備をしているんだけど!
——ヤバい。今すぐ逃げないと!
でも怖くて体が動かない!!
俺は焦った。後悔しても、反省しても、言ってしまったものは言ってしまったのだ。
過去は変えられない……、だがしかし! 未来は変えることが出来る!
俺は足を動かそうとした。怖いなんて言っている暇はない。
今は一秒でも速く動いて逃げなければ——。
左足を一歩横に出して左方向へと逃げようとしたときだった、動いた足と同時に俺の首めがけて刀が一振りされたのだ。
「ま……」
彼女に手を差し伸べようとした瞬間、刀が首元へと到達する。
俺は反射的に目を瞑り、全てを察した。
——ああ、俺はもう、死んだ。
妖怪退治倶楽部 影ノ者 @kagenomono
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