シェアハウスは退職ルートの始まり!?

@ookumanekogorou

シェアハウスは退職ルートの始まり!?

「どうしてこうなった・・・・」


俺は都内にあるそれなりに大きな家の前で死んだ魚の目をしてつぶやいた・・・


遡ること2日前・・・


俺は自分のデスクで朝のルーティンであるメールチェックに勤しんでた。

「おっ?」

2月下旬ということもあり人事異動のメールが社員全員に来ていた。

まぁ俺は営業成績も上位だし営業からは変わらんだろうと思いながら、

メールを開いて俺は思わず叫んだ


「はぁ!!!???」


幸い朝も早かったので数名しか出社していなかったが、

俺は即座に謝り再度パソコン画面にかじりついた。

そこに書かれていたのは


山口聡やまぐちさとし 営業部営業課➝人事部人事課】


嘘だろ・・・

なぜ俺が「あの」人事課なんだ・・・

周りを見ると俺に憐みの目を向けてくる同僚たちがそこにいた

俺と目が合うとさっと目をそらす

そんな時ふと俺に影が差した


「どうした聡?人事課へ異動になって人生に絶望したような顔をして(笑)」


この人は「時任翔ときとうかける」俺の先輩であり今回の人事で課長に昇進した一門(ひとかど)の人物だ


「先輩知ってたんですか!?」


俺は先輩の肩を揺さぶり問い詰める

先輩は俺を制止して真顔で


「嘘だろ?マジで言ってんのか?」


あっ、これマジで知らない時の先輩だ


「マジです・・・そして昇進おめでとうございます」

「おう。サンキュ。ってそっちはいいとしてお前何したんだ?」

「わかんないっす・・・今年だけでいうと営業成績は先輩に次ぐ2位ですし・・・」


そう、俺は自慢ではないが実績を出している

元々コミュ力が高いほうである俺は入社して1年間死に物狂いで専門知識を叩き込み、先輩の懇切丁寧こんせつていねいな教えもあり、

入社3年目にして先輩に次ぐ成績を収めるまでになっていた

だからこそ俺も先輩もこの異動には疑問しかないのだ

なんせ「あの」人事課だ

俺と先輩だけでなく営業の人間は全員疑問に思っていることだろう

そうこうしているうちに営業部の部長が出勤してきた


「部長おはようございます。早速で申し訳ないのですが山口の人事でご質問があります」


先輩が速攻で切り込んでいった

俺からは直接聞きにくいことを最前線で立ち向かってくれる

そこに痺れる憧れるぅ!!


「それについてだが俺から答えれることは少ないぞ。なんせ俺も聞いたのは昨日の人事会議でだからな」


まじかよ・・・

て、ことは部長はこの人事に関与していない

そうするとそれ以上、つまり役員クラスがこの人事を決めたということか


「部長は断らなかったんですか?」


先輩かなり切り込んでいくな

嬉しくて少し泣きそうだ


「もちろん、断った。が、社長直々に決めたことを俺では覆せん」


頭が真っ白になった

そんあことがあるのか!?

俺は一般社員だぞ!

そもそもなぜ俺のことを知ってるんだ!?

あまり大きな会社ではないとはいえ俺が社長を見たのなんて数回だ

話したことなんて片手で数えれるくらいだ

いろいろなことが頭をよぎるが接点があまりにもない

軽くパニックを起こしていると部長が


「山口、とりあえずお前は午前中に人事課へ行ってくれ。午後からは引き継ぎ業務だ。いろいろと

特例だがお前は遅くとも今週中に人事課へ行ってもらう」


終わった

俺は今後のことを思いながらかろうじで「はい」とだけ答え、重い足取りで人事課へ向かっていった


株式会社スクリュードライバー


これが俺の勤務している会社だ

取り扱ってるのはMMORPGPをメインとしたPCゲームとアプリの制作、あとは他社からの業務委託だ

従業員は100名ほどの会社だが黒字営業でそこそこホワイト企業だ

そこで営業を担当してい俺は今回の人事異動で人事部に異動になった

そう「あの」人事部だ

普通、人事部といえば内勤の花形部署でもあるのに関わらず俺は全くと言っていいほど喜んでいない

なぜなら、うちの人事部は「退職率3年連続ナンバーワン♪」とどこかのCMみたいな状況だからだ

そんな肩叩き部署に異動となった俺は様々な思いを胸に人事部のドアの前についた


コンコン


「失礼します。営業課の山口です。この度、人事異動で人事課に配属となりました。よろしくお願いします。」


いくら嫌な部署だからといって挨拶をないがしろにするやつは社会不適合者だと思っている


「おう。山口君か。待ってたよ」


人事課課長の「富倉人志とみくらひとし」さんだ。

悪い噂も聞かないし、俺もたまに自販機とかで合うと談笑して必ずおごってくれる優しい上司だ


「急な話で困惑しているだろうが、端的に言おう。今回の人事をお願いしたのは俺だ」


今の俺の顔は何とも言えない表情になっているだろう

怒るのもおかしいし、かといって心境的には怒りたいし、でも上司だし、飲み物おごってくれるし


「そ、そうなんですか」


あまりの衝撃にどもり気味だ


「まぁ、今の人事課の状況を考えるとその何とも言えない表情も致し方ないんだが、とりあえず事情を説明していいか?」


むしろこちらかお願いしたいくらいだ

俺が頷くと


「知っての通り、うちの部署は退職率が3年連続ワースト1だ。それには理由があってな。会社から徒歩15分ほど行ったところにある≪シェアハウス≫の存在を知ってるか?」


シェアハウスの存在は一応知っている

うちの会社のエース陣が住んでいる家だ

ただ、このエース陣にいい噂を聞かないんだよな・・・・

実力は半端ないがいろいろとめちゃくちゃらしい

噂では会長の孫もいるから下手に何にもできないらしい

俺が知っていると察した富倉さんは


「知っているなら話は早い。そのシェアハウスなんだが女性しか住んでなくてな。安全セキリュティもかねて男性社員を一名管理人として住んでもらうことになってるんだよ」


おいおい

そんな魔窟まくつに住むとか正気の沙汰じゃないぞ


「で、その管理人だが例年人事課が担当している」

「!?!?」


驚きで言葉にもならない。


「あぁ、すまない。正しくは管理人を探すことを人事課が担当しているんだ」


なるほど

ならまだよかった

ん?でも、待てよ・・・

じゃあなぜこんな人事課から退職者が出るんだ?

その質問をする前に富倉さんが答えてくれた


「ただ、この3年間は人事課の社員が担当していたんだ。探しても見つからないのと、それに時間かけるくらいなら自分が住めばいいやって感じでね。なんせ家賃や光熱費は0円だし。かかるのは食費だけだからね。」


しかも会社から15分と立地もいいと富倉さんは笑顔を絶やさないが、

その裏に何かが隠されていると俺の第六感がビンビンしている


「ただ、一緒に住む人たちがいろいろとすごくてね・・・精神的に参ってしまい退職するケースが後を絶たなくてね・・・」


そういうことか・・・

一見ご褒美ともいえるこの状況は実は地獄へと続く道ということか


「退職者が出る理由はよくわかりました。では、私が選ばれた理由は何なのでしょうか?」


そう、俺が最も聞きたいのはここだ

なぜ俺なんだ?


「それは、、、、」


なぜ言いよどむ。

どっかからクレームでも来てて、知らないうちに窓際ルートに入ってたのか!?

そんな思いをよそに富倉さんは


「いろいろ条件があってね。まず一人暮らしであること。独身であること。彼女がいないこと。この辺は必須条件だね。この業務のせいで別れたりするのは会社としても本意ではないからな」


その辺りはちゃんと考えてるのか

てか、なぜ俺に彼女がいないのがばれているんだ!!


「そして、君を選んだ理由だが、、、、」


俺はごくりとつばを飲み込んだ


「その圧倒的なコミュ力の高さだ。この会社で君のことを知らない社員はほぼいないと言ってもいい」


いやいやいや

そこまでではないだろう

まぁ、仕事の都合上、円滑に仕事進めるために様々な部署に顔を出して、

その部署の人たちとよく話すけど・・・

それも、時任先輩ときとうせんぱいの教えだからな・・・


「多分君は気づいていないだろうが、あそこまで他部署と直接的にかかわるのは時任君と君くらいなもんだよ。しかも、前から同じ部署だったかのように話すのはね。私も他部署の人間であんな気軽にジュースをおごるのは君と時任君くらいだよ笑。」


さすが先輩だ


「で、だ、そのコミュ力があれば彼女たちともスムーズに交渉できるんじゃないかなと思ってね」


ふむ・・・

まぁ一理なくもないのか・・・?


「質問がいくつかありますがよろしいでしょうか?」


富倉さんが頷く


「まず、管理人業務ですが給与は支給されるんでしょうか?」

「されない。便宜上、管理人と呼んでいるがようは同じ家に住んでもらうだけだからね。もちろんそこに住むうえでやってもらうことはあるだろうが、強制労働はないよ。」

「承知しました。では、先ほど管理人に関しては人事課の社員が探すと仰っていましたが、必ずしも私がしなければならないと言わけではないということですよね?」

「その通りだけど、たぶん公募しても誰も出てこないと思うよ。」

「なぜですか?」

「まず正社員が絶対条件。次に新入社員は対象外。そして、現時点での2年目以降で対象となるのが君を入れて5名しかいないからね。知っての通りこの会社は女性が多い。したがって、みんな社内で彼女を作るのが早いんだよ。まぁ、君はいないみたいだけど」


なんだよそのニヤリとした顔は!

人の良さそうな笑顔でさらっと毒を吐きやがって!

ちくしょう!事実だけど!

パワハラで訴えてやろうか!


「では私を含め5名ともがそれを拒否した場合どうなるんですか?」

「・・・あまりそのルートは通って欲しくないが、万が一そうなったら、そのことを彼女たちへ説明してもらうことになる。その場合、最悪彼女たちが退職する恐れがある。そうなったらうちの会社とって大きな損失となる。将来的に会社をたたむくらいのね・・・」


まぁそうだろう

中身があれでもエースと言われる人物たちだ

彼女たちがいかに凄いのかは俺でも知っているからな

イラスト・音楽・脚本・システム

ゲームを作るうえで重要なファクターで類稀たぐいまれなる才能と実力をもった4人だからな・・・


「では、最後に、、、元会長のお孫さんが住んでいるというのは本当ですか?」

「・・・事実だ・・・・」


まじかよ・・・


「とりあえず状況などは把握しました。さしあたって、まずはその5名にあたってみます。期限は今月中でよかったですか?」

「できれば2週間後までにしてほしい」


早くないか!?

しかし、俺は力なく頷く事しかできなかった・・・

所詮しょせんサラリーマンだからね・・・


営業部に戻ってきた俺は昼休憩も取らず取引先への引き継ぎ電話を速攻で終わらせた

まぁ、ほぼ全部、時任先輩に丸投げだが・・・


「聡、お前どうするんだ?」


このどうするんだは退職も含めて聞いているんだろう。


「とりあえずできる限りのことはやるつもりです。それでもどうにもならないならその時考えます」

「まぁ、どうにもならなければ俺に言え。どんな手を使ってでもお前を営業部に戻してやる」


俺が女だったら確実に抱かれてるな


「先輩のお手を煩わずらわせないよう最善を尽くします」


先輩と笑いあいながら俺は荷物を持って人事課へ向かった


「もういいのか?」

「基本時任さんと回ってたとこがほとんどでしたから。時任さんに引き継ぐって言ったら2つ返事でしたよ」


だいぶ引き留めてくれた取引先もあったけどこればっかりはね・・・


「とりあえずまだ時間があるので早速5名にあたってきます」

「幸運を祈る」


俺は一礼して戦場を向かった・・・


定時をちょっと過ぎた頃、新しく人事課の一員となった社員の死体がデスクに転がっていた

全敗かよ・・・

しかも全員瞬殺で断ってくるとは・・・


「だから言っただろう?少なくともあの4名ではシェアハウスに1週間も持たないと思うよ」

「それは思いましたが・・・」


そう

あの4名全員に共通してたのがでネトゲ廃人であるということだ

「そんなネトゲがやりいくい環境に住みたくない」と全員が同じ理由だった

しょうがない、こうなった以上住民たちに説明するしかあるまい


「明日、シェアハウスの皆さんと話をしてこようと思います」

「君が管理人として住むことかい?」


そんなわけはない


「いえ、このままだと誰も管理人にならないのでどうするのかと」

「待て待て待て!君が住んでくれるんじゃないのかい?」

「そんなわけないじゃないですか!私は自ら精神を破壊されに行くほど自殺願望はありません。まず、話し合いをして妥協点を見出します。それすらないなら・・・」

「ないなら・・・?」

「私が退職するしかないですね・・・」


富倉さんが嘘だろ?という顔をして頭を抱えだした

頭を抱えたいのはこっちなんだが・・・

とりあえず、管理人の件で話し合いをしたいので各々の予定を知りたい旨のメールを送ってその日は退社した


翌日、朝早く人事課に出社し日課のメールチェックをしていると、

昨日の返信が一件きていた


「出社したら内線しなさい」


これだけである

俺は恐ろしさをこらえながら内線をかけると3コールで相手につながった


「今から201会議室に来なさい」


それだけ言うと切られた

俺の予定は無視かよ・・・

会議室のドアをノックすると「入っていいわよ」との声がかかったので、入室する


「人事課より参り「そこに座って」」


マジかよ・・・

挨拶すらろくにさせてもらえないとか・・・この人は社会不適合者なのか・・・


「で?あんたが新しい管理人?」


すさまじいまでに高圧的に聞いてくるのは、

エース陣のまとめ役でシステム課の吉祥寺彩姫きちじょうじさきである。

すごい値踏みの目だな・・・


「いえ、私は管理人ではありません。そのことでご相談に参りました」


眉をぴくっと動かし、さっきよりも冷えた目で俺を見てる

こえぇ・・・帰りてぇ・・・


「で、何?」

「管理人の件ですが、対象者に直接交渉しましたが希望者がおりませんでした。また、私も管理人としての業務に関してはお断りさせて頂こうと考えております。」

「・・・」


うおぉ・・・

沈黙が一番怖いな


「で?私たちにどうしろというの?やめさせる?」

「いえ、そのようなことは考えておりません。ですが、現状のままでは管理人が不在となりそれぞれで住んでもらう必要性がありますがそれはできないんですよね?」

「無理ね」


即答だ

どうしたもんかと考えてると吉祥寺さんが先ほどまでのプレッシャーが嘘のように普通のテンション質問してきた


「ちなみにあんたは何で管理人が嫌なの?」


「自ら死地に赴くほど耄碌もうろくしておりませんので」


普通のトーンで聞いて来たので思わず普通に返してしまった

今思えばここで本音を言わなければ・・・


「・・・どういう意味かしら?」


なんて怖い笑顔なんだ・・・

笑顔ってこんな怖くできるのか


「いや、あの」

「正直に答えないと後が怖いわよ?」


今すでに怖いんだが・・・

俺は何とか心を落ち着かせ気合で答えた


「この3年間シェアハウスの管理人になった社員が全員退職しています。その数5名。うち3名は何も言わず退職です。そのせいか、引継ぎも何もなしですからね。そのような環境のところに行きたいとは思えません」


言い終わった後恐る恐る吉祥寺さんを見ると、

悲しそうな、憤りを押し殺しているような、そんな表情をしていた


「それは私たちも知っているし、それ自体は申し訳なくも思っているわ。多少だけど。ただ、あなたが知っているのは上辺だけの情報で事実は知らないようね」

「事実とは?」


その質問に対して吉祥寺さんは


「そうね。あなたが管理人になるのなら教えてもいいのだけれどそうでないなら無闇むやみに話すわけにはいかないわ。内容が内容だけに。」


ふむ

そこまで言うならよっぽどだろう


「何かしら理由があるのは承知しました。しかし、私に住む気が無いことに変わりはありません。ただ、会社の今後を考えても皆さんをやめさせるわけにはいきません。理由は教えてもらえないのであれば、せめて皆さんが管理人に求める条件をお聞かせください。」


そう。俺がするのはあくまで交渉だ。よりよい折衷案せっちゅうあんを見つけ出し何とか最悪の事態を乗り切りたい


そんな願望をぶった切るのがこの人、吉祥寺彩姫だ


「条件はあんたも知ってる通りよ。それ以外の条件でいえばそうね真面目なことくらいかしら」


何なんだよその条件は!真面目って!

くそう、何も解決できんぞこのままじゃ!

すると、ため息交じりに


「無駄な時間を過ごしたわね。もういいわ。皆と今後のことで話し合うわ。おそらくここにはいれないでしょうけど」


そう言うと悲しさと、儚さと、不安が入り乱れて言うような顔を見せた・・・

不謹慎ではあるが何て魅力的なんだと思ってしまった

ただ、もし、退職となると会社もやばいだろうな・・・

それよりも、さっきっ見せた表情が気になる・・・

はっ!なにを考えてるんだ俺は!相手が超絶美人でスタイル抜群だからといって騙されるな!

相手は俺のことを螻蛄おけらくらいにしか思ってないぞ!


「そうですか。承知しました。では、こういうのはどうでしょう?1週間私がシェアハウスに仮の管理人として住みます。そこでの生活ぶりを見て判断する。というのは?」


ん?俺は何を言ってるんだ?


その時、吉祥寺さんの顔がニヤリとした笑顔に変わった


「それは良い案ね。明日から、いや、今日からよろしく」


かかったと言わんばかりの表情だ

くそう!俺の純真な心をもてあそびやがって!

あんたみたいな美人にあんな表情を見せられると何とかしたくなるだろう!

普通の男なら助けたくなるだろう!!

俺は絞り出すように一言


「・・・承知しました・・・」


自分で言った手前取り消すこともできない

これで話は終わりといった感じで吉祥寺さんが席を立ってこっちに向かってウィンクをし


「ありがと」


去り際に一言発して出て行った吉祥寺さんを見て俺は誰もいない会議室で一言・・

惚れてまうやろ~!!!

小さな声で叫ぶという器用なことをしつつ俺も会議室を後にした


自分の迂闊うかつな一言を呪いながら、人事部に戻り富倉さんに経緯を報告する

報・連・相は社会人の基本だからな!


「そうか。やってくれるようで何よりだよ。」

「いえ、あくまで1週間の期間限定です。ここで無理そうなら・・・退職ですかね」

「まぁまぁ、まだそうなると決まったわけではないんだから。先入観を持たず真っ新な気持ちで行ったほうがいいよ」


それらしい事を言っているが俺には悪魔のささやきにしか聞こえない


「で、いつから住むんだい?」

「今日です」


富倉さんの顔が若干ひきつっている


「そ、そうか。確か吉祥寺君は駅前のケーキ屋さんのシュークリームが好きだったはずだ。手土産に持っていくといい」

「おお!貴重な情報をありがとうございます。少し多めに買っていきます。ちなみに、経費で落ちますか?」

「落ちるわけないだろう・・・」


ですよね~

まぁいい。

こんなに仕事が終わって欲しくない日は初めてだったが、こういう日に限って特に忙しくもなく、人事部の先輩に仕事を押してもらっているとあっという間だった。

定時1時間前に富倉さんからあがっていいよと言われ

抵抗するも無駄に終わり帰宅の途へ着いた

1週間の宿泊準備をし、いざ駅前のケーキ屋さんへ!

お目当てのシュークリームを人数分+αを買い、魔王の住む城へと重い足取りで向かった


とうとう着いてしまった・・・


震える指を懸命に抑えインターホンを押す


ピンポーン


「入ってきていいわよ」


インターホンのカメラで俺を確認したんだろう

恐る恐る玄関を開け中に入ると・・・・

私服の吉祥寺さんがいた

神々しすぎるだろう・・・・

なんだこの綺麗な人は

思わず俺が見とれていると


「何ぼーっとしてるの?早く入りなさい。と言ってもまだ私だけだけど」


はっ!

いかんいかん!ここは魔王の城だぞ!どんなトラップが待っているのか・・・

普段はしないが玄関で靴をそろえスリッパを履いて中に入るとそこには意外といっては何だが、

普通の家だった

ゴミ屋敷のように汚いわけではなく、洗濯物や下着がその辺に散らかってるわけでもない

普通にきれいな家だ

そんな感想を抱きつつ、まずお土産を渡した


「駅前のケーキ屋さんのシュークリームです。よかったら皆さんで食べてください」


キランと吉祥寺さんの目が光った


「あら案外気が利くじゃない」


澄ました顔で言っているが口元が緩んでいる

そんなに好きなのか


「多めに買ってるので、吉祥寺さんよかったら・・・」


俺が言い切る前に箱を開けて数を確認していた


「とりあえずお茶にしましょうか」


俺には頷く以外の選択肢が見つからなかった

幸せそうな笑顔でシュークリームを頬張る吉祥寺さんを堪能した後、

俺は管理人室へと案内してもらった

ここも特におかしな点はない

部屋は6畳ほどの洋室でベッドが備えつけられている。布団派の俺は少しショックだったが仕方がない

小さな冷蔵庫や電子レンジまである

至れり尽くせりだな

そんなことを考えているとインターホンがなった


「開いてるわよ」


とモニターに向かって話す吉祥寺さん

他の3人が帰ってきたのか

とりあえずは話し合いだな

そして俺は知ることになる

なぜ退職者が多いのかを・・・


「たっだいま~!」

「ただいま~」

「ただいま・・・」


三者三様さんしゃさんようの挨拶だ


最初の元気な声は藤堂美鈴とうどうみれいさん

泣ける音楽からアップテンポまで何でもござれの音楽チームのエースだ

ショートカットが似合うスポーツ美少女って感じだ

ちなみにある部分は絶壁だ


2人目が本庄ほんじょうさやかさん

泣ける脚本から笑える脚本、はたまた燃えるような熱い脚本など脚本を書かせたら右に出るものいないと言われている

こちらは藤堂さんとは逆におしとやかな雰囲気の美女だ

髪はセミロングでふわっとした感じだ

ある部分は結構なボリュームの持ち主でもある


3人目の物静かな感じが不知火葵しらぬいあおいさん

言わずと知れた神イラストレーターだ

ロングヘアの綺麗な髪で印象通り無愛想ぶあいそだ

もっと笑顔とか見せればかわいいのに・・・もったいない

ちなみにあそこは発展途上といったところだ


俺はリビングで皆さんを出迎え一言挨拶をする


「吉祥寺さんから聞いてるかもしれませんが、本日より1週間お世話になる人事課の山口聡です。ご迷惑はおかけしないよう過ごしますのでよろしくお願いいたします。」


我ながら無難な挨拶だ

よろしくー!と握手してぶんぶんしてくる藤堂さん

ややワンテンポ遅れてお辞儀をして挨拶してくれる本庄さん

会釈だけの不知火さん

ここでも三者三様だ

藤堂さんと本庄さんからは概ね良好な反応をもらっている

問題は不知火さんだ

明らかに嫌悪感がにじみ出ている

おそらくだが、俺に対するというよりは男性が嫌いな印象を受ける

この人が原因か?と考えていると、


「聡が新しい管理人なん?」


藤堂さんがあっけらかんと聞いてくる。

てか、すでに名前呼びか


「いえ、私は仮の管理人です。1週間こちらに住まわせてもらって今後のことを決めていきます」

「そうなん?そんなんせんでもさっさと住めばいいのに」


そうもいかんのですよ

俺は愛想笑いで躱かわし、吉祥寺さんに問いかけた


「早速で申し訳ないのですが、この家のルールを教えていただけませんか?ごみの当番やお風呂掃除などの当番などなど」

「そうね。皆いることだしちょうどいいわ。まず食事。あんたは自室で食べること」


これはいい。むしろ気を使わない分ラッキーだ


「次に、家の掃除とかはこちらで全部やるわ。ただし自分の部屋だけは掃除しておくこと」


これもよし


「で、お風呂だけど近くのスーパー銭湯を使って。料金は自腹よ。家賃も光熱費もいらないんだから大丈夫でしょ」


まぁ事故を防ぐためにも仕方ないか・・・

冬はつらいけど・・・・


「そして夜は19時~24時まで部屋から出ないこと。朝は6時~9時までね。」


ん?

待て待て!夜19時って少しでも残業したら余裕で過ぎるぞ

俺は思わず挙手をした


「何?」


何か不満でもあるのかという顔だ


「仕事の都合で19時を過ぎる場合はどうすれば?あと、6時~9時まで家を出れないのは勤務に差支えが・・・」


一応うちの会社はフレックスだし10時までに出社すれば大丈夫だが、俺は8時出社の18時上がりを心掛けている


「早く帰ってくるように調整しなさい。それが無理なら24時まではどこかで時間つぶしてなさい。朝は6時までにでるか9時過ぎに出ればいいでしょ」


おいおい・・・

これは想像以上に厳しいぞ・・・


「夜は最悪何とかするとしても朝はせめて8時に出させてください」

「無理ね」

「どうしても?」

「ええ」


こりゃダメだ

少なくともこれを毎日は気が狂う

決めた。どうせ断ったら退職だ。なら、とことん戦ってやる!!

俺は一呼吸おいて


「すいませんが、その条件なら私は住めません」


眉をぴくっと動かし、会議室で見せた時よりも冷えた目で俺を見てる


「女性は何かと時間がかかるのよ。その辺りは考慮してくれてもいいんじゃない?」

「そちらに関しては、最大限考慮しますが、9時まで外に出れないのは業務に差支えが出る以上お断りするしかありません。」

「なら、交渉は決裂ということ?」

「いえ、せめて8時に部屋を出ることを許可していただきればと思います」

「だから、それが無理だって言ってるの!」


明らかにイラついてるな・・・

このままだと押し問答になるだけだ

とりあえず周りに振ってみよう


「藤堂さんも9時までは譲れませんか?」

「うちはどっちでもええよ。準備にそない時間もかからんし」


よし1票確保


「本庄さんは?」

「私もそんなに問題ないですね~」


おっこれはいけそうだぞ


「では、しr「無理です」」


まだ聞いてもいないぞ!


「わかった?一人でも反対がいる限りこれは譲れないわ。ちなみに私も9時までね」


ふむ

言い方は悪いが諸悪の根源はこの2人か

不知火さんのほうは心底男が嫌いなんだろうな

時間かかかる云々ではなく通男を毛嫌いしているから勘定で答えてるだけな感じがする

それと、吉祥寺さんはその不知火さんを守っているような印象を受けるな

不知火さんを見る眼が少し寂しげなのが気になるし

さて、どうしたもんか・・・


「今までの管理人はこのルールを守っていたわよ」

「だから退職したんでしょうね」


俺はわざと挑発的に話しかけた


「なっ・・・!?」

「普通に考えたら、おかしいのはわかるでしょう?6時~9時ですよ?6時まに出社しても会社は開いていません。かといって、9時まで無駄に部屋で過ごす意味が分からないです。しかも、歯磨きや髭剃りなどは洗面所でするのにそれも9時以降しかできない。というか夜もそうですか、トイレはどうするんですか?まさか我慢しろというんじゃないでしょうね?もし、そこまで言うならもはや軟禁ですよ」


一気にまくしたてる俺を吉祥寺さんがにらみつけてくる


「できない言い訳ばっかり並べてるんじゃないわよ!トイレなんてペットボトルでもなんでも使ってすればいいでしょ!?万が一トイレで鉢合はちあわせたらどうすんのよ!?」

「そんなもん鍵かけてりゃ問題ないでしょうが!てか二階だけ使えばいいでしょうが!」

「入ってますなんて恥ずかしくて言えないでしょう!」

「どの口が言ってるんですか!?そんな玉じゃないしそんな年でもないでしょう!」


その瞬間、空気が冷たくなった


まずい!


売り言葉に買い言葉でとんでもない失言ことをしてしまったぞ・・・!


「あんた・・・今なんて言ったの・・・」

「あ、いや、その」


俺はまともに言葉が返せない


「さっきまでの威勢はどこいったんや~」

「彩姫さんに年齢の話は禁句なのにねぇ~」

「・・・」


外野は黙っててくれよ!約一名は黙ってるけど!

目の前の美人の顔が般若のようになっている


「何?私が三十路だから馬鹿にしてるの?三十路は恥じらいがないとでも?三十路は人権がないとでも!?」


誰もそんなこと言ってないし三十路なんて一言も言ってないぞ!


「いや」


「何なのよ!?ちょっとばかし若いからってちやほやされて!あんた達もあっという間に三十路よ!ざまぁないわね!」


もはや俺ではない誰かに向かって切れている


「いろいろ溜まってるんですね・・・」

「せやね・・・」


藤堂さんとしみじみしてしまった


「て、ことであんた!さっきの条件でここに住みなさい!拒否権はなしよ!」

「わかりましたよ・・・1週間それで我慢します」

「わかればいいのよ。さ、少し遅くなったけどご飯にしましょ。あんたは管理人室よ」

「わかってますよ、お湯だけもらいますね。」

「40秒だけ待ってあげるから何とかしなさい」


このくそアマが・・・!?

とも言えず俺はお湯をあきらめ外出することを決意した


「しっかし、何なのよあいつは」


ぶつくさと言いながら彩姫さんは晩御飯の用意をしている

どうやら彩姫さんは先ほどの話し合いの件をまだ納得いっていないみたいだ


「まぁまぁ、ええやないですか。今までのやつらと比べたら全然ましやと思いますけどね」


藤堂さんはわりと気に入ってるみたいだ

そんなイケメンでもなかったのになんでだろ?


「私もよかったと思いますよ~。あの人、社内でも評判いいみたいですし~」


本庄さんもいつものおっとりした感じで肯定的な意見を述べている


「あんな反抗的な奴のどこにいい要素があるっていうの」

「年のこと言われて怒っとるだけやん・・・(小声)」

「あん!?美鈴は何も食べたくないようね?」

「ひぃ~!!堪忍して~な~!」

「クスクス」


私は思わず笑ってしまった

それを見た彩姫さんが恥ずかしそうにしている

美鈴さんはニマニマしている

本庄さんもいつもの笑顔だ


晩御飯を食べ終え、みんなでシュークリームを食べながら今後の話し合いをする


「さて、どうする?あいつをここに住まわせるのかどうか」

「さっきも言ったけどうちは賛成。てか、住んでもらわんとあかんし。」

「そうですね~。なので、私も賛成で~」


やはり二人はあの男性に対して好意的な意見だ


「ただ、葵ちんが大丈夫ならやけどね。葵ちんが無理なら別の方法を考えよ」

「ですね~。ここでみんな仲良く暮らせてるのは葵ちゃんのおかげですし~」


二人の言葉に私は泣きそうになった

純粋に二人の言葉がうれしかった


「葵・・・?どう?」


彩姫さんがいつもの優しい表情で聞いて来た

私は・・・・


「住んでも・・・」



はぁ~・・・・

牛丼屋で飯を食べた後、駅前をぶらついてゲーセンを冷かしていると、

携帯が震えた

名前はなく番号だけだ

いつもなら出ないんだが、今日はいろいろとあったのでその関係かと思い電話に出ると


「出るのが遅い!」

「す、すいません!」


反射的に誤ってしまった


「ほんとに・・・で、あんた今どこにいるの?」


この声と話し方は吉祥寺さんだろう

まず名前を名乗れよ・・・


「今は駅前にいます」

「ならすぐ帰ってきなさい。あっ、シュークリーム買ってきてね」


何なんだよこの人は・・・


唯我独尊ゆいがどくそん過ぎるだろ・・・


「承知しました」


しかし、抗あらがえないのまた事実・・・・

シュークリームを人数分+α購入し帰宅すると、

リビングに連れていかれた

皆、勢揃いだ


「さて、あんたの処遇だけど」

「はぁ」


何で向こうに決定権があるみたいになってるんだ?


「とりあえずここに住むことは認めるわ。ただし、さっきも言った条件は厳守すること。一点を除いて」


認めるも何も誰かが住まなきゃならんのだが

で、何が変更になるんだろう

俺が黙っていると


「トイレの時のみ部屋を出ることを許可するわ」

「そこかよ!」


思わず突っ込んでしまった


「ぶふっ!くくく・・・」


藤堂さんが腹を抱えている

本庄さんも俯いて肩を震わせている

しかし、やはりというかなんというか不知火さんは特に反応はない

若干顔が赤い感じもするが


「何?何か文句あんの?」

「いや、もう何でもいいですが・・・」

「じゃあ正式にここの住民に「ちょっと待った!!」」


まさかの発言に思わず話を遮ってしまった


「・・・何?」


吉祥寺さんが明らかに不機嫌だが関係ない


「いつ私が正式にここに住むといいましたか?あくまで1週間の約束です。1週間住んでみて今後のことは検討させてい頂きます」


ここで流されるわけにはいかない

ここで流されると今後何があっても向こうに決定権があることになる

そうなると退職者たちと同じ道をたどることになる

それだけは回避せねば


「・・・何が不満なの?」


あの表情だ

前回はあの表情に騙されたが2度目はないぜ!


「い、いや、そのまぁ、何と言いますか・・・」


くそう!

頭では理解してても心が!


「・・・」


吉祥寺さんがじっと俺を見ている

藤堂さんも本庄さんもだ

唯一不知火さんだけが下を見て俯いていた

俺は一度深呼吸すると


「現時点で不満があるとすれば朝の6時~9時までが部屋から出れないことです。それに伴い、19時まで職場にいることになるので、必然的にここに入れるのが24時を過ぎてからになります。さすがにこの条件で年間通して住むのは不可能です。1週間くらいなら我慢はできますが」

「なら、最初からずっと住む気はないということ?」

「全くないわけではありませんが、条件が変わらない限り期間限定になるかと」

「そう・・・・では、なぜ1週間限定で住もうと思ったの?」

「ここまでの条件は想定外だったからです」


本当はあなたの表情に騙されたからですがそこは黙っておこう


しーん・・・・


リビングが静まり返っている

このままずっと静寂が続くのかと思ったが、

意外にもすぐにその時がきた


「うがー!!どないすんの!?とりあえず聡は住むん?住まへんの!?」


藤堂さんが切れた


「住みますよ。とりあえず1週間」

「ほなそれでええんちゃうん?いったんここで手打ちにして1週間後また考えたらええやん!」


これだけ聞くと問題を先延ばしにしているだけに聞こえるが、

実際この手が現状の最善と俺は思っている

実際住んでみないとわからないこともあるだろうし


「問題を先送りにしているだけで何の解決にもなっていないようにも思えるけど?」

「じゃあ彩姫さんは何かええ案でもあるんですか?」

「・・・」


そうだろうな

現時点で俺を説得できていない以上、策はないはずだ

吉祥寺さんが悔しそうに恨めしそうに俺を見ているが見て見ぬふりだ


「では、当初の予定通り1週間よろしくお願いします」


頭を下げ、俺は自室に戻ろうとすると


「シュークリーム置いてきなさい」


ここでそれを言うのかよ・・・

俺はあきれながら「どうぞ」と手渡して今度こそ自室に戻っていった


俺は自室に戻りとりあえず布団に寝転がって今後のことを考える

わけではなく、スマホを手に取りアプリを起動した


「オーシャンドライブリング」略して「ODR」


うちの看板MMORPGである

このソフトはPCユーザーとアプリユーザーが同じステージで遊べる

PCだけのMMOやアプリだけのMMOは腐るほどあるが別々のハードで同じように遊べるソフトは数少ない

俺は本来PCで楽しんでいるがさすがにデスクトップPCはここに持ってきていない

なので、いつもと少し使い勝手が違うがゲームを楽しむことにした

所謂いわゆる現実逃避だ

リリース当初からやっているゲームで、課金もしているのでそれなりに強いはず

その理由の一つが所属しているギルド「パイルバンカー」だ

俺の所属しているこのギルドはギルド戦で10位以内を逃したことが無い

その中で俺はタンク職のリーダー的存在として日々メンバーの盾となり奮闘している

決してドMではない

キャラネームは「ソウ」名前を単純に音読みしただけ

特によくパーティを組むのが魔導士のブルーム、拳闘士のレミー、回復士のジョーカー、聖騎士のジョージだ

俺とジョージは男キャラ、他3名が女キャラなので残念ながらハーレムではない

まぁ、ネトゲなのでネカマかもしれないが


「さて、誰かログインしている人はいるかなっと・・・おっ、ブルームがいた」


ブルームは初期メンバーで俺が最もよく話す相手だ

おいす~とモーション付きで軽く挨拶するとブルームもおいす~と返してくる

何をしているのか聞くと暇だったからインしただけとのことだったので、

俺も似たようなもんなのでしばらく個チャ(個人チャット)で雑談していた


「B:今日すごいトラブル続きで狩りに行く元気もないんだよね~」

「S:俺も今日は仕事絡みでてんやわんやだったわw」

「B:お互いしんどそうだねw」

「S:だなwしかし、スマホだと入力に時間かかわるわ」

「B:あれ?珍しいね。ソウが夜にスマホでやるの」

「S:ちょっと諸事情でな。1週間もすりゃPCでできると思う」

「B:そうなんだ。そういえば1週間後くらいからイン率下がると思う・・・」

「S:どした?家を追い出されるとかか?w」

「B:それに近いかな・・・・」

「S:おいおい・・・まじかよ・・・何かあったのか?」

「B:逆・・・かな・・・何もしてないから・・・かな・・・」

「S:う~ん・・・リアルのことを聞くのはご法度はっとかもしれんがよかったら話してみ?もちろん個人名とかは伏せてな。ブルームと遊べなくなるのも嫌だしな・・・」

「B:・・・ありがと。私ね、リアルでも女なんだけど男の人が苦手、というか怖くて・・・今すんでるところは女性だけだし趣味も一緒だから凄い楽しいの」

「S:いいことだな。その中の誰かと喧嘩でもしたのか?」

「B:ううん。実はその家がおじいちゃんの家なんだ。住んでる理由は男性になれることとコミュ力向上なんだ。だから、防犯も含め男性を一人管理人のような感じで置けって言われてるの」


ん?


「B:で、今まで何人か住んでもらったんだけど、そのうちの何人かがちょっと警察沙汰になっちゃったりしてさ・・・余計に男性不振になって・・・・」


おいおい・・・マジかよ・・・


「B:でね、今日新しく住むかもしれない人が来たんだ」


まさか・・・・


「B:その人がすごい面白い人なの!私のお姉ちゃん、、というかお姉ちゃんみたいな存在の人と漫才みたいに掛け合いしてる時、思わず笑いそうになったのw」

「B:でも、お姉ちゃんが私のこと心配してくれていろいろ住む条件を付けたんだけど、その人はそれが厳しすぎるって言って、とりあえずお試しで1週間だけ住むことになったんだ」


ビンゴだよ・・・

むしろビンゴすぎるだろう・・・

この話し方と状況からしておそらく不知火さんだな・・・・

お姉ちゃんは吉祥寺さんのことか

てか、意外にも俺好印象だな


「B:あっ!ごめんね。一方的にしゃべっちゃって・・・」

「S:んにゃ、別にいいよ。話したほうがすっきりするだろうし。ちなみに、ブルームはその人と住むのは反対なのか?」

「B:うーん・・・今までの人とは全然違う感じがするんだよね・・・なんていうかいい人って感じw」


いい人か・・・・

今まで幾度となく言われ続けた言葉だな

あなたはいい人なんだけど・・・ってな!!


「S:そっか。ならその人でリハビリしてみたら?」

「B:リハビリ?」

「S:男性恐怖症の」


2階からガタン!って音が聞こえた


「B:そ、そんなの無理だよ!相手にも悪いし、、、それに何より相手は私のこと快く思ってないし・・・」

「S:なんで?何か言われたの?」

「B:ううん。でも住むときの条件の時に私が原因って気づいてたっぽいし・・・」


気づかれてたのか!?

まぁ、人というより男性の目線や雰囲気に敏感なのかもな


「S:確証もないし一度聞いてみたら本人に。」

「B:無理だよ・・・そんなの・・・第一男性が目の前に来たら、なんて話せばいいかわかんないから冷たい反応になるし・・」

「S:そっか・・・チャットなら大丈夫なのになw」

「B:チャットとかは相手が見えないし・・・てか、ソウは男なの?」

「S:そだよ。よくいい人って言われるよw」


ちょっとヒントを出してみた

これで気づくなら大したもんだが・・・・


「B:・・・ソウって最近人事異動とかあった?」


こいつエスパーか!?

コ○ン君もびっくりの名推理だぞ!?

どうする?ここはゲロったほうがいいのか?

それとも隠し通すべきか!?

そうこう考えてると電話が鳴った


「時任先輩ときとうせんぱい」


先輩からだ


「お疲れ様です。どうしましたか?」

「いや、仮住まい初日を元気に過ごしてるかなと思ってな」


なんていい人なんだ・・・


「何も問題はないですと言いたいところですが、何かと制約が多くてきついっすね。多分、1週間で根を上げる可能性が高いです」

「そんなにか・・・」

「朝6時~9時と夜19時~24時までトイレ以外部屋から出るの禁止ですからね」

「牢屋じゃねぇかよ・・・まぁ、1週間といわず本当に辛かったら連絡しろよ。何とかしてやるから」

「ありがとうございます。万が一があればその時はよろしくお願いします。」

「おう。じゃあ頑張れよ。」


本当になんていいひとなんだ・・・

電話を切ってアプリを再開しようとすると


コンコン


俺の部屋のドアがノックされた


「!?!?」


なぜ俺の部屋がノックされている!?

・・・・そうか!

俺から外に出たりするのがNGであって向こうはいいのか!

何て理不尽なルールだ!


「・・・・あの・・・・いらっしゃいますか?」


この声は不知火さんか・・・

俺は居留守を使おうかと思ったが無意味すぎるので諦め、返事をした


「はい。どうされましたか?」


すると、まさかの発言が飛びだした


「部屋、入ってもいいですか?」


な、何を言っているんだこの娘こは!?

さすがに、それはいろいろとだめだろう!

万が一ばれたら吉祥寺さんにぶっ殺されそるぞ!?


「えっ、あっと、さすがにこの時間に女性を部屋に入れるのはちょと・・・・」

「・・・入ってもいいですよね?」


こ、こえぇ・・・なんちゅう冷たい声だ

吉祥寺さんとはまた違った怖さだ

しかし、ここでいれるわけには!?


「いや、ですか「入りますね」」


抵抗むなしくドアを引かれ俺はいつもの無表情の不知火さんと相対あいたいした

部屋に入ると俺の向かいにある座布団の上で正座をしている


・・・・・・


無言で時間だけがが過ぎていく

な、何だこの気まずさは

話すとぼろが出そうだからあまり話したくないが、ここは俺から話すしかないか


「あ、あの、、、本日はどういったご用件で・・・」


あまりの恐怖に完全に腰が引けている


「・・・山口さんってODRやってますよね?」


なぜ断定しているんだ


「まぁ、社員ですし・・・」


まぁ、社員でもやってないやつも多いけどな


「・・・ギルドに所属してますよね?」


何だこの尋問は・・・

少しずつ追い込んでいくスタイルか!?


「一応所属していますが、所属しているだけでそこまで活動はしてないですよ。ログインだけはしてますが」


完全な嘘である


「・・・」


うわぁ・・・

ここにきて無言で見つめてくるのはダメだろう・・・

可愛すぎる、ではなく、プレッシャーが半端ない


「スマホ見せてください」


ビクっとなった

これはあれか?不倫が見つかった旦那なのか?

あいにく俺は浮気や不倫ができる甲斐性なんか皆無だぞ!


「さすがに個人情報の塊なのでそれはちょっと」


我ながら無難な回答だ


「じゃあODRを起動してから見せてください」


くっそ!完全に黒と思ってやがる!


「あまりキャラとか見せたくないので」

「見せてください」

「ですか「見せて」」


だから、何なんだよそのプレッシャーは!?

年下だろ!!

いや、待てよ・・・

アプリを削除すれば!!


「アプリ消したらわかってるよね?」


詰んだな・・・

俺はすべてを諦め白状することにした


「多分不知火さんが想像している通りですよ」


俺がそういうと不知火さんの顔が真っ赤になった

なぜだ?


「じ、じゃあ【ソウ】が山口さんなの!?」

「そうだよ」


あ、いや親父ギャグを言ったつもりではないよ


「そ、そうなんだ」


不知火さんも自身が放った親父ギャグには気づいていないようだ

下を向き俯いている不知火さんをしばし鑑賞していると

おもむろに立ち上がった


「リビング行こう」

「・・・私もですか?」

「うん」


拒否権はないのだろう

俺は不知火さんの後に続いて鬼がいる部屋へと足を運んだ・・・


ガチャリ


ドアを開けるとみんなリビングでおもいのままくつろいでいた


「あら、葵どうし・・・・」


吉祥寺さんが固まっている

藤堂さんも本庄さんもあまりの驚きに口が半開きだ

なぜなら、不知火さんの後ろに俺がいたからだ


「お姉ちゃん、この人を管理人にしよう」


ん?

今このはなんていった?

しかもお姉ちゃん??


「あ、葵?それはさっき断られたんだけど」


そうだ!その通りだ!

俺は心の中で断固抗議中だ

そしてお姉ちゃんの部分はスルーなんだな


「それは条件がある場合でしょ?条件を無くせばいいんじゃない?」

「「ちょっと待った!」」


俺と吉祥寺さんの声がきれいにハモった


「どうしたの!?こいつに何か弱みでも握られたの!?」

「なっ!?失礼な!!この短時間でそんなイベント起こるわけないでしょう!」

「うっさいわね!信用できるわけないでしょう!うちの葵に何したの!?白状しなさい!警察に突き出してやるから!」

「だから何もしてねぇって言ってんだろうが!そもそも俺が何かした前提で話を始めるのがおかしい!」

「だからそれが信用できないって言ってんのよ!葵は男嫌いなのよ!それがあまつさえあんたみたいなモブキャラ連れて管理人にするなんて提案持ってくるわけないでしょう!」

「誰がモブキャラだ!!俺がモブならあんたは婚期逃して後輩にねちねち絡んでくるお局様だろう!」


瞬間空気が冷たくなる


あっ・・・・

またやってしまった・・・・

気のせいかさっきより圧倒的に空気が冷えている


「・・・そう・・・どうやら物理的にも精神的にも死にたいようね・・・」


うん。これは殺されるわ

吉祥寺さんがまた般若へと変貌していく

死を覚悟した俺はゆっくりと目を閉じようとしたとき


「ぷっ・・・!くすくす・・あはは!」


お腹を抱えて笑っている藤巻さんが目に入った


「あ、葵?」

「モ、モブキャラっ・・・お、お局様・・・・ぷふっ」


どうやら俺と吉祥寺さんの言い合いがツボにはまったらしい

俺と吉祥寺さんはその笑いに気がそがれ言い合いをやめ床で笑い転げている藤巻さんを見ていた

ようやく藤巻さんの笑いが収まり、みんなダイニングテーブルに座っている


「・・・で?何がどうなったの?」


吉祥寺さんが俺を見ているがその質問は俺も聞きたい

俺が首を振ると不知火さんが


「や、山口さんは今までの人と違うと思ったから大丈夫かなって」


まだ少し笑っている


「なんでなん?」


藤堂さんが聞いてくる

隣で本庄さんも頭の上に?マークを作っている

不知火さんが俺を見てくる

『言っていい?』と言う目だ

俺は諦めた表情を作って頷いた


「あのね・・・ODRあるでしょ?山口さんもやってたみたいで」

「???」


?マークな般若きちじょうじ


「実は同じギルドに所属してて・・・」

「「「はぁ!?」」」


うおっ!?全員が俺を見て驚いている

なんなんだ一体


「で、私がみんな以外で一番仲良くしているのが・・・その・・・山口さんで・・・さっきもODR上で今日のこと相談してて」


ん?

ちょっと聞き捨てならないセリフがあったぞ

今度は俺が3人を見る

その目を見ておれは確信した

この人たちも同じギルメンだと


「・・・じゃあ、もしかして聡君が【ソウ】さんなの~?」


俺は無言でうなずく


「ほんまかいな・・・こんな偶然あるんか・・・」

「にわかには信じがたいけど・・・」

「私もまさかとは思いました・・・不知火さんと個チャで話してるとどこかで聞いたことがあるシチュエーションだな、とは思っていたのですが詳しく聞いていくと、あっ・・・これ・・・って」

「私もびっくりしちゃって心臓が止まるかと思った」


どうやらODR上では


ジョージ➝吉祥寺さん


レミー➝藤堂さん


ジョーカー➝本庄さん


だそうだ

しかし、まさか初期メン5名がここにいるとか世間狭すぎだろう


「まぁ概ね事情は分かったわ。あんたもなぜルールができたかは理解したかしら?」

「そうですね。概ねは」


ようは男嫌い、ともすれば男性不信の不知火さんがいる以上、接点を無闇に作るわけにはいかないということだろう


「まぁ、葵は可愛いからね。そういう標的にされやすいのよ。あんたみたいなモブキャラにね」


ふふんと笑う吉祥寺さんを見て思わず言い返そうとしたが何とか冷静になり


「私が狙うなら吉祥寺さんにしますけどね。中身はあれですが最高に美人ですし。しかもスタイル抜群で家事全般もできる。パーフェクトウーマンじゃないですか。中身はあれですが」


「な、、、、中身があれってど、どういうことよ!もう!・・・」


吉祥寺さんが顔を真っ赤にしている

あれ?この人可愛すぎないか?

ふと、隣から冷気を感じて見てみると藤巻さんがジト目で俺を見ていた

姉がたぶらかされているので怒っているのだろうか?


「と、とりあえず、今後のことを話し合いましょう」

「えっ?聡が住むことに決まったんちゃうん?」

「私もそう思っていました~」


おいおい。勝手に決めるな


「さすがに何の条件もなく住まわせるのはダメでしょう?」

「うちは特に問題なし」

「私も特に問題ありませんね~。ラッキースケベイベントが起こったときは・・・ですけど~」


あの間は怖すぎるだろう

ラッキースケベなんてお互いが気を付けていれば早々起こらんし、

俺はそんなギャルゲーの主人公みたいな特殊能力はない!


「私も特に・・・問題ないかな」


不知火さんもないのは意外だな


「葵、あんたほんとに大丈夫なの?四六時中こいつと同じ場所にいなきゃなんないのよ!?」


ひどい言い草だな


「そもそも私が住む前提で話が進んでいるのですがその件は?」

「えっ?だって聡さっき言ってたやん。条件が緩和されへん限りここに住めへんって。それって条件がなくなったら住むってことやろ?」


ちげえよ!住むかどうかを考えるだけだよ!と言いたいところだが、

ニコニコしている不知火さんを見ているとどうでもよくなった


「まぁ、、、別にいいですが」


キッと吉祥寺さんが俺をにらんでくるが無視だ無視


「・・・わかったわ。ただしお風呂や洗濯とかは時間を決めておきましょう」

「そうですね。あまりに理不尽でなければ大丈夫です」


またもやキッっと俺をにらんでくる


「まぁいいわ。今日はもう遅いし明日また話し合いましょう」


みんな頷いて今日は解散だ

部屋に帰った俺は日付が変わった後お風呂の許可を得てシャワーを浴びて速攻布団に入った

さすがにいろいろあって疲れていたらしく一瞬で意識が沈んだ

朝、起きてとりあえず部屋を出てリビングに行こうとするとネグリジェ姿の本条さんを遭遇した


「おはようござ・・・」


寝ぼけ眼の俺は完全に覚醒した

そうネグリジェなのだ

ギリギリ突起している部分は見えていないが他は透けている影響でほぼ丸見えだ


「あっ、いや・・・」


本庄さんはにっこりとほほ笑んで、

思いっきり振りかぶった


その後出勤した俺に富倉さんが一言


「その大きなもみじはなんだい・・?」

「フラグ回収です・・・」


頭に?マークが出ている富倉さんをよそにもくもくと仕事にいそしんだ



とりあえず住むにあたって決まったルールは当初突き付けられたものより大幅に改善された

何より時間制限がなくなったことが一番大きい

お風呂と洗濯に関しては全員が利用した後、吉祥寺さんから連絡が来る仕組みだ

食事に関しては食費さえ払えばみんなとご飯を食べていいらしい

俺は別にどっちでもよかったので部屋で食べときますと答えたが

藤堂さんと不知火さんの反対によりみんなと食べることになった

藤堂さんはワイワイ食べるのが好きなんだろうが

不知火さんは意外だったな・・・

まぁ俺を男嫌い克服の練習台に使うつもりだろう

概ねルールも決まり俺は新生活をスタートした


~1週間後~


幸か不幸か特に何のトラブルもなく1週間が過ぎた

たまに吉祥寺さんと言い合いになるがそれくらいだ

そして今夜、今後の話し合いが行われようとしていた

全員がリビングに集まっている

いつものシュークリームを食べながら和やかに話し合いは始まった


「さて、もう決まってるけど念のため1週間経ったから確認だけど、これからも住むんでしょう?」

「う~ん・・・そうですね・・・」


俺が即答すると思っていたらしく皆が少し驚いた目で見てくる


「何か問題でもあったん?うちらが見てる限りでは楽しそうに過ごしとったと思うけど」

「そうね~。特に問題ないように見えたけど~」


実際大きな問題はなかった

料理も出てくるしある程度の自由もある

ただ、ある程度なのが問題なのだ

正直、料理以外でここに住む理由が無いのだ

別にコンビニ弁当でも外食でも食事はどうとでもなる

何より、ぶっちゃけ一人のが気楽でいいのだ

わざわざ気を使いながらプライベートを過ごす理由がない

俺がどう答えようか迷っていると


「なんで・・・?」


今まで何も言っていなかった不知火さんがポツリと漏らした

全員が不知火さんを見る


「なんでダメなの?私何かした?困らせるようなことした?ううん。私だけじゃなくてここの皆は山口さんに何かした?」


涙目で息を切らしながら早口でまくし立てている


「あっ、いや」


俺がしどろもどろになると不知火さんを除いた3人が俺を三者三様の目で見てくる

吉祥寺さんからは『何、私の妹を泣かしてくれてるんだ?あぁん?』と般若モード一歩手前だ

藤堂さんは『責任とりや~』とにやにやしている

本庄さんは『あらあら~、うふふ~』とにこにこと楽しそうにしている

俺は2人の表情を見たあと覚悟を決め不知火さんに話しかけた


「不知火さんを含め皆さんが私に対して何かをしたということはありません。悩んでいるのは私自身の問題です」


不知火さんは俺をじっと見て話しを聞いている


「単純に私自身がここまで毎日気を使いながら生活することに耐えれるのかなということです」

「1週間で何を言ってるんだと思うかもしれませんが、その1週間でも私が想像する以上にしんどかったです。やはり女性が4名住んでるところですから、常に気を遣うのはさすがにしんどいです」

「プライベートの時くらいゆっくりしたい。というのが私の本音です」


これは俺の本心だ

後はみんながどう反応するかだが・・・


「そんなに気をつかわせてたかしら・・・?」

「うちもそんな気をつかってなかったと思うんやけどな・・・何やったら今まで一番『素』で過ごしてたんやけどな~」

「私もね~。初日こそあれがあったけど、それでも今までで一番良かったかな~」


「その節は本当にすいませんでした!」


即座に誤った俺を見て本庄さんはいつもの笑顔でもう気にしてないよ~と言っている


「・・・葵は?」


俺もだが吉祥寺さんも一番気になってるだろう相手だ


「私は・・・私は・・・」


少しの静寂の後、驚愕の言葉が続いた


「・・・山口さん以外はやだ」


「へっ?」


思わず素っ頓狂な声をあげてしまった

待て待て!勘違いするな!そう意味じゃないぞ俺!

3人がさっきのような目で見てくる


「ま、まぁODRのこともあって話しやすかったってのもあるんだろうけど」

「それだけじゃないもん」


待て待て!

ほら!吉祥寺さんが般若になってるって!


「何がそんなによかったん?」


おい!絶壁娘!いらん事を聞くな!


「これってのはわからないけど、何か安心できるから・・・」


まぁ俺は人畜無害じんちくむがいだからなぁと遠い目をしている


「そうなのね~。葵ちゃんがそんなに安心できる人なんだったら私たちも安心できるのにね~」


にこにこしながら俺の逃げ道をふさごうとするな!ゆるふわネグリジェ!


「し、しかしですね、先ほど言ったように私が気を遣うんですよ!」

「そんなに私のことが嫌なんだ・・・」


不知火さーん!!誰もそんなこと言ってないだろ!てか、泣くな!

般若が!もう目線だけで人が殺せるくらいになってるから!


「かわいい年下の女の子泣かしてでも、自分の事を優先とかどうなんそれ〜?」


にやにやしながら俺を非難する絶壁娘


「で、どうするの?」


般若もとい吉祥寺さんがものすごい威圧感を放ちながら聞いてくる


「いや、あの、それは」


ちくしょう!どうすりゃいいんだ!?

何か切り返す方法は無いかと必死に頭を回転させる


「ほら~男らしく~」


このゆるふわめ!


「・・・」


俺が黙っているととどめの一撃が飛んできた


「・・・・・・・ダメ?」


潤んだ瞳の藤巻さんが上目遣いで聞いてきた


「・・・だめじゃ・・・ないです・・・」


これを断れる男がいたらここに連れてきてほしい

しかも隣には般若の姉がいるんだぞ


「ほんとに・・・?」

「はい・・・」

「ほんとのほんと?」


しつこいな!

こっちはもう諦めて腹を括ったつーのに!


「いましつこいなこいつって目で見てきた・・」


また泣きそうになっている

だからお前はエスパーかよ!


「あんた、また泣かして・・・わかってるでしょうね?」

「鬼畜やな〜」

「女の敵ね〜」

「あぁ〜!もう!住みますよ!住めばいいんでしょうが!?」


若干やけになって叫んだ

すると、さっきまで泣いていたはずの不知火さんがニコッと笑い


「やった〜!」


と立ち上がった

他のみんなもにやにやしている


ま、まさか・・・


「・・・はめられました?」


恐る恐る聞くと


「はめたなんて人聞きの悪いこと言わないでくれる?交渉した結果よ」


ふふんとドヤ顔で笑っている吉祥寺さん


「そやで〜。聡が自分から住むって言うたんやから」


といつものにやけ顔の藤堂さん


「そうよね〜」


それに乗っかってにこにこしている本庄さん

そして、今まで見たことのない笑顔で俺に近づいてくる不知火さん


「これからよろしくお願いしますね。さん!」


手を差し伸べてきた

俺はその手を握り替えし、力なくこう返事した


「よろしくお願いします・・・」


こうして俺の波瀾万丈のシェアハウス生活は始まった


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