悪いのは私のせい
私に優しく笑いかける。
私に優しく声をかける。
私に優しく
この世界に存在する誰よりも私を優しく
けれど私はそれだけじゃ満足できない。
君の恋人にはならない。
私が少し
綺麗なだけのものが嫌い、
自由が嫌だ、
そうでなくては愛を感じられない。
愛されてるって実感できない。
つまりね、私は好きな人にはヤンデいてほしいということなの。
友人と楽しそうに笑い合う。
「それでね、みんなで飲みに行こうかなって思ってるんだけど一緒に行くでしょ?」
半年も一緒にいれば彼女が何を言わんとしているのかわかる。
その飲み会にたぶんお目当ての高スペック男でもいるんだろう。
私にアシストでも頼みたい、といったところかな。
女っていうものはその手の話が好きだからね。
まったく興味はなかったけれど、あえて
それにやり方によっては自分にとっても悪い話じゃないかもしれない。
私はどうしようかと困ったように
「う~ん……行きたい気もするけど、行っていいよって言ってくれるかなぁ」
「ダメだよ」
頭を悩ませる
君の声だ。
今の会話を聞いていたんだ。
そばにいたんだ。
私が思う以上にいいタイミングだった。
私に降り注いだ君の声は特に強い口調では言わなかった。
けれど私に
私に命令するような、
それが私をひどく
そんな私の心など知りもしない君は驚いた表情を見せる私に優しく
「え!?いつのまに来てたのー!?」
私は驚いて大きな声をあげた、ように見せた。
でも本当は嬉しくてニヤけそうになっていた。
私の
「ほら、ケーキ買いに行くんでしょう?早く行かないと食べてみたいって言ってたケーキ、売り切れちゃうよ?」
そう言って私のバッグをひょいと持ってくれて私に手を差し伸べて立たせてくれる。
まるで王子様のように。
「そうだった!ごめーん、先に帰るね!……飲み会もやっぱりダメだって。誘ってくれたのに本当にごめんね!」
「いやいや、謝ることじゃないよ、大丈夫。……でも彼氏さんも心配もあるかもしれないけどたまには彼女にも息抜きさせてあげてね?」
友人が少し残念そうに、けれどこちらを気にかけてそう言った。
「彼氏じゃないです」
君は目の前の友人を
私は少し目を見張った。
テーブルに置かれた私のスマホを手に取って話は終わりだと言わんばかりに帰り
「は?恋人でもないのになんであんたがこの子のことを決めてんの?あんた何様のつもり?」
私をかばうように詰め寄る友人の言葉にも君は
そして周りを無視するかのようにこちらに顔を向けて君はニコリと微笑みかけて私の手を引く。
「行こう。時間を無駄にしたくないからね」
君に手を少し強めに引かれ軽く体勢を崩し引きずられるように君についていく。
強引な君に心を踊らせながら友人に手を振る。
「ごめん!また明日ねぇ!!」
あぁ、きっとこれでお別れだね。
だってきっと私は君に怒られちゃうから。
半年か、けっこう続いちゃってたな。
次はもう少し早くてもいいよ。
だから、バイバイ。
少し歩いてから、君が少し足取りを
「ねぇ、どうして悩んだの?」
君の言葉に不思議そうな顔をしてみせた。
君が何を言いたいのかまるでわかっていないみたいに。
「飲み会のこと。行きたい気もするって言ってたよね?行きたかったの?」
やっぱり聞いてくれてたんだね。
「あ、それは友達がわざわざ誘ってくれたから」
「顔のいい男でもいた?」
どうでもいいし、興味ないよ。
「え?いや、わかんない。飲み会のメンバー、誰がいるのか知らないから」
「俺に行ってもいいよって言ってほしかったの?」
君は言わないでしょう?
わかってる、信じてる。
怒ってる、怒ってくれてる。
あぁ、愛されてる。
胸を
君の冷たい目を向けられれば、その愛がもっと強く実感できる。
「俺、あの人、嫌だな」
待っていた君の言葉に顔を上げる。
嬉しい。
まだ足りないけど愛を感じるよ。
思わずニヤけてしまう。
「……もうあのこに近づかない」
私がそういえば君は簡単に許してしまうけど、もう何度目なのって
それだけ何度もこんなやりとりをしているっていうのに君はすぐに許してしまう。
あと一歩が足りないんだよ。
もっと愛をちょうだい?
純粋で優しく可愛らしい弱い君。
そんな君が大好きだから。
だからまた私は許してしまう。
何度目だなんて
「わかってくれたならいいよ。ごめんね?」
君が優しく微笑めば子犬のように君に飛びつく。
そして君の胸に顔を
いつものように君は私の髪を優しく
「ケーキ、買いに行こうか。
もちろんケーキとは別にね?と君が笑いかけてくる。
何も買ってくれなくていいよ。
君の
愛をくれればそれだけでいいんだ。
でも私が笑ってみせれば君は顔と心を
そんな君の手を強く引きながら足早に歩いていく。
まるでさっきの二人をそのまま逆さにしたみたいに君は少し体勢を崩し引きずられるように私についてきてくれる。
私の恋人にはなれないままで。
だって私は世間一般で言うヤンデレが好きなのよ。
だから探して、見つけたら
種を植えて、水をあげて
育てあげる、育ててあげる。
君の心が私好みになるように
君が堕ちてくれるまで。
二人はまだ恋人にはならない。
君が私に
焦がれてどうしようもなくなって
私から離れられなくなって
私なしで生きてなんていけなくなった時。
たとえば食事もお風呂も眠ることさえも
私一人ではさせられなくなった時。
君が心も
私しかいらなくなった時。
君が私に
やっと君は私だけを大好きな人になるの。
やっと私の恋人は完成するの。
ただのそこらに
君がこんなにおかしいのは
君がこんなに
君がこんなに
私のせい。
君が悪いのは私のせい。
君を狂おしく
望んだ君になるまで うめもも さくら @716sakura87
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