望んだ君になるまで
うめもも さくら
悪いのは君のせい
君に優しく笑いかける。
君に優しく声をかける。
君に優しく
この世界に存在する誰よりも君を優しく
けれど俺は君に好きだと伝えない。
君の恋人にはならない。
友人と楽しそうに笑い合う君が座っている。
「それでね、みんなで飲みに行こうかなって思ってるんだけど一緒に行くでしょ?」
友人にそう声をかけられて君は困ったように
「う~ん……行きたい気もするけど、行っていいよって言ってくれるかなぁ」
「ダメだよ」
頭を悩ませる
それは特に強い口調では言わなかった。
けれど君に
そんな俺の心など知りもしない君は振り返り大きな瞳を更に大きくして俺をみつめる。
「え!?いつのまに来てたのー!?」
君は驚いて大きな声をあげたがそこには怒りや不満はなくどこか嬉しそうでもあった。
俺は君の
「ほら、ケーキ買いに行くんでしょう?早く行かないと食べてみたいって言ってたケーキ、売り切れちゃうよ?」
俺はそう言って君のバッグをひょいと持ち君に手を差し伸べて立たせる。
「そうだった!ごめーん、先に帰るね!……飲み会もやっぱりダメだって。誘ってくれたのに本当にごめんね!」
「いやいや、謝ることじゃないよ、大丈夫。……でも彼氏さんも心配もあるかもしれないけどたまには彼女にも息抜きさせてあげてね?」
「彼氏じゃないです」
俺はその女を
テーブルに置かれた君のスマホを忘れていかないように俺が手に取る。
その時に横目で一瞬見えた女の表情はなんとも品がないものだった。
君とは大違いだ。
女は一度、目を見開いてから眉を寄せて
「は?恋人でもないのになんであんたがこの子のことを決めてんの?あんた何様のつもり?」
女は声を
俺は
そして君にニコリと微笑みかけて手を引く。
「行こう。時間を無駄にしたくないからね」
俺が君の手を少し強めに引けば軽く体勢を崩し引きずられるように俺についてくる。
「ごめん!また明日ねぇ!!」
まだ後ろでなにかを
俺はそれを無視するように君の手を引き大学を出ていく。
少し歩いてから、少し足取りを
そしてそんな俺の様子を不思議そうに見る君をみつめる。
「ねぇ、どうして悩んだの?」
俺の
俺が何を言いたいのかまるでわかっていないようだった。
「飲み会のこと。行きたい気もするって言ってたよね?行きたかったの?」
「あ、それは友達がわざわざ誘ってくれたから」
「顔のいい男でもいた?」
「え?いや、わかんない。飲み会のメンバー、誰がいるのか知らないから」
「俺に行ってもいいよって言ってほしかったの?」
俺が冷たい目を君に向ければ、君はあたふたしてしまう。
動揺して焦って困った表情の後、泣き出してしまいそうなほど
「俺、あの人、嫌だな」
君は俺の言葉にハッとした表情で顔を上げて俺をみつめる。
そして少し
「……もうあのこに近づかない」
君は何度だってそう言うけれど人を
その度、俺に促されてそう言う。
それだけ何度もこんなやりとりをしているっていうのに君はいつもその度にそんなふうに悲しそうな表情を浮かべる。
純粋で優しく可愛らしい弱い君。
そんな君が大好きだ。
だからまた俺は許してしまう。
何度目だなんて
「わかってくれたならいいよ。ごめんね?」
君に優しく微笑めば君は顔をぱっと明るくさせる。
そして小さな子供のように俺に飛びついてくる。
俺の胸に顔を
「ケーキ、買いに行こうか。
もちろんケーキとは別にね?と君に笑いかければ君は顔と心を
まるでさっきの二人をそのまま逆さにしたみたいに俺は少し体勢を崩し引きずられるように君についていく。
君の恋人にはなれないままで。
だって君に好きだと告げてしまったら
もしも二人が恋人になってしまったら
子供のような君は俺に飽きてしまうだろう?
君は満足してしまうだろう?
君は逃げていってしまうだろう?
だから俺は君に好きだとは伝えない。
二人はまだ恋人にはならない。
君が俺に
焦がれてどうしようもなくなって
俺から離れられなくなって
俺なしで生きてなんていけなくなった時。
たとえば食事もお風呂も眠ることさえも
一人ではできなくなった時。
君が心も
俺に
君が俺に
やっと俺はただの君を好きな男に戻れるんだ。
やっとただの恋人になれるんだ。
ただ恋人を愛しているただの男でいられるんだ。
俺がこんなにつらいのは
俺がこんなに苦しいのは
俺がこんなに寂しいのは
君のせい。
俺が悪いのは君のせい。
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