第15話  幸せを永久に


「リリー……」


姿を見るか早いか、リリアーナはフランシスの胸に飛び込んでいた。


「リリー?」


驚いたのはフランシスの方だった。

自分の姿を見て怒るだろうか?それとも泣き出すだろうか?罵倒を浴びせられ、物を投げつけられるかもしれない。いや、もしかたら頬を叩かれるかも?

たとえ何をされても甘んじて受け止めるつもりでいたのに、いきなり胸に飛び込んできたその少女は、背中に手を回し渾身の力でギュウギュウと抱きついてくる。

いつもは自分が抱きしめていたのに、いざリリアーナに抱きつかれると、彼女の力はこんなにも頼りないものだったのかと思い知らされる。


「リリー、ごめんね。君に辛い思いをさせてしまった。どんな罰も受けるから、どうか顔を見せておくれ。リリーの顔が見たい。頼む。」


リリアーナの肩の手をかけ、懇願するような切ない声をかけると、フランシスの背中に回した手を緩め、ゆっくりと体を離し顔を見上げ、


「フランシス様……」


リリアーナの瞳には涙が揺らぎ、瞬きで一粒頬をつたう。

フランシスはその涙の筋に唇を落とし、再び強く抱きしめた。


「リリー、もう離さない。二度と泣かさない。どうか、どうか僕を許してほしい。

リリーの側にいることを、愛することを許してほしい。お願いだ。」


「フランシス様、私はずっとずっとフランシス様をお慕いしています。フランシス様だけなんです。フランシス様じゃなきゃダメなんです。私の方こそずっとおそばにいさせてください。」


「リリー!」



いつの間にか誰もいなくなった部屋で、二人はしばらくお互いの勘違いを正し、思いを確認し合った。

お互いが唯一の存在なのだと確認するように、言葉を重ね、手を重ね、思いを重ねるのだった。




~~~~~~




妃教育終了後、いつものようにリリアーナとフランシスが部屋でお茶をしている。

フランシスに肩を抱かれ並んでソファーに座るリリアーナが突然座り直し、


「フランシス様・・・」


フランシスに真正面から向き合い肩に手を置くと、体を浮かせだんだんと顔を近づけてくる。


「え?ちょっ、待って、リリー?どうしたの?どうしたの?何かあった?」


慌ててリリアーナの両腕を掴み身体を離す。


「フランシス様。私色々と考えました。これからはフランシス様に似合うような大人な淑女を目指そうかと思っているんです。」


真剣な顔つきで言うリリアーナに、目を白黒させて驚くフランシス。


「え?大人な淑女?いや、いきなりどうしたの?」


「私は子供っぽくてフランシス様にはまだまだ不釣合いです。ですから、これからは行動で示し、少しでもフランシス様に似合うような、大人なしゅく・・・」


「待って!リリー。なんか勘違いしてない?僕に似合うのが大人な淑女なんて、誰かに何か言われたの?」


「いいえ、誰にも。でも、マリアンヌ様にはご相談しました。そうしたら、女は行動力だと。たまには自分から行動を起こすのも大事だとおっしゃっていただいて。」


「いや、それはまあ間違ってはいないというか、時と場合によるかもだけど・・・

でも、リリーにはそういうのはどうかな?無理することないよ。うん。」


「いいえ、私も少しずつ淑女らしく大人にならなければなりません。

それに、フランシス様は普段の様子から積極的な女性が好みだと聞きました。」


「え?僕が?そんなこと……それもマリアンヌ様から?」


「いえ、それはエミリーから。」


「あいつ……」

ギリギリと歯ぎしりが聞こえるくらいに苦悶の表情を浮かべる。


「ですから、これからは二人になった時は色々とご教授くださいね。」

ニコリとほほ笑むリリアーナに


「いや、そんなことまだリリアーナには早いよ。そうだ!前にも言ってたじゃない。

学園を卒業してからで十分だよ。ね?」


「それでは私がフランシス様に飽きられてしまいます。

私、今まで他の方たちのお話をお聞きすることがあまりなくて知らなかったのですが、他の婚約者同志はもっとスキンシップを重ねているとお聞きしました。そうでないと長い婚約期間中に浮気をされたり、気が変わったりすることもあると。

私、そんなのは絶対に嫌なんです。だから、少しずつで申し訳ないのですが・・・

よろしくお願いいたします。」


そう言って再びジリジリとフランシスの唇めがけてにじり寄るリリアーナ。


「いや、リリー。待って!それはダメだ!まだ早い!君にはまだ早い。無理だ!」


突然フランシスは立ち上がる。リリアーナが唖然とする中走り出す。

ドアを開け、廊下に飛び出し、一目散に逃げだすフランシスを呆然と見ていたが、は!っと気が付きリリアーナも後を追いかける。

ただひたすらフランシスの背中を追って走り出していた。


「フランシスさまーーー!待ってくださーーーい。」


「リリー!待って。君の思い違いだから。待って!来るんじゃない。止まりなさい!」


「フランシスさまーー!!待ちませーーん!フランシスさまーー!」




しばらく鳴りを潜めていたリリアーナとフランシスの追いかけっこ。


城内ではあの声が聞こえないと寂しいという声もチラホラと聞かれ始めた頃。

またしても叫び声とともに走る姿を見ることとなった。


ただ違うのは、追いかける側と追いかけられる側が逆転していること。



あんなに溺愛していたリリアーナからの積極的アプローチを受け、すっかり逃げ腰でヘタレ王子が露呈してしまったフランシス。

ホントは照れ隠しだったのだと気が付いていた女性陣にもて遊ばれ、しばらくはヘタレ王子の噂が王宮内を飛び交うことになる。


それでもリリアーナは相も変わらずフランシスを追いかけ続ける日々が続くのだった。



「リリー、待って!ストップ!!」


「フランシスさまーー!!待ってくださーーい」



そんな声を王宮中に響かせながら走り回る二人は、生暖かい目で見守られ続け順調に愛を育んでいった。


そして月日は流れ、どうなることかと心配する者をよそに無事挙式を済ませると・・・


初夜を境に、ピタリとその声も姿も見なくなってしまった。





その後王宮内では、第二王子とその妃がいつも仲睦まじく寄り添い、

明るい笑い声とほほ笑みをのせ、王宮内に幸せをばら撒く姿が見られるようになるのだった。



「リリー、愛してるよ。」

「フランシス様。私も愛しております。」



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攻めの第二王子。実はヘタレ王子でした。(こじらせた初恋物語) 蒼あかり @aoi-akari

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