第14話 兄の仲立ち
翌朝、ジョルジュが身支度を整えていると前触れも無しにフランシスが訪ねてきた。
前触れなしでの訪問などあり得ない話であるが、さすが王族を無下に帰すわけにはいかない。
身支度の途中ではあったが急ぎ身なりを整え父親とともに応接室に向かう。
父であるラルミナ侯爵には昨日の晩、ジョルジュから報告があった。
フランシスが先に待つ応接室に二人で入るやいなや、フランシスがすくっと立ち上がり、
深々と頭を下げて
「侯爵、ジョルジュ、この度のリリアーナ嬢に対する件は全て私が犯した過ちであり、いかようにも責めを与えていただいて構わない。
婚約する際の約束を忘れたわけでは決してない。
ただ、私は本当にリリアーナ嬢を愛している。その気持ちに今も変わりはないと誓える。
もう二度と、リリアーナ嬢を不安にさせたり泣かせたりしない。
どうか、どうか、チャンスをいただきたい。
そして、私にもう一度リリアーナ嬢のそばにいることをお許しいただきたい。」
王子ともあろう者が臣下の人間にこれほどまでに腰を折り、頭をたれ許しを請う姿は、とても他の者達には見せられないと半ば呆れた様子の二人。
「殿下、どうか頭をお上げください。まずは座っておちついて話をいたしましょう。」
侯爵の言葉にフランシスはおずおずと頭を上げ、二人の顔を見上げた後、着座する。
「昨日、話は聞きました。我が娘リリアーナも少しくらいのことで大袈裟に不安がったりしたところもあったようです。殿下ばかりが悪いわけではないと私には思えるのですが、どうですかな?」
「侯爵、リリアーナ嬢は決して悪くないのです。悪いのは全て私なのです。
私の子供じみた行いのせいで彼女を苦しめてしまった。反省しても反省しきれないのです。」
そういってフランシスは再び頭を下げる。
「いやいや、殿下はお忙しくていらっしゃる。少しばかり寂しい思いをさせられたからと言って、イチイチ気にしていたら妃としてやってはいけない。
それに、婚約者とは言え所詮は他人です。行き違いや思い違いもあるでしょう。
そうやってお互いを知り、仲を深めていけばよろしいのですよ。」
「侯爵・・・」
フランシスは言葉が出なかった。ただただ、自分が悪いのに・・・言えなかった。
こんなに自分を信頼してくれている義父になる人に、自分のバカな行いを話すことが怖くてどうしても言えなかった。
「殿下もせっかく来てくださったんです。ぜひリリアーナの顔を見て行かれてください。
あの子もきっと待っていますから。」
フランシスはジョルジュに案内され、リリアーナの部屋に向かっていた。
「ジョルジュ、色々すまなかった。」
フランシスは廊下を並んで歩くジョルジュにポツリとつぶやく。
「……お前らのバカな仕出かしは耳に入っている。」
「え?」
「王太子妃マリアンヌ様からご報告は受けているんだ。妹が心配だろうからと逐一教えていただいている。困った義弟で申し訳ないとね。」
「そうだったのか。ホントお前には迷惑をかける。すまない。」
「今回のことも知ってるよ。お前が、お前たちがただ、ただ、悪いってこともな。
リリアーナは何一つ悪くないってことをね。」
「え?それは・・・」
フランシスはギクリと目線を足元にそらした。
「お前が護衛として雇ったエミリーは、元々マリアンヌ様の手の者だ。」
「え?エミリーが?」
「ああ、マリアンヌ様の元で長い間従事していた姉妹の妹の方だ。彼女から報告を受けている。だから、お前らの行動はすべてバレバレなんだよ。まったく。」
ジョルジュは「ふぅ」とため息をつく。
「本当なら八つ裂きにしてやりたいところだが、リリアーナの幸せを信じている父上には何も言わないでおいてやる。
いいか、勘違いだけはするなよ。お前のためじゃない!リリアーナと両親のためだ。
家族が辛い思いをしないために俺の中にとどめておくだけだ。
二度目はない。覚えておけ!!」
ジョルジュはフランシスの左胸に拳を突き付ける。ぐっと押し込むその握りこぶしの痛みをフランシスはしっかりと受け止め
「わかっている。二度と同じ過ちは犯さない。ありがとう、感謝する。」
ジョルジュの拳の上に自分の手を乗せ握り返す。
握り返された手の強さを感じ、それを払いのけると
「まったく手がかかる義弟だ。二人そろって早く兄離れしてくれないと俺が幸せを逃がしてしまう。いい加減にしてくれよ。」
「言葉もない。ホントお前には頭が上がらないよ。」
フランシスは苦笑するしかなかった。
ジョルジュも苦笑しながら「ふう」と再び大きく息を吐く。
リリアーナの部屋の前まで来ると「コンコン」とノックし、「私だ」と声をかける。
しばらくして侍女がドアを開けてくれた。
部屋のドアから顔を覗かせ
「リリー、おはよう。今日はどうだ?少しは落ち着いたか?」
リリアーナは朝の身支度も終わり、ソファーに座ってくつろいでいた。
「お兄様、おはようございます。すみません。朝食に顔を出さなくて。
今日は大分落ち着きました。ありがとうございます。」
「そう、なら良かった。今日は学園も休んで1日ゆっくりしていると良い。」
「はい。そうします。」
廊下で待っているフランシスにもリリアーナの声が聞こえる。
思っていたよりも落ち着いた声で少し安心する。
「リリー、今少し良いか?体調が悪ければ無理はしなくても良い。」
「お兄様、私は大丈夫です。どうぞ、お入りになって。」
言われてジョルジュは廊下に視線を向けると、顎をくいっと上げ何かに指示をだす
ジョルジュの脇を抜け、そこからフランシスが姿を現した。
「リリー……」
目の前に現れたフランシスの姿を見て、リリアーナはソファーから飛び起き走り出した。
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