未青年
@tinanago
孤独
……カチッ。チッ……。チリッ…………。
なかなか煙草に火はつかない。湿気によるものかもしれないが、
単に自分が不器用だからだろう。
……カチッ。チッ……。チリッ…………。
パチッ…。
もわっ と燃え上がる炎に、咥えた煙草を近づける。
炎が煙草を捕まえて初めて、僕の体へと煙が入ってくる。
煙を二、三度吸い込む。そして二、三度、また吐く。
肩に背負った僕の生気が、煙に奪われて、体から抜けていく。
数秒間の僕の周りだけの静謐は過ぎ、また、雨が降り出す。
この刹那が好きで僕は煙草を吸う。
誰にも見られないように。ひっそりと。
僕は時々考えるのである。
自分は何から逃げているのだろうかと。
自分が何かから逃げていることは自分の中では、明白なものだった。
この身に感じる違和感は一体なんなのだろうか。
不思議とこの問いについて考えている間に、この言葉が脳裏をよぎった。
「大人とは裏切られた青年の姿である。」
よくこんなことを言ったものだ。
青年という域にすら達せていない僕は一体、何者なのだろう。
じりじりと炎はまだ燃えている。
色々と考えてみた。
人の目から逃げているのか? いや違う。
周りからの評価とか? いいや違う。
どれもしっくりこないのだ。
いや待てよ……。ああ。
やっと、わかった。
こんなにも簡単なものだったのか。
僕がずっと逃げ続けてきたものは、目の前にある現実だ。
もっと端的にいうならば、これからの未来なのだろう。
いつだって現実は冷酷に迫ってくる。
どれだけ足掻いても、いくら逃げ回ったとしても。
けれど、そう簡単に現実を受け入れることは、僕にはできそうにもない。
不器用な僕がそんな難しいことをできるはずがないのだ。
ああ。また新たな問いにぶつかってしまったようだ。
「自分の生きている意味とはなんなのであろうか。」
しかし、答えはすぐに出た。簡単だろう?
煙を最後に大きく吸った。そしてまた、大きく吐いた。
じりじりとまだ燃えてる炎を、僕は、踏み潰して絶やしてやった。
なんていい気分なんだ。僕はそのまま闇に手をかけた。
誰にも見られないように。ひっそりと。
未青年 @tinanago
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。未青年の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます